表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

06 理想のお屋敷をつくるのだ

「お爺……阿佐田さん達は、ここに住むの?」


 河東さんの問いに、わたしと細川さんは顔を見合わせ、楽しい計画を語った。


 この異郷に、理想のお屋敷をつくるのだ。


 作ってどうする、なんて考えない。

 作って、完成したら別にそこで終わりでいい。

 先のことも周りのことも考えず、好きなことを好きなだけするのだ。


「いいなあ……そういうの、いいなあ……」

「いいだろう? 河東さんも、榎木君も、せっかくわたし達のところに来たんだ、『遊んで』いきなよ」


 どう誘うか、わたしは迷ったのだが結局「遊ぼう」と誘った。

 まだ何も判ってない幼児だった頃みたいに。

 無責任に、その場だけの、楽しい時間だ。


 それで正しかったようで、河東さんと榎木君はわたし達の遊びに加わってくれることになった。

 まずは二人の部屋を増設しなくては。

 全員で外に出て、細川さんが屋敷をドールハウスに戻す。

 一度細川さんのスキルを通してしまうとわたしのスキルではもう操作ができない。

 なので、ドールハウスに戻った屋敷をお手本にして、同じものを作り出した。


 二階の部屋をそれぞれ二つに壁で仕切り、ドアを付け、天蓋付きベッドも増やす。

 榎木君がベッドを見て「えっ……?」と言っていたが、同じものをコピーする方が楽なのだ。

 天蓋のカーテンは細川さんにアドバイスを願い、前よりは洒落たものになった、と思う。


 昨夜の反省点として畳敷きの小上がりも角に作り、布団を一組乗せる。

 「ベッドが二つ?」と河東さんが首を傾げていたが、まあ使い方はそれぞれだ。

 後は一階に新しく絨毯を敷いたり、バルコニーのテーブルセットを増やしたりした 。


 ドールハウスを囲んでみんなでワイワイと盛り上がり、小腹が空いたらパンをかじった。

 若者二人にベーグルだけは可哀想だったので、あんぱんの残りを提供すると喜ばれた。

 細川さんの「パンと水生活のトイレ予想」を話すと、河東さんがあからさまにホッとしていた。

 女の子には重要問題だろうなあ。


 そしてひとまず完成したハウスに御影石の土台をつけて地面に置く。

 細川さんが実物大へとサイズ変更し、お屋敷プロトタイプ二号が竣工した。


 今回のお屋敷は二階の部屋を二つに割ったのに加え、一階の大階段裏、二階ホールの真下あたりをガレージにした。

 ガレージといっても要は壁と柱の位置を変えて外に開いたスペース、ピロティを設けた。


 ミニチュアにはミニカーだってある。

 ミニカーをわたしが作り、細川さんが実物大にしたら、榎木君の整備士スキルで何かできるのでは? という案が出たのだ。

 現状誰もこの丘から移動するつもりはないのだが、榎木君の楽しみに協力したい。


 まずは軽トラから出してみた。馴染みがあるからだ。

 だが集中しないとお菓子のおまけのような曖昧なものになってしまう。

 今日は河東さんと榎木君が加わったことで、気持が乱れている。

 切り替えに時間がかかるのが年寄りなのだ。


 大分パーツを端折られた軽トラを前に、榎木君は座り込んであれこれ触れて考え込んでいる。

 集中させてあげよう、とわたし達はそっと離れた。


 二階のホールにソファセットを置いたので、わたしはいったんそこで休憩にした。

 河東さんは巨大化した細川さんの水筒に感動し、水を水瓶に移すのを手伝っていた。

 水筒はやっぱり大きさを変えても満タンになる仕様だった。

 寝る前に水瓶に移すようにすれば風呂だって入れそうだ。

 汚れを落とす意味では必要ないかもしれないが、女性陣には気分転換の意味であれば嬉しいかもしれないし。

 ああでも、湯にできないのか。

 やはり火が欲しいなあ。

 虫眼鏡を作ろうかと思っていたら、細川さんと河東さんが上がってきた。


「あ、あたしノーマライゼーションの使い方で、試してみたいことが、あって」

「阿佐田さん、ろうそくのミニチュアを作ってみてくださいませんか」


 二人に言われ、お安い御用とばかりにろうそくを一本、思い浮かべる。

 ろうそくだけというのが意外に難しかったので、燭台ごと作った。

 三本に分かれている、あれだ。


 これを実物大化すると、台座部は真鍮で、ろうそくの蝋の部分は蝋で、中にちゃんと糸の芯が入っている。ここまではいい。

 だが炎の部分がオレンジ色の半透明なプラスチックというかレジンというか、なんだかそういうものがくっついているだけなのだ。

 これはミニチュアをつくる段階でそれぞれの素材を意識して構成しても「炎のミニチュアってなんだ?」というわたしの常識観が作用するのだと思う。

 なので、炎を模したレプリカを被ったろうそくが誕生する。


 河東さんは燭台を手に取ると、ろうそく部分をじっと見つめ、「正常化」と呟いた。

 ボッと音がし、蝋の溶けるにおいがした。


「えっ」


 河東さんの持つ燭台のろうそくに火が灯っている!


「ええー?!」


 驚いた。そりゃあ驚いたさ。河東さんはその調子で三本のろうそく全てに火を付けた。


「こ、これ、火の点いたろうそくじゃん? なのに、違う。正しくなーれって、正しい状態に、するんだよ」


 河東さんの説明はよく判らなかったが、細川さんとは通じ合っていた。

 細川さんの物差しもよく判らないし、なんだかそういう、感覚的に使うスキルなのだろう。

 ともあれ、こうしてわたし達は「火」を手に入れた。

 ……のだが、火事が怖いので当座の出番はなく、パンを炙るにしてもろうそくの火で炙るのはちょっと何か違う……ということで、次のお屋敷には暖炉を作ろう、という話に落ち着いた。

 河東さんのスキルは後日、威力を発揮する。



ちょっと短いのですが区切りがよかったので。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ