03
通された先は、システム会社ってよりも、不動産だか法律だかの事務所という感じだった。何というか紙が多いし、雑然としている。化石みたいな分厚いバインダーも目につく。いくつかある机に申し訳程度にタワー型サーバーが添えられてファンを回していて、この空間が一応はシステム会社らしいってことを主張していた。ブ〜ン。女は、部屋の奥中央の机に陣取った。
「で、あんた誰の紹介でウチを知ったの?」
「え…」
答えようとして、ヤツの名前も知らないことに気が付いた。
「なんか眼鏡をかけた男に」
「そんなのいくらでもいるだろ?まぁいいや、何の縁もないやつがこんなところに、そんな恰好で突っ立ってるわけもないし、人手不足はいつだってだし」
席を促されて、向かい合う形になった。
「あんた前職は?」
「SE、やってました」
「あら奇遇。同業者だったわけ。握手」
「あ、はい」
「ウチらみたいなことしてるのが他にもいるとはねー」
「たくさんいると思いますよ」
「そうかー。どうりで儲かんないわけだ」
「たしかに儲かってなかったすね、前の会社も。ほぼ俺と社長だけで回してたって言うか、回せてたって言うか…」
二人で同時に、同じような溜息をつく。なるほど、同業者って感じだ。
「あんたさ、どうして転職しようって…」
ビー!ビー!
けたたましいサイレン音。
「なんすか、地震!?」
「違う。何者かにハックされてるって合図」
女はスモートフォンを取り出して音を止めた。そのまま続けざまにコール。俺にしばらく待てのジェスチャー。
「もしもし、エイちゃん?」と、通話が始まった。見つかった?とか聞いている。うん、うん、と頷き、アチャーとか言って考えこんだりもしている。通話の相手は社員だろうか?
それにしてもハックって、あの申し訳程度のサーバーに?
「わかった。でも、今は誰も動けないから、何か考えないとだよね」
電話の向こうがモゾモゾと話している。話しているようなのだが、女は大して聞きもしないで、俺の方に目をやった。
「あんた、パソコンできるの?」
「普通のSE並みには」
「合格。今この瞬間から試用期間ってことにするから、後でこの書類にサインして」
「はい。あの、試用期間ってどのくらいなんですか?」
「そんな話は後。今は侵入者に対処しないと」
女は自分のスマートフォンをいじっている。
「サーバー707、コンソール展開」
蒸気を吹きながら、一台のサーバーがトランスフォームしていく。まるでゲーム系配信者のデスクよろしく、ディスプレイとキーボードが自律展開した。
「パソコン操作頼んだわよ。私は仲間に連絡取るから」
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