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「…これ、普通のパソコンと同じ操作ってことでいいんですか?」
「あんたもしかしてパソコン触ったことないの?」
「それは嫌ってくらいにあるんですが、俺の知ってるのとノリが違うっていうか…」
「ちょっとエイちゃん、新人くんがバカなこと言ってるんだけど。普通のパソコンと同じでいいのか?って。パソコンはパソコンでしょ?」
女は、電話の向こうの応答が終わるのを待ってから、俺に回答した。
「同じだって、普通のパソコンと。キーボードはJIS規格準拠とか言ってる」
普通の日本式キーボードってことか。でも、インターフェースが普通じゃない。プロンプトの表示があるのみ。たぶんCLIってことなんだろうが、LinuxコマンドもWindowsコマンドも効かない。
「ログインコマンドすら通らないんですけど、これOS何ですか?」
女は、また電話の向こうの応答が終わるのを待ってから、俺に回答した。
「しーべーす」
「いや、CでもC++でもいいんですけど、何の言語で組まれてるかじゃなくて、このOSが何なのかって聞いてるんです。名前がわかれば調べますんで」
「OS名がしーべーす」
「聞いたことないディストリビューションですね」
携帯で検索してみるか?
「調べても無駄だよ。ウチのオリジナルで、公開してないから」
台パンしそうになった。
「じゃあ、電話の人に聞いてもらえますかね?とりあえずログインコマンドから」
女は、さらに電話の向こうの応答が終わるのを待ってから、俺に回答した。今回は相手の回答にも少し時間がかかっていた。
「ダイブ・ブルー・シー。divebluesea」
厨ニ病だな。無駄に長いし。
「申し訳ないですけど、たぶんこの調子だと全部聞くことになるんで、作業にならないですよ」
「いいから打ち込んで」
渋々ながらも入力すると、ユーザー名とパスワードを求められたので、それも電話越しに聞いた。認証情報にあたるため、この場では秘匿しておく。一応はSEとしての、俺のルールだから。
俺がユーザー名とパスワードをダブルチェックしてる最中に、女は言った。
「ようこそ、我らが秘密基地へ」
しーべーす。seabaseってこと?
ダブルチェックを終えたうえでエンターキーを叩いた。そういえば、こんな感じで俺はクビになったんだっけ。
何かしらの起動ログが走る。
そのログが止まったと思ったら、真っ青な画面になった。
「これが御社の基地のエントランス、通称ブルーシーとかですか?」
女は、電話の向こうに聞いてから、俺に回答した。
「ただのブルースクリーンだって。エイちゃんは、もうやられちゃったんじゃないかって言ってる。ヤツらに」
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