第8話「クール美少女が顔を真っ赤にして逃げたんだけど」
「あの、僕って男だからさ、僕に話すくらいなら他の男子でもよかったんじゃないかなって――」
「――男の子、笹川さんが……?」
僕が説明をしようとすると驚愕と困惑が入り混じった表情を浮かべて春風さんが僕の顔を見つめてきた。
その様子からは僕が男子だったという事に気付いてなかったように見える。
うん、おかしくないかな?
だって僕思いっ切り男子の制服を着てるんだよ?
これでどうして僕は男子じゃないと思われてたんだ?
「嘘でしょ……? いや、でも……確かに笹川さんの事を他の子に聞いた時、『かわいい女の子なのに男装してる変わった子』って伝えたら中々答えが返ってこなくて、その後何かに気が付いたように笹川さんの名前が出てきてたわ……」
この子はなんて聞き方を他の子にしてたんだ。
そりゃあ男装をしている女の子なんていないんだから答えが返ってくるはずがないよ。
むしろそこで後からでも僕の名前が出てきたことが少し納得いかない。
「嘘……そしたら私、男の子相手にあんな話をたくさん……!?」
一人自問自答していた春風さんは、何かに気が付いてしまったかのように両手で口を押さえる。
そしてみるみるうちに顔を赤くし、涙目で僕の顔を見上げてきた。
もしかしなくても、『あんな話を』と言っていることから部室でしてしまったエロ話を思い出してるんだろう。
それだったら顔を真っ赤にしてるのもわかる。
それほどまでに中々凄い話だったからね。
ましてや僕はほとんど話さずに春風さんがずっと語り続けていたわけだし、当の本人としてははずかしくてしかたないはずだ。
「~~~~~っ!」
「あっ、ちょっと春風さん!?」
顔を真っ赤にしている春風さんのことを見つめていると、彼女は突然走り出してしまった。
僕の声は届いてるのか届いていないのかわからないけど、こちらを振り向くことはなく曲がり角へと姿を消す。
恥ずかしさに耐えられなくなって逃げたって事でいいのかな……?
まぁ気持ちはわからないでもないし、春風さんがどうして部室内で男子である僕に色々と語ってきたかという理由もわかった。
先程の様子を見るにもう関わることはないかもしれないけど、全て疑問のままで終わるよりはよかったと思う。
ただ、なんでだろう?
少し残念だと思っている自分がいるのは――。
…………それはそうと、何かを忘れてないかな?
とても大切だったものを忘れている気がする。
いったいなんだったか――あぁ!
メ、メモ帳!
メモ帳のことを忘れていた!
僕が持っていたのは春風さんのメモ帳だったわけで、だったら僕のメモ帳はどこにいったのか。
一番可能性が高いのは、あの場にいた春風さんだ。
僕が間違えて彼女のメモ帳を持っていたということは、代わりに残されたメモ帳のほうを春風さんが持っている可能性が高い。
その事実に気付いた途端僕の全身から血の気が引く。
そして大量の冷や汗が流れてきた。
まずい、よりにもよって一番渡ってはいけない人の手に僕のメモ帳は渡ってしまったかもしれない。
なんせあのメモ帳には僕が書いた小説――クール美少女として有名な春風さんをメインヒロインのモデルにした小説が載っているのだから……。
春風さん自身のことは冷たくて素っ気ない印象が強く、正直苦手なイメージがあったのだけど、逆にあの子がもしデレるような性格をしていれば絶対にかわいいと思っていた。
だから彼女が主人公にだけはデレる所謂クーデレとなったヒロインとして僕の小説に出していたんだ。
もしそれが春風さんに読まれでもすれば――。
あまりの絶望に僕は目の前が真っ暗になってしまった。
◆
次の日の放課後――僕のクラスは、突然ざわめき始めた。
というのも、全員にとってとても意外な人物がクラスに姿を見せたからだ。
「笹川さ――いえ、笹川君はいるかしら?」
僕の名前を呼んだ女の子――それは、昨日顔を真っ赤にして別れた春風さんだった。
さすがにこの展開には僕も驚きを隠せない。
そして他者を寄せ付けないことで知られる彼女がわざわざ別のクラスにまで来て僕の事を呼んだことで、クラスにいる全員の視線が僕へと集まっている。
「笹川君、春風さんが呼んでるけど知り合いだったの?」
「あっ、うん……」
昨日図書室で話し掛けられた子に声をかけられ、僕は戸惑いながらも頷く。
するとクラス内では『そういえば昨日春風さんと手を繋いで歩いてた女子みたいな男子って……』という言葉がそこら中から聞こえてきた。
どうやら昨日の一件は既に僕のクラスにも知れ渡っていたらしい。
思わぬ形で有名人になってしまいそうな勢いだ。
「な、なんでもないから気にしないで……!」
とりあえずこのまま教室にいても変な視線を向けられるだけなので、僕はみんなになんでもない事を告げて春風さんの元を目指す。
まぁ、なんでもないと否定したところでみんなが納得してくれるはずがないのだけど。
歩いていると背中側からヒソヒソといろんな声が聞こえてきて僕は少しだけ気が重くなった。
だけど、気にしても仕方がないので、とりあえず何か用事がありそうな春風さんの元へと急いだ。
まさか、昨日の今日で僕のところに来るとは思わなかったけどね。
それに正直、メモ帳のこともあるから今春風さんと顔を合わせるのはきつい。
もしかして春風さんはそれがあってわざわざ僕の教室に文句を言いに来たのかな……?
と、とりあえず聞いてみないことにはわからないよね。
春風さんに動揺を悟られないようにしながら聞いてみよう。
「どうかしたの?」
「どうかしたって……部室、行かないの?」
「えっ? あっ――もしかして昨日の約束?」
コクン――。
僕の質問に対して春風さんは恥ずかしそうにしながらも少し大きめに頷いた。
どうやら僕の心配は取り越し苦労だったようだ。
春風さんの目的はまた別らしい。
昨日逃げるくらい恥ずかしい思いをしていたはずなのに、まさか部室に行くと言うとは思わなかった。
確かその約束は、春風さんが僕のことを女の子だと思っていたからこそ言ってきたことのはずなのにね。
僕としては昨日と同じように春風さんの態度が急変した理由を知れる機会なので願ってもない事だ。
それにメモ帳のことも聞いておかないといけない。
この様子なら少なくとも中身は見られていないと思う。
話が面白い、キャラがかわいいと思って頂けましたら、評価やブックマーク登録をしてくださいますと助かります







