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14-0【走馬灯】

「あの……マネージャーさん」


「はい?」


懐かしい夕焼けの窓。見慣れた事務所。まだ駆け出しだったころの何気ない会話。何となく、私は今夢を見ている……そんな気がした。いや……夢というよりは、走馬灯? 私はまた……死んだんだ。クルミちゃんに、負けたから。私がクルミちゃんに勝てるわけないことくらい、わかっていた。私に……クルミちゃんは殺せない。


「一つ聞いても良いですか?」


「何でしょうか?」


それに私は、すでに一度死んでこの世界に来た。だからなのか、私は二度目の死をすんなり受け入れていた。それよりも……今見ている走馬灯のほうが気になった。記憶が混濁しているせいなのか……マネージャーの姿が、ラノ君になっていた。


「マネージャー、恋ってどんな感じなんですか?」


「……恋、ですか?」


自分で言っておいて顔が赤くなるのを感じた。当時の私は本当に恋が何なのかよくわかんなかったし、新しいマネージャーとは会って間も無かったから何も思わなかったけど……ラノ君の姿をしたマネージャーに聞くのは気恥ずかしい。でも、ラノ君だってまだ会って一週間くらいなんだよね……。そう思うと、もっと普通のデートとかしてみたかったな……。


「今度の新曲って、恋の歌なんですよね? どんな感じに歌ったら良いのかわからなくて」


でもこんな風に、ラノ君がマネージャーで私がアイドル活動するのも楽しそう……。来世でもしまたラノ君に会えたら、今度は……。


「以前にも言いましたが、恋愛は君に必要ない」


ラノ君の姿で、あのときのマネージャーの言葉が繰り返される。


「恋愛は未熟な人間を成長させるが、完成された人間は堕落させる」


「堕落……」


「君はアイドルとして、完成された人間だ。恋愛のような不確定要素は、君の価値を下げる」


「ありがとう、ございます……?」


当時は何となく褒められてるのかと思ったけど、今改めてラノ君の姿をしたマネージャーに言われると、そうでもない気がしてくる。


「次の曲もそういう曲だ。君が、恋を知る必要はない。強いて言えば……堕落する恐怖を、歌詞に乗せて歌うと良い」


「でも……」


「アヤメ、迎えに来たよ」


聞き慣れた声のほうに振り返ると、そこには一人目の勇者、ヒイロさんがいた。


「あ、お父さん!」


勝手に声が出る。確かに、あの日迎えに来てくれたのは私のお父さんだった。ラノ君と同じように、記憶がごちゃ混ぜになっているだけだと思う。でもそう言えば、ヒイロさんもどこか、私のお父さんと同じ雰囲気を感じるときがあった。見た目は全然違うし、私のことも知らないみたいだったから、そんなわけないことはわかってはいるけど……。


「帰ろう」


ヒイロさんが、私に手を差し出してくれる。


「アヤメの安心できる場所へ。何も考えなくていい暗闇へ。苦しみのない、天国へ……」


「……」


何となく、わかった。この手を取ったら、私はもう……。


「サイカ君は、きっとアヤメのことを蘇らせる。でもその代償は、計り知れるものではない。それに勇者であるアヤメを復活させてしまえば、彼は女神になる資格を得る」


私が初めて、嫉妬を知った日の夜。マーライオンのマーちゃんと戦っている間、女神様がラノ君に話していたこと。元いた世界で一度死んだ私を、女神様が勇者として蘇らせたように、ラノ君がもう一度死んだ私を蘇らせることで……ラノ君は、女神になる条件を満たすことになる。そしてラノ君を次の女神様にするのが……今の女神様の目的だった。


「きっとサイカ君は、アヤメを救うためなら喜んで女神になるだろう。だが女神になれば、この世界の歯車として次の勇者を召喚し、次の魔王を選び、永遠の孤独を彷徨うことになる」


「永遠の、孤独……」


「それを止められるのはアヤメ、君だけだ。君がこのまま大人しく死ねば……彼は人のまま、終わりのある人生を過ごすことができる。それこそが、この物語のトゥルーエンドだ。アヤメなら、わかるだろう?」


「…………」


ヒイロさんが、優しく微笑む。私は思わず、ラノ君のほうに振り向いていた。ラノ君は私たちに背を向け、暗くなった窓の外を見ていた。


「ラノ君……」


目の前のラノ君は何も言わない。そもそもこれは、私の走馬灯。本物のラノ君じゃない。でも……。


「でも…………!」


その背中がすごく小さく見えて、震えているように見えてしまった。我慢しているように見えてしまった。私の走馬灯だから、そうであってほしいという思いが形になったのかもしれない。


「ラノ君のこと、置いていけないよ……」


私は思わず、その背中を抱きしめていた。


「それにやっぱり、ラノ君と、みんなと、もっと一緒にいたい! デートもしたいし、またみんなと一緒に、ライブがしたい! だから、私を生き返らせたせいでラノ君が女神様になっちゃうなら……」


その前に……私がなれば良い。


「私が……次の女神様になる」


永遠の孤独も、堕落の恐怖も私は気にしない。私はラノ君に遠慮なんかしない。ラノ君だけじゃない……。誰にも負けない正義のアイドル。それがキュアソルのクール系リーダー、不死身のアヤメミーラ。


「よく言った」


「……え?」


ラノ君の姿が、女神様に変わった。振り返ると、ヒイロさんの姿も女神様に変わっている。


「「その意志を、貫け」」


私の意識は、そこで途切れた。

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