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11-2【御伽話『魔王がメイド長?!』】

「ヒューマンケイン・レディ」


僕は、お気に入りの赤い杖を呼び出した。


「セット・ゾンビ・スカル・ゴースト・スタンバイ……サイカ・ワ系ヒール、ファイヤー!」


一瞬だけアンデッド状態にしたソラさんに、治癒の魔法をかける。赤い光とともに全ての傷が塞がり、彼女の表情が少し和らぐ。ついでに彼女がいつも着ているソランケンの衣装、ツギハギの真っ黒な鎧も強化しておく。彼女たちがいた世界のフランケンシュタインの怪物という魔物をモチーフにしているらしく、薄くて軽い分動きやすいらしい。


「今の長い呪文が、賢者さんのヒール……」


「はい。ご要望通り実演してみましたが、いかがですか?」


その夜、二人目の召喚された僧侶にして、アヤメさんやルリさんと同じ、アイドルグループ|cure⭐︎soldierキュアソルジャーのメンバー、ソラさんのテントに一人呼び出された僕。するとソラさんは開口一番、治癒の魔法陣を描くよう依頼してきた。


「そうですねー。少しは安心できました。勇者に心臓を奪われた魔王は、力が半減すると聞いていましたから」


「それは……」


ソラさんは椅子に腰掛けたまま、僕を見上げる。


「賢者さんからすれば……ただの御伽話、ですか?」


御伽話……。脚色し改変されたという意味では、間違ってはいない。


「ソラさん。あなたは、召喚された勇者一行の一人と聞いています。この世界とは違う、魔法もなければ魔物もいない別の世界から、女神によって連れてこられた、と」


「そうですね」


「そんなあなたが、勇者と魔王についてどこまで知っているのか、教えて頂けますか?」


意図せず語気が強くなる。何となく、ユキ会長のときのような危険な気配がしたからだ。


「勇者と魔王……ですか? ひとまず勇者一行がこの世界に召喚されたのは、私たちが初めてじゃないってことは知っていますよ?」


「それは、そうでしょうね。あなたはこの時代一人目の勇者、ヒイロさんにも会ってるわけですし」


「同じ時代に勇者が二人存在するのは珍しいことらしいですが……確か私たちはこの世界に召喚された、九十九回目の勇者一行なんですよね?」


「……正式な記録の上では、そうらしいですね」


性質や実力次第で、歴史から消された勇者一行や魔王も、いるはずだが。


「そして今まで召喚された勇者の中で、魔王を殺さずその心臓を奪い取り、奴隷として彼女を生かすことにした男がいた」


「はい。その史実を元に創作されたのが、御伽話『魔王がメイド長?!』です」


僕ですら一度は読んだことがある、有名な作品。絵本にもなり、舞台化もされた国民的御伽話。


「性別は逆ですが、似てませんか? 賢者さんとアヤパイセンの、今のシチュエーションに」


「……どこがですか?」


「アヤパイセンは、元いた世界で過激なファンに心臓を食われて死んだ。そして女神様に選ばれ、勇者としてこの世界に召喚された……。失った心臓は、この時代三人目の魔王候補である賢者さんの、あなたの中から調達して」


ソラさんが、僕の空っぽの胸を人差し指で触れる。


「……僕の心臓のことは、誰から?」


「さあ、誰からでしょう? こう見えて私、情報収集が趣味なんですよー?」


はぐらかされたが、さっきルリさんから聞いた可能性もある。二人は同じアイドルグループのメンバーだったわけだし、ありえない話ではない。


「御伽話の中では、勇者と魔王が結ばれてハッピーエンドを迎えるそうじゃないですか。良かったですね!」


「御伽話の中では、です。情報収集が趣味のあなたなら、記録に残っている史実もご存知なのでは?」


するとソラさんが立ち上がり、その指を僕の口元へ向ける。


「こう見えて私、トゥルーエンドは嫌いなので」


「……」


心臓を失ったことにより心を失っていった魔王は、次第に生き物の心臓ばかりを食するようになった。そして最後は勇者の心臓に手を出してしまい、その事実に耐え切れず自ら命を絶った。記録には、そう残っている。


「賢者さんはアヤパイセンと、御伽話のほうの台本通りにハッピーエンドを迎えてもらわないと。そうすれば、ルリパイセンの肩の荷も降りるはずですから」


「ルリさんの……?」


「アヤパイセンとしばらく過ごしてみて、ルリパイセンの苦労が少しはわかったでしょ?」


思っていたより背の低いソラさんが、僕の顔を覗き込む。


「苦労、ですか……? まあ確かに、少し危なっかしいところはありますが……苦労というほどではありませんよ」


「その感想が出るということは、どうやらまだまだ、アヤパイセンのことわかってないみたいですね」


ソラさんはその指先を僕の胸の辺りに下ろすと、服の上から爪を立てた。


「かつての同期として一つアドバイスしておきますが……自分に正義があると確信しているときのアヤパイセンは、手強いですよ?」


「は、はぁ……」


それだけ言うと、ソラさんは再び椅子に腰掛ける。


「そういえばアヤパイセンが、昼間のスライムゴブリンのことで見てほしいものがあるって言ってましたよ?」


「見てほしいもの……?」


「さっき、湖のほうへ向かったみたいです」


アヤメさんも気づいていたのか。あの量とタイミング、あれは恐らく野生のスライムゴブリンじゃない。魔王によって差し向けられた、刺客の可能性が高い。


「わかりました……忠告ありがとうございます」


「いえいえ、ご武運をー」


僕はソラさんのテントを後にし、森の湖へと向かった。

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