おでこの三日月
ボクとお揃い。
グーンと大きく身体を伸ばして、ふと空を見上げると白くて細い三日月が浮かんでる。ボクは自分のおでこの三日月を撫でる。
空の三日月とボクのおでこの間にいるのは人間のお姉さん。ねえ、とボクはお姉さんに声をかけるも、お姉さんは生返事をするだけ。お姉さんはこうして家にいるのに、夜になるまでボクとは中々遊んでくれない。
ボクはお腹を見る。ぽっこりと膨らんでいるお腹だが、中身は空っぽに違いない。だって、ボクのお腹はペコペコなのだから。
ペコペコのお腹に、お姉さんの顔越しに見える三日月。ボクはあの日のことを思い出す。
冷たいのに、熱い。お腹はペコペコなのに、ご飯を探す元気はない。
身体が重い。目を開ける力もない。
誰か、助けて。
最後の力を振り絞り、ボクは助けを求めた。
すると、ガソゴソと草木をかき分ける音がした。薄っすらと目を開けると、一人の人間がいた。
「こんなところに猫!? 嘘、ちっちゃ!」
猫ちゃん、と人間がボクに呼びかけるも、ボクはまた目を閉じる。
もう、駄目かもしれない。
そう思っていると、身体がふわっと浮く。
猫ちゃん、猫ちゃん、と呼びかける人間の声とぐらぐらと揺れる振動。
ボクを助けてくれるの?
薄れゆく意識の中、力を振り絞ってボクは目を開ける。揺れる視界に息を荒げる人間の顔、そして、ボクのおでことお揃いの三日月が見守るかのように静かに輝いていた。
それがボクとお姉さんの出会い。ボクはお姉さんに助けられて以来、こうして一緒に暮らしている。
ねえ、とお姉さんにまた声をかけるも、今度は返事なし。もう、とボクは足に力を入れてお姉さんの膝の上に飛び乗る。
「ちょっと、ミカ」
お姉さんは目を丸くしてボクを見下ろす。お腹空いた、と言えば、お姉さんは時計を見る。
「もうこんな時間か」
ご飯、とボクは訴える。
お姉さんはグーンと大きく伸びをすると、窓の外に視線をやる。
「あ、三日月。ミカとお揃いだ」
そう言ってお姉さんはボクのおでこの三日月を撫でる。
『三日月の夜に出会ったおでこに三日月模様のある猫ちゃん。三日月に縁があるから、君の名前はミカだ』
元気になったボクにお姉さんはそう言った。
「ご飯にしよう」
お姉さんはボクを抱き上げると床に下ろす。
「ミカ、大きくなったね」
そう言って笑うお姉さんの口は三日月みたいに弧を描いた。何だかわからないけど、嬉しそうなお姉さんに、ボクは尻尾を立てる。その尻尾も三日月みたいにしなった。
お姉さんの視点→「幸せな寝言なら」https://ncode.syosetu.com/n6014jv/