第61話「美少女を連れ歩くのが趣味なのか?」
「よぉ、この前は随分と世話になったな?」
この前鈴花ちゃんにちょっかいを出していたチャラ男は、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながら腕をバキバキと鳴らしている。
思いっきり威圧をしてきているわけなのだけど、どうしてこう小物感をこの人は出すのだろうか。
僕は漫画などで見かける粋がってるだけのヤンキーにチャラ男が重なって見えてしまい、思わず苦笑いを浮かべそうになった。
もちろんそんなことをすれば相手の神経を逆なでするだけなのでグッと我慢をしたけれど。
「えっと、どちら様でしょうか?」
チャラ男たちに関わりたくなかった僕はまるで初対面かのように演出する。
生憎スタンガンは今持ち合わせていないし、今は鈴花ちゃんがいないとはいえ不知火さんたちがいる。
彼女たちを巻き込むようなことはしたくない。
それに、龍弥と呼ばれた男も隣にいるから厄介だ。
チャラ男程度ならなんとかできると思うけど、龍弥という男はそう簡単にはいかないと思う。
後は、前と違って五人もいるわけだし、どう考えてもこっちが返り討ちにあうのは目に見えているしね。
しかし――。
「お前みたいな女顔早々いるかよ!」
チャラ男を欺くことはできなかった。
いや、うん。
当たり前と言えば当たり前なのだけど。
この状況どうしようかな?
走って逃げようにもおそらくこの男たちのほうが僕より身体能力は上だし、ヒールを履いている不知火さんが走れるとは思えない。
期待するなら前みたいに龍弥という男が口を挟んでくれることだけど――。
僕は視線を龍弥と呼ばれている男に向けてみる。
すると、バッチリと目が合ってしまった。
まるで観察するかのような目で龍弥は僕の顔を見ている。
「何か用ですか?」
このままチャラ男を相手にするよりも龍弥に話を持っていたほうが穏便に済むかもしれないと思った僕は、チャラ男の視線を無視するようにして龍弥に話しかけてみる。
すると彼はチラッと不知火さんたちに視線を向けた後、再度僕に視線を向けてきた。
「この前の銀髪女はどうしたんだ?」
どうやら彼は鈴花ちゃんに関心を示しているようだ。
まぁあれだけかわいい女の子は早々いないから興味を持つのは仕方ないのだけど、こうなってくると鈴花ちゃんのことが心配になってくるな。
一人で歩いている時にこの男たちに鉢合わせしたら何されるかわからない。
今度鈴花ちゃんには注意するように伝えておいたほうが良さそうだ。
「あの子は今いませんよ。別にいつも一緒にいるわけではないですからね」
「ふ~ん……」
なんだろう?
聞いてきたわりにはあまり興味がなさそうだ。
それよりも今は後ろにいる不知火さんたちに興味があるのか、また視線を彼女たちに向ける。
――そして、信じられないことを聞いてきた。
「お前って美少女を連れ歩くのが趣味なのか?」
「なっ!?」
美少女を連れ歩くのが趣味!?
なんだその言いがかりは!?
「あらあら」
そして不知火さん。
何この状況で楽しそうに笑っているのですか!?
龍弥に変な疑いを掛けられた僕の隣では頬に手を当てて楽しそうに笑う不知火さんがおり、僕は思わず心の中でそうツッコんでしまった。
その後ろではかぐやちゃんが龍弥たちのことをゴミを見るような目で見ているのでそちらはそちらで怖い。
「そんな趣味持っているわけないでしょ……」
「そうなのか?」
なぜ意外そうな表情をする!
この龍弥という男、なんだかよくわからないな……。
いかつくて威圧的な男だと思っていたのに、今はそんな雰囲気ないし……。
「へぇ……」
そんなふうに龍弥のことを観察していると、隣では不知火さんが何かに気が付いたかのように僕と龍弥を見ながら関心したような表情を浮かべた。
いったい何を考えているのかわからない。
「おいおい龍弥! 何こいつと雑談してんだよ!? こいつは俺らに恥をかかせた奴だぞ!?」
そうしていると、チャラ男がいきなり怒鳴り始めた。
どうやら僕と龍弥が話をしていたことが気に入らなかったらしい。
それに対して龍弥は大きく溜め息をついた。
「恥をかからされたって、あれはお前が悪いだろ?」
「なっ!? こいつの肩を持つのか!?」
龍弥の思わぬ反応にチャラ男は更に声を荒らげる。
僕も少し驚いたけれど、そういえば前にも龍弥は僕に謝ってきたんだったか。
この男はそこら辺のヤンキーとは違うような気がする。
「お前は誰からかまわず突っかかるな。自分より弱そうな奴に恐喝するのはダサい奴がすることだっていつも言ってるだろうが」
龍弥はチャラ男をギロッと睨みつけた。
それは前に見た恐怖で相手を押さえつけるような目だ。
チャラ男だけでなく後ろに控える男たちも怯えた表情をしているし、やっぱりこの男が頭なのだろう。
どうやら龍弥は僕たちみたいな普通の学生には喧嘩を売ったりしないらしい。
前に鈴花ちゃんに声をかけていたのもチャラ男だったし、そういったことにも興味がないのだろう。
穏便に済みそうでホッとした。
しかし――。
「とても面白い御方ですね」
どうやら、僕の隣にいる女の子はこのまま終わらせてくれるつもりはないようだ。
「あっ?」
面白いと言われ、龍弥は不機嫌そうな視線を不知火さんに向ける。
いきなり空気が凄く悪くなった。
「ちょっ!? 不知火さん何を……!?」
せっかく穏便に済みそうだったのに不知火さんの一言で状況が一変してしまったため、僕は慌てて龍弥の視線から庇うようにして不知火さんを背に隠しながら彼女に尋ねる。
なんだろ、どこか鈴花ちゃんと通じるところが彼女にはある気がした。







