【読み切り】魔術師一族に生まれた俺は、魔眼を持たないだけで追放されました。一族にイジメられ冷遇されたが、秘伝魔術で魔眼を覚醒した俺は、大魔術師の転生者と言われる本家のお姫様の使い魔となり成り上がる
新作短編小説になります。
カクヨム様にて先行掲載させて頂いております。
先ずは小説をタップしていただいて、ありがとうございます。拙い作品では御座いますがよろしくお願いします。
約100年前。
この国は無謀な事に、4つの列強とその従属国家対、我が国を含む3つの列強で戦争が起こった。より簡単に言えば世界を相手にした大戦争が起こったのだ。
しかしその理由は定かではない。資源、食料、水、経済、宗教など様々な理由が挙げられているが、それは本質の一端でしかない。
純粋な兵力・工業力で劣っている三国にとっては負け戦と決まっている様な無謀な戦いであった。
そんな大戦の最中。
大きな屋敷の一室に二人の若い男女が居た。
年のころは二十ほどに見え、黒を基調とした軍服を着ている。どう贔屓目に見ても、分不相応であり地位や権力金にモノを言わせ身分を金で買ったと言われても不思議はなかった。腰にはサーベルと拳銃、それにポーチがぶら下げられており異様な雰囲気がある。
「やはりお気持ちは、お変わりにならないのですね……」
長い雪の様に白い白銀の長髪の年若い女性が、テラスに置かれた椅子に座りワインを飲む男に尋ねた。
「あぁ……宮廷魔術師団団長など請われてもやるべきではなかった……だがそのお陰で、俺の野望……その一端を託すことが出来た」
「ランドル様では……」
「あぁ護神計画をやる……パトロンが煩くてな……大丈夫だ。魂を操る魔術はウォード家の秘奥義。俺ならばやれないことは無いだろう」
「しかし! 失敗すれば……」
女は感情的に叫んだ。
「もちろん。俺も要である御子もただでは済まない……」
女性は絶対の信頼を置く、団長が失敗の可能性を考えており。しかもその可能性が低くない事に気が付いて絶句した。
「大丈夫だ」
ランドル・ウォードは優しく語り掛けるような口調で女性を諭した。
「……ではお待ちしても? よろしいでしょうか?」
「……待つな。俺が死んだらどうする?」
「では死なないでください……私はいつまでも貴方を待ちます」
「これは一本取られたな……魔術とは世界を騙す技術だ。俺の嘘を見破るなんてな」
「いつまでも貴方の後ろを着いて回るだけではないんです。ではご武運を……何年経とうとも貴方を待ちます」
女の言葉にランドルは、押し黙って答えた。
………
……
…
一族が集まる年中行事を行うため分家を集めたのは、ウォード本家の当主アドルフ・ウォードであった。そのため大人たちは会議へと駆り出され、俺を含めた子供たちの多くは、親睦会問名前の子守を押し付けられていた。
特に俺は、魔力はあるものの魔力を扱うために必要とされる能力である魔眼がない。だから俺はウォード一族の中でも冷遇を受けていた。
子供の面倒を見ることに疲れ、少し休憩をしていると……
「流石没落したとはいえ、この国の魔術師を束ねる宮廷魔術師団団長を長年務めてきた魔術の宗家だな……」
そう呟いたのは、真っ赤な赤髪を三つ網に編み込んだヒモで、無造作に纏めた少年……悪友のデーヴィッド・アダム・スミスだった。
コイツは親父が開いている魔術治療院の患者であり、諸事情で数年単位の経過観察が必要なため、都会の親元を離れて家に住みながら暮らしている。そのため時々家の手伝いもしてくれる気のいいやつだ。
「そりゃそうだ。何せ今だに名前だけは有名で、歴史の教科書には絶対に名前が出る。大魔術師ランドル・ウォードの一族だぜ? それはそうと今夜は行くんだろ?」
「あぁもちろんだ。こんな面倒な事やってられるか」
二人で雑談をしていると、突然。
「悪魔憑きのデーヴィッドに出来損ないのイーノスか……神聖な聖十三家に連なるウォードの屋敷には、到底相応しくない早々に立ち去れ……」
そう俺達に言い放ったのは、俺と同い年のカーティス・ベニントン。
よく目立つ緑髪の少年であり、一族の少年少女達の中でも特に強力な魔力を持つ魔術師でありそのため、当主の孫娘マーティナの【使い魔】として最有力の存在であった。
使い魔。それは魔術師にとって、相棒やパートナーと言われる存在であり、古くは人間や犬猫等の動物や霊的存在である魔獣が使われてきたが、近年では魔術人形が主に使われている。使い魔は、魔術師にとっての手足にして盾とでもいうべき存在であり、近接戦闘が苦手な現代魔術師にとっては、自身が対応できない物事への補助などを意味する存在だ。
だから古い魔術師の家系であるウォード家では、分家の人間を使い魔とする風習が今も根付いており、俺の父マイケルも次期当主チェイスの使い魔をしている。
本家の一人娘マーティナの使い魔候補筆頭のカーティスの言葉に、周囲の大人や同年代も便乗したように口々に不満の言葉を吐露した。
「魔力の見えないお前なんぞ居ない方が一族のためだ。そっちの汚らわしい悪魔付きなど一族の物ですらない……ご当主様も、チェイス様も何を考えて居られるのか……」
「全くその通りですよ……」
「悪魔付きなど、このウォードの門をくぐらせることすら憚られると言うのに……マイケル様もおウォードの為を思うのなら、封印を強固に感情も縛ってしまえば楽なものを……」
こ、コイツ! 危険だからと言う理由だけで、感情を無くさせるような封印をしろと言うなんて! 許せない! デーヴィッドが悪いわけじゃない。事故に巻き込まれて偶然生き延びてしまった……そうしたら今度は死ぬよりも辛い。生き地獄とも言うべき差別に苦しんだコイツに、感情を消せと言うなんて!
俺が怒りのあまり全身が震えて、今にも飛び掛かりそうになった時。背後からしゃがれた声や地の底から響くような低い声が聞こえてきた。
「貴様ら何を騒いでおる……」
声のする方を見ると、共を連れ立った老人達が表れた。
老人たちは、ウォード一族の意思を決定する大老と呼ばれる。分家の代表者で全員が一流の魔術師としての技量を持つ怪物共だ。
先頭に立っているのは、分家筆頭アラスター・ターナーだった。
「アラスター大老……」
「お嬢様の使い魔候補筆頭のカーティス・ベニントンではないか? 揉め事か……」
そう言うと俺達の方を横目でチラリと見ると、長い顎鬚を親指と人差し指で数回。摘まむようにすくき目を閉じて、数秒思考した。
「イーノスと悪魔付きの少年よ……我らウォード一族はただでさえ、分家のブラックウッドめに辛酸を長年舐めさせられている……一族の縁者に悪魔付きが居ることが判れば、彼奴らが宮廷魔術師団団長の座を我ら、ウォード一族から奪い取られ、碌な役にも付けていなんだ……」
大老達はうんうん。と頷きアラスターの言葉を重ねるようにして、他の大老も言葉を紡いでいく……
「あぁ今年は中興の祖にして国家への反逆を行った。かの大魔術師ランドル・ウォードが一族内に転生して十五年……」
「憎たらしいことに貴様も転生者候補である故……今まで飯を食わせてやったがよりによって、悪魔付きのゴロツキとつるむなど……言語道断! 貴様らを一族から除名し追放するように……我ら長老集が進言するつもりだ……貴様が若君の使い魔の子と言えど我らの忠言をご当主様が無視するとは思えんのでな……」
「なッ!!」
「……」
俺とデーヴィッドは言葉が出なかった。
「ワシが断言しよう。イーノス貴様は魔術師には絶対に成れん! 何故なら魔力を視て操るために必要不可欠な魔眼を持っておらぬからだ。マーティナ姫の使い魔になど絶対に成れぬよ……分不相応な夢は諦めウォードの御名は捨てるのだな……」
俺は無茶無謀であるという事は、わかっていた。わかっている。積りだった……「俺はマーティナの使い魔にはなれない」その事実を、実力を持った魔術師に面と向かって言われたことで、心に来るものがある。
「そうだぞ、不相応に剣術や体術などを磨いたところで、魔術を使えぬ使い魔などただの木偶の坊にしか過ぎないんだよ! あはははっはははは」
カーティスが何かを言っているが、耳が遠くなったかのように何を言っているのかボンヤリとしか聞こえない。否、聞こえてはいるのだが意味が理解出来ない。
「ふざけんな!」
しかし、その一言で我慢の限界に達したデーヴィットは同時に立ち上がり、カーティスや大老に向かって叫ぶ。
「コイツがどれだけ一生懸命武芸に励んだと思っている! 手には豆が潰れた跡が残っているぐらいだ」
「それがどうした?」
「ふんっ……事実を言ったまでだ何が悪い?」
「何だとこの野郎!!」
そして、そのまま殴りかかろうとするデーヴィッドであったが……
「何があったんですか?」
その言葉を聞き、俺とデーヴィットは慌てて振り返ると、そこには呆れた表情を浮かべている一人の少女の姿があった。彼女は、当主の孫娘マーティナ・ウォード。
マーティナは、興味深そうな視線をこちらに向けている。
即座に今まであったことを何となく理解したのか。
「まったく……貴方たちは少し落ち着きがないところがありますね……少しは使い魔候補としての自覚を持ってください」
マーティナは、そう言って俺たちを諌めた。
その言葉で大老の意向は、当主の孫娘によって潰された形になった。
彼女の後ろでは、苦笑いをしているもう一人の男が立っていた。
それは俺の父マイケル・ウォードだった。
そしてその背後に居た男性は……
「すみません旦那様。私の息子たちが粗相をしてしまって……」
「構わんともマイケル。それにしても珍しいじゃないか? 普段は仲の良いイーノスとデーヴィッドたちが言い争うなどとは……」
「いやぁ〜ちょっとした冗談ですよ〜」
そう言ってへらへらと笑うデーヴィッドだが、目が笑ってなかった。
まぁ当然だよな……先に喧嘩を売ってきたのはカーティスだ。それに少し言い返したからと言って、コチラが悪いと言われてしまうのは腑に落ちない。
そんなことを考えていると……
旗色が悪いと考えたのか大老達はその場を後にした。
暫く。他愛もない会話をしではという事になり、俺、デーヴィッド、マーティナ、カーティスでお茶会をすることになった。
暫く気まずい雰囲気の中、突然「あら?」と、声を上げたのはマーティナだった。
彼女は何かを見つけたのか窓の外を見ており、それを見た俺も同じように視線を向ける。すると、そこに居たのは見慣れぬ軍服を着た白銀髪の女性だった。
その姿はとても美しく、思わず息を飲むほどだった。
だからだろうか? 彼女のことが気になった俺は、無意識のうちに椅子から立ち上がると玄関の方へと向かっていた。
デーヴィッドが突然立ち上がった俺の行動に、疑問を持ったのか声をかける。
「おい! イーノス! どこに行くんだ!?」
「トイレだ!!」
俺はそう言うと部屋を出ていき、その後ろ姿を見てデーヴィッドがため息をつく。
「ったく……相変わらずガキみたいなやつだな……」
「……」
カーティスはイーノスのことをジッと見ていた。
「それにしてもあの女性は一体誰なのかしらね……? 随分と古風な装いだったけど……」
マーティナだけが、不思議そうに首を傾げるのであった。
………
……
…
「あれ……可笑しいな少し前までは、ここにいたハズなのに……」
俺が辺りを見回すが、先ほど見かけた銀髪の女性はの影はなかった。
「魔術でも使ったのかな……」
そう言いながら辺りを見回していると……
「おい! このグズ!」
そう言って声をかけてきたのは、カーティスだった。
どうやら俺を追ってきたようだ。
「何か用か?」
「もしかしてまだ諦めてないのか? 使い魔になる事をよぉ!」
「だとしたら?」
俺はマーティナの使い魔になりたい。だが、今ここで使い魔になりたくないと言えばカーティスからの暴言は、少しは落ち着くであろうがそれは自分に嘘をつくことになってしまうそうしたら、ただでさえコイツのせいで逃げ腰な生活になってきている……今逃げたらきっと後悔する。
それに俺はマーティナのことを憎からず思っている。
「お前のようなグズが、マーティナ様の使い魔になれるわけがないんだよ! 分かったならさっさと失せろ!」
「諦めるつもりはない」
「失せろ! 無能が! 目障りなんだよ、お前もあの悪魔付きも!!」
「お前に指図される理由はない!」
「この魔眼無しの無能野郎がぁぁぁぁああああああッ!!」
刹那――――。
人の頭程の大きさの火球が瞬き程の速さで生じると、カーティスの怒りの感情に呼応するように、熱量を上げて俺の方へ飛来する。
これが魔術。
世界を騙す選ばれた人間にしか使えない御業であり、俺が本来できなければならないモノ……
まるで世界が止まったかのようにゆっくりと見える。
あ、俺ここで死ぬんだ……
そう覚悟を決め目を瞑ろうとした瞬間。
白銀の長髪に黒を基調とした古い軍服を着た長身の女性が、俺とカーティスの間に割って入っていた。
「はッッ!!」
女が声を発すると、魔術によって生じた火球はまるで何もなかったかのように霧散した。
「誰だよお前!? 何をしやがったッ!!」
カーティスが驚いたように叫ぶが、その表情には余裕がなく、明らかに動揺していた。
それも仕方ないだろう。何しろ突然現れた女性が何をしたのか、カーティスの技量では全く分からなかったのだ。
「ウォード一族の末席に古くは名を連ねた者とでも言いましょうか……まぁ相談役とでも考えてください……」
「ふざけるなッ! 古い軍服何か着やがって! お前なんか見たことないぞ! それに相談役は大老達だ!!」
カーティスの言葉を聞いて思い出したが確かに女性の服装は、確かに古めかしいデザインをしていた。
黒を基調とした色合いに腰にはサーベルとリボルバー式の拳銃、それにポーチがぶら下げられており、カーティスの言う軍服に俺には見えなかった。
「おや、ご存知ありませんか? 私を?」
女性は首を傾げながらそう言うと、カーティスの顔を見て不敵に微笑む。
確かに一度見れば忘れないような美人であり、自信満々のドヤ顔で言う物だからもしカーティスが、知らないとでも言えばただの痛い人である。
「知らないね! そんな奴!! どけよ、そこを退けぇえ!!!」
カーティスが再び魔力を集め始めるが、女性は一切動こうとはしない。それどころか、まるで興味もないような素振りを見せていた。
「あなた程度の人間が私の道に立ち塞がるとは……片腹痛いですね……」
女性が冷たく言い放つと、カーティスが顔を真っ赤にして再び魔術を行使しようとする。
しかし、今度は発動すらしなかった。
「なんで……どうしてだ……? こんな事今まで一度も無かったのに……!」
カーティスは自身の身に起きている事が理解できず、牙を剥いて威嚇するが、それを気にも留めずに女性はカーティスに近づいていく。
そして目の前まで近づくと、カーティスの額に手を当てた。
「哀れなものですねぇ……いいでしょう特別に見せてあげます……」
次の瞬間。
眩く白い光が周囲を包み込み、思わず腕で顔を覆う。
やがて光が落ち着くとそこには……。
「はい、これで大丈夫ですよ」
先ほどまでの険しい表情とは違い、満面の笑みを浮かべた女性が立っていた。
「なんだこれ……どうなってるんだ?」
カーティスが自分の手や身体を確認して呆然と呟いていた。
「ふぅ……久々に魔力を使いましたから少し疲れてしまいました今のは、ただ君の魔力より濃密な魔力で君を多って君の魔力を握り潰しただけです。」
そう言って額の汗を拭う仕草をするが、別に疲労している様子はなかった。
「どういうことだ、お前一体何者なんだよ!!」
カーティスが吠えるが。
「私は通りすがりの軍人ですよ、ではさようなら」
そう言って颯爽と立ち去ろうとするが、俺は見逃さなかった。
スカートの裾から見えた太ももにホルスターが見えていたことを……
「待って!」
女性は何も言わないままこの場を後にした。
その後はカーティスの取り巻き対俺一人という、数の暴力と普通の喧嘩へと発展して数人を道連れにして、すごすごと城のある山を降りて街へと繰り出しデーヴィッドと約束の時間まで暇を潰すことにした。
………
……
…
「すごいな……」
俺、イーノス・ウォードは感嘆の声を上げていた。
町のレストランで料理が出て来るまでの間の時間つぶしの為に、読んでいた新聞には魔術師達の活躍が書かれていた。
内容を要約すれば、剣聖オウェン・ウィリスと言う大魔術師が、王都に現れた魔獣を討伐したというものだった。
魔獣とは変質したオドによって生まれ。オドとは大気や万物に満ちた万能エネルギーの事であり、常に揺蕩い揺らぎながら全体としての偏りはありつつも、安定している。
ところが時として、オドの揺らぎが極端に偏り著しく均衡を欠いてしまった時オドは、生物にとって有害なオドである【瘴気】へと性質を変え、更にその偏りを極端なものへと変えていく。
そして、自然界が持つ拡散・放出作用の限界を迎えた時、瘴気によって汚染された生物――魔獣が生まれる。それを討伐する事が宮廷魔術師団の主な任務だ。
俺が街の新聞売りから買った新聞を読んでいると……
「どれどれ……王都にて大魔獣発生するも、宮廷魔術師団の活躍によって浄化……今回大活躍したのは、剣聖オウェン・ウィリス。彼の正体に迫る! って……どこの三文記事だよ……イーノスも大衆紙じゃなくて、ジャストタイムズとか貴賓紙を読んだほうがいいぜ」
「ちょっと返せよ……デーヴィッド!」
デーヴィッドは、カラカラと笑い「ほらよ」と言って新聞を投げ返した。
「剣聖オウェン・ウィリス。王国において数少ない一級の魔術師……英雄みたいな存在だからな……おまえも知ってるだろ?」
「あぁ魔術師は国家の戦力として、そして王都などに現れる魔獣討伐のため大勢いるがその中でも、国家認定魔術師一種の認定を受けた魔術師は、死没者含めて百人ちょっと……まさにエリートだよ……」
「マスコミや民衆は賢人なんて呼ぶけどな」
そんな話をしていると、店員が料理を配膳していく……テーブルの上には貝と乾燥キノコのクリームスパゲッティとシーザーサラダ、Tボーンステーキ、バゲット等の料理に、赤ワインのボトルとグラス二つ並べられており、豪勢な夕食となっていた。
「じゃぁ食べますか」
「そうだな」
暫くすると小食のデーヴィッドは食後のコーヒーを楽しんでいたが、俺はまだスパゲィが半分ほど残っていた。
「最近この手の新聞が多いな……」
「まぁ仕方ない……火事と喧嘩は王都の花と言うが、百年前の出来事のせいで、王都もすっかり変わってしまった……そのせいで、魔獣と魔術師の死闘が王都の花になったからないい意味でも、悪い意味でもな……」
「……まぁ王都近辺以外は平和なもんだがな」と、デーヴィッドは小さいカップの中に並々と注がれた濃いコーヒーを一気に煽り、自分の失言を大げさにせず他意があると受け取られない様に、精一杯平静を装った。
「なんだ? おばさんが心配なのか?」
「別に俺を捨てた母親の事なんぞ今更どうでもいいだろ?」
「……」
「まぁこっちのぬるま湯みてぇな平和な生活も悪くはないしな……」
「嘘くせぇ……札付きのマフィア予備軍だったデーヴィッドが、平和な生活も悪くないって何の冗談だよ」
イーノスはツボに入ったのかゲラゲラと、腹を抱えて笑い息が苦しくなってきたのか目の端には涙を浮かべていた。
「うるせぇなぁ~~さっさと食えクリームスパは、冷めるとチーズのせいか? はたまたクリームのせいかゲロ見てぇな匂いするからよ」
「それを食ってるやつの目の前で言うな! って言うか店の中で言うな! 食い物屋だぞここは! ってかどっちも乳製品だし」
「はいはい」とナマ返事返しながら、デーヴィッドは窓の外を眺めていた。
夜空にはそれは美しい満月が見えた。
………
……
…
「いやぁ~~食った食った」
「そりゃアレだけ食えばな……」
俺とデーヴィッドは夜の街を歩いていた。
家が町から少し歩いた山の方にあるから、二人とも丁度いい酔い覚ましだと笑っていた。
「あー帰りたくねぇ~~」
「急にどうした?」
「今さぁ本家の子が里帰りしてきてるんだよ……」
「で、それがどうした? 可愛いいい子だったな……」
「デーヴィッド……茶化すなよ」
「で、何で帰りたくないんだ?」
デーヴィッドは乾いた土の上にへたり込んだ。
「俺は魔眼が無いからマナの流れが見えないだから、魔力はあっても魔術が上手に使えない……」
「それがどうした? 確かにお前は100年前の希代の大魔術師ランドル・ウォードの親戚だ。だが、お前が絶対に魔術師にならないといけない訳じゃないだろう?」
「でも幼馴染と約束したんだ。魔術師になるって……」
「今アイツは王都にある魔術師育成の学園に通っている……で、俺はどうだ? 学校に通ってお前と駄弁って、クソして寝るだけ……俺はもうどうしたらいいか判らないんだよ!」
「そうかなら丁度いい……その気持ちを後はぶつけるだけだ全力で行ってこい!!」
「でも」
「だってもクソもない。お前は魔術師になりたいんだろう? だったら何が何でも食らいつけ、才能があるやつより才能がないやつの方が多いんだからな……何事も経験って奴だ」
「デーヴィッド……」
イーノスはデーヴィッドを見上げると、デーヴィッドはニヤニヤとチェシャ猫の様に笑っていた。
「ほら迎えも来てるぞ」
デーヴィッドはそう言うと顎をクイっと動かし後ろを見ろと、俺に後ろを見るように促した。
「え?」
その顔に見覚えがあった。と言うよりは俺にとっては肝が潰れる思いだった。
「イーノス君……」
鈴を転がしたような美しい声音で幼馴染の少女マーティナ・ウォードが、イーノスに呼びかけた。
「マーティナ……お前どうしてここに」
「イーノス君がウォード家の会議に出席してないので、心配になって探しに来たんですよ……叔父さんも心配してましたし……」
マーティナはそう言って一緒に戻りましょうと、白く細い手をイーノスに向かって差し伸べた。
俺は酷く惨めな気持ちになった。
「マーティナ俺は、オドやマナを知覚する才能がない……だから俺はお前の使い魔にはなれない……アイツなんてどうだ? 分家のカーティス……カーティス・ベニントン とかさ……」
俺は自分の思い押し殺し、マーティナの事を思ってカーティスを押した。
「私は貴方がいいんです! 貴方じゃなければいけないんです! 私は貴方が望む眼を与えます! そうすれば、貴方が辞退する理由はなくなるはずです!」
マーティナはそう言うと、俺の腕を掴み自分の方に引き寄せ。額に優しいキスをした。
チュ。
湿っぽい音と共に一瞬柔らかい肉の感触が額にした。
額には唾液なのか水分がついており、夜風によって今まで熱を帯びていた水分が、冷たくなって額への口づけが夢、幻でない事を表現していた。
「なっ!」
すると、視界が白い光に包まれた。
小さな蛍の様な光の粒が弾けて暖かい光が俺を包み込んでいる……
見える。見えるぞ!
直観的に分かったこれが、マナ……世界の法則を捻じ曲げるエネルギーであると。
「これがマナなのか?」
「えぇ……これがウォード家の秘術 魔眼開眼です……これでイーノス君は魔眼を得たのです……副作用として発動している間は、余分に魔力を消費してしまう事とオデコの魔法陣が消えない事だけです……やりましたねデーヴィッド」
「あぁ作戦通りだ」
「……これが魔術師の見ている世界……」
俺は魔術師になるために……否。マーティナの使い魔になるために必要不可欠な念願の魔眼を手に入れた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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そのひと手間が、作者の活力になりますので……つまらなければ☆☆☆☆☆を一つ押して★☆☆☆☆に面白ければ☆☆☆☆☆を全て押して★★★★★にしていただければ幸いです。
まだなろうのアカウントを持っていない方は、この機会にアカウントの作成をしては如何でしょうか?
Twitterをやっていない作者様との交流や、好きな作品に評価やレビューがかけて、なろうのサイトを開けば更新作品を自動で教えてくれたり、栞機能でどこまで読んだかわからなくなる事もありません。約5分程度で作れるので、この機会にいかがでしょうか? 例えばアニメ化作品の【Reゼ○から始まる異世界生活】や【無職○生異世界行ったら本気出す】などの大長編を読む際には、必須機能だと思います。
よろしければこちらの作品も如何でしょうか? 現代日本を舞台にした超能力モノのボーイ・ミーツ・ガール作品でタイトルは、【俺の超能力がアイテムボックスだった件。夢のラノベの主人公にはどうやら俺は慣れないようです……だけど機転を効かせてアイテムボックスで無双する。】です。
あらすじ
城南大学の3回生高槙雄介は、とある能力を持っていた。数年前、少年誌の主人公の必殺技を部屋で、一人叫んでいた時に覚醒してしまった。空間を操作して、その中に無生物を収容する事ができる亜空間を創り出す能力【アイテムボックス】に目覚めていた。
一時は歓喜の声を上げたが、ユウスケが望んでいたのは、00年代のボイーミーツガールであった。釘宮病に花澤病数多の症状を持つ彼にとっては、それは耐え難いことだった。
そんな時法学部2回生で大学でも一番カワイイと専らの噂される。星河彩華に声をかけられ、あれよあれよと言うままに、政府の特務機関【神儀院】の外部協力員となってしまい世界有数の運び屋として名を馳せていたそんなユウスケの日常の一幕の話……で少年誌の読み切りや一昔前のなろうのクライマックスだけ書いてどう? 読みたい? と言った感じの短編ですよろしければお願いしますm(_ _)m