第60話「私に興味を持ってもらおうかと」
「――さて、ではどこかに遊びに行きましょうか」
「なんでそうなるのですか!?」
あの後書店さんを数店舗連れ歩かれた後、今度は遊びに行くと言い出した不知火さんに思わずツッコミを入れてしまう。
てっきり書籍化することの魅力を教えてくれるためだけに連れ出されたと思っていたから、この展開はとても意外なだった。
「書籍化をすることの魅力は十分にお伝えすることが出来ましたので、お次は私に興味を持ってもらおうかと」
「ど、どうしてそうなるのですか?」
「私と一緒にお仕事をしたいと思って頂ければ、書籍化をしたいと思って頂けると思いまして」
不知火さんは豊満な胸に右手を添えながら、とても素敵な笑顔でそう言ってきた。
絵になるような仕草と笑顔だけどとんでもないことを言い出す子だ。
「お嬢様のこの自信、いったい何処から来るのかいつも不思議です」
僕の後ろではそうかぐやちゃんがボソッと呟くけれど、僕も似たような感想を抱いた。
少なくとも不知火さんは自分の魅力に凄く自信があるようだ。
この容姿や上品な仕草を見るにそれも当然なのかもしれないけど――鈴花ちゃんほど魅力的には見えなかった。
「えっと、帰るという選択肢は――ないのですね……」
僕が帰る方向に進めようとすると、かぐやちゃんがサッと先程の僕の女装コスプレ写真を掲げてきた。
不知火さんではなくかぐやちゃんが反応するのか――と思いはしたけど、やっぱり帰してくれるつもりはないらしい。
「別に強制はしませんよ?」
「不知火さん、この状況でそれはずるくないでしょうか?」
「ふふ、まぁまぁ、後悔はさせませんから」
不知火さんは実に楽しそうに笑っている。
僕を困らせて楽しんでいるようだ。
優しそうな見た目なのに内心はSなのかもしれない。
結局選択肢がない僕はそのままリムジンに乗って別のところに連れて行かれる。
そして次に訪れたのは、岡山駅だった。
うん、なぜ?
「どうして岡山駅にこられたのでしょうか……?」
僕は不知火さんの考えが理解出来ず、戸惑いながら尋ねてしまう。
すると、彼女は困ったような笑みを浮かべてかぐやちゃんへと視線を向けた。
「かぐやが前から桃太郎の銅像を見たがっていましたので、いい機会だと思い寄り道をさせて頂きました」
不知火さんの言葉は嘘ではないようで、かぐやちゃんは目を輝かせながら嬉しそうにスマホで桃太郎の銅像を写真に撮っている。
無表情だからクールな子だと思っていたのだけど、どうやら幼い顔つきに合った性格も持ち合わせているらしい。
「もしかしなくても、桃太郎がお好きなのですか?」
「桃太郎と言いますか、童話がお好きなのです。無愛想な子ですが、中身は結構かわいらしいのですよ」
やはり、かぐやちゃんは不知火さんのお気に入りのようだ。
まるで姉が妹の事を見つめるかのように優しい表情ではしゃぐかぐやちゃんのことを見つめている。
なんとなくわかるのは、この二人の付き合いは長いのだろうということ。
かぐやちゃんが主である不知火さんに失礼なことを言えるのも付き合いが長いからこそじゃないだろうか?
付き合いが短ければあんなふうに接することは不可能だろう。
どういう経緯でかぐやちゃんがメイドさんをしているのかはわからないけど、普通は主の機嫌を損ねるようなことは言わない。
それなのに言うということは、言っても許されるだけの関係にあるということだ。
「本当にかわいらしい子ですね」
「……もしかして、笹川さんはロリコンでしょうか?」
「なっ!? なんでそうなるのですか!?」
不知火さんの言葉に同意したにもかかわらず、なぜかロリコン疑惑をかけられてしまった。
かぐやちゃんのことをかわいいと言ったのは幼い子供をかわいいと思うような感じで、別に性的な意味で見てはいない。
それなのにとんでもない言いがかりだ。
「いえ、そういえばかぐやの体を舐め回すように見ていたとか……」
「誤解です! 絶対そんなことはありませんから!」
どんどんと誤解の溝が深まっている気がする。
このままロリコン扱いされたらたまったもんじゃない。
「ふふ、そうですね」
挙句、あっさりと笑って流される始末。
完全にからかわれていた。
「中々いい性格をされていますね……」
「お褒めにあずかり光栄です」
そしてこちらの嫌味も笑って流す余裕。
鈴花ちゃんとは違い、やっぱりこの人はやりづらい。
話しづらいわけではないけど、すぐにペースを握られてしまうのだ。
「――お嬢様」
不知火さんの笑顔を見ていると、写真を撮り終えたらしきかぐやちゃんが戻ってきた。
とても満足げな表情はかわいいと思ってしまう。
「やっぱり、ロリコン……」
「あの、もうそのくだりはよくないでしょうか……?」
またもやロリコン疑惑をかけられそうになった僕は早々に止めに入る。
かぐやちゃんも戻ってきたことだし、これ以上その話は危険でしかない。
かぐやちゃんに勘違いされようものなら何をされるかわかったもんじゃないからね。
「どんな話をされていたのですか?」
僕たちの会話が気になったのか、張本人であるかぐやちゃんが不思議そうに聞いてくる。
そんなかぐやちゃんに対して不知火さんは笑顔で口を開いた。
「いえ、他愛のない雑談ですよ。それよりも、もう桃太郎はいいのです?」
さすがにかぐやちゃん本人に言うつもりはないのか、不知火さんは笑顔で誤魔化してくれた。
かぐやちゃんは訝しげに僕の顔を一瞬見てきたけれど、何も言ってくることはなく不知火さんの質問に対してコクコクと頷く。
どうやら踏み込んでくるつもりはないようだ。
「それでは移動しましょうか。折角ですし、歩くのもいいかもしれませんね」
「えっと、何処に行くのですか?」
「お近くに大きなショッピングモールがありますよね? そちらにお邪魔しようかと――」
「――あっ! お前は……!」
不知火さんの言葉を裂くように突如聞こえてきた声。
その声に聞き覚えがあった僕が声をした方向を見ると、この前鈴花ちゃんをナンパしていたチャラ男がそこにはいた。
その隣にはあの時いたもう一人の男もおり、後ろには三人のヤンキーがいる。
うっわぁ、最悪な人たちと出くわした。
僕はこの後待ち受ける展開を想像し、どうこの人たちから逃げるか思考を巡らせることにする。







