02
「暑いなー。こんな時期にこんな服装やってられっかよ」
何年振りかのオーダースーツで、ボロビルの前に立っている俺。表からいくらビルの方を見ても看板の一つも出ていない。中に入ると、壊れかけのポストが並んでいる。
「電話番号もねぇからいきなり来ては見たけどさ…」
カードを取り出してポストの名義を確認していく。こんな場所に、あんないけ好かない野郎が懇意にしてるだろう会社があるはずが…
「あった」
401のポスト。社名、『SSE株式会社』。
「4階か」
この手のボロビルにありがちな、ムダに急な階段を上がる。昭和の人間は、一体何を考えてこんな設計にしたのやら。って、俺もほとんど昭和か。上り切った場所には白いドア。すっかりくすんでいて、どちらかと言えば黄色に近い。社名らしき記載の一切が無いから確証は持てないが、401ではある。ドア横のチャイムを押してみた。ウンともスンとも言わない。
「すみませーん」
ドアを叩く。金属の重い音が響く。響くだけ響いて、誰かいるって感じはしない。
「すみませーん」
さらに強く叩く。でも、俺が多少強く叩いたからって、誰もいない場所に誰かが生まれるわけじゃない。
「それ以上やったら通報するよ」
生まれた。ただ、扉の向こうでじゃない。階段下から女性の声が上がってくる。
「建物間違えてんじゃないの?そこ、人の家だよ」
「はい?」
「人の家っつか、私の家だけど。ほらどいた」
若い女だった。とりあえず、俺よりは若そうな感じの。ジャラジャラと鍵を取り出す。
「なんか仕事っぽい見た目だけど、セールスならお断りだよ。てか、こんな明らかに金の無さそうなとこに来るなんて、センス無いね」
「ここ家なんですか?会社だって聞いて来たんですが」
鍵を捻ろうとする手が止まった。明らかに訝しむようにこちらのことを見てきた。
「……何しに来たの?」
「面接に」
「面接?」
「いや、働きたいなぁと思いまして」
頭の上からつま先まで、舐めるように見られた。
俺は思い出して、ヤツから渡されたカードを女に見せた。
「ほら、御社の住所ですよね、ここ」
女は、カードのことも舐めるように見て、俺の手からぶんどった。それからもう一度俺のことを量るように見て、ドアを開けた。
「ようこそ、ス-パーSE株式会社へ」
あんまり歓迎してるようには感じられないし、名前もクソダサかった。
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