第56話「握られた爆弾」
というかこのメイドさん、見た目は幼い子みたいでとてもかわいらしいのに、言ってることきつくないかな?
僕は無表情でジッと僕の顔を見つめてくる童顔のメイドさんを前に、なんとも言えない気持ちになった。
「申し訳ございません、笹川さん。私は笹川さんの才能についてお話させて頂いているのです」
メイドさんのほうに目を奪われていると、どうやら僕は勘違いをしていたようでそのことに関して不知火さんが訂正をしてきた。
その際に僕が見つめていたことに気が付いたメイドさんがとても嫌そうな顔をしたのだけど、この子は僕の心を折ろうとしているのだろうか?
なにげに凄くショックだった。
「いや、あの、僕にそんな才能はありませんよ……?」
僕はメイドさんの表情にショックを受けながらも、何やら過大評価してくれている不知火さんの言葉を否定した。
しかし、不知火さんはそんな僕に対して首を横に振る。
「謙遜は確かに美徳なことですが、謙遜のしすぎはよろしくないと思います」
「いや、謙遜とかではなくて……」
「結果が出ているにもかかわらず自分には才能がないと言うのは謙遜のしすぎではないでしょうか?」
「あれは鈴――もう一人の子が描いてくれたイラストのおかげですから……」
ネットで噂になるほどの売れ方をしたのは、同人即売会で目を惹くほどのかわいいイラストを描いてくれた鈴花ちゃんのおかげだ。
それと、SNSで有名な感想垢の人が宣伝してくれたおかげでもある。
そこには僕が書いた話は関係ないわけで、先程のは謙遜をしたんじゃなく事実を言っただけだ。
「結果とは、何も売れた本の数の話をしているわけではございませんよ? たくさんの方が笹川さんの小説を面白いと言っていることに関してお話をさせて頂いております。いくらイラストが上手でもお話が面白くなければファンは付きません。しかし、笹川さんの小説に関しては現在ネットでたくさんの方がファンになっておられます。そういう面を見て、笹川さんには才能があるということになるのですよ」
なんだろう、本当に不思議になるくらい僕は不知火さんに買われているようだ。
それほど僕たちの作品を気に入ってくれたということだろうか?
「えっと、ありがとうございます。そこまで言って頂けて嬉しいです」
このまま否定していても埒が明かないと思った僕は、彼女の言葉に素直に頷くことにした。
すると、不知火さんの表情が少しだけ明るくなる。
「それでは、書籍化打診の件はお引き受けになると思い直して頂けましたか?」
「あっ、いえ、それとこれとは話が別と言いますか、本当にお引き受けするつもりはないのです」
どう捉えられたのか不知火さんは僕が書籍化の話を受けると思ったようなので、僕は慌てて彼女の言葉を否定した。
才能云々の話は有難いと思ったし、素直に嬉しかった。
けれど書籍化打診の話を引き受けるかどうかはまた別の話だ。
特に、鈴花ちゃん抜きに勝手に話を進められることでもないわけだし。
「………………どうやら、まずは書籍化の魅力を知ってもらわないとだめなようですね」
何やら不知火さんは口に指を当てて考える素振りを見せる。
その表情からは笑顔が消えており、見ていてちょっと不安になってきた。
「笹川さん」
「はい?」
名前を呼ばれ、僕は首を傾げながら不知火さんの言葉を待つ。
「今からご一緒して頂いてもよろしいでしょうか?」
「……はい?」
そして思わぬことを言われ、僕は再度首を傾げた。
ご一緒って何処に?
そんな疑問が僕の中を流れる中、不知火さんはとてもいい笑みを浮かべる。
その笑顔を見た僕は嫌な予感しかしなかった。
素敵な笑顔なはずなのに何かよくないことを考えているようにしか見えなかったのだ。
「書籍化することの魅力を笹川さんにわかって頂きたいのです。ですから、今からご一緒してください」
「い、いやいや! なんでそうなるのですか!?」
はっきり言って意味がわからない。
どうして不知火さんがここまで僕の書籍化にこだわるのかということもそうだし、急に僕を連れ出そうとしていることも意味わからなかった。
「嫌なら無理にとは言いません」
不知火さんはそう言って笑いかけてくるのだけど、本当だろうか?
「嫌というか、この後部活もありますので……」
「そうですか、わかりました」
ほっ――。
どうやら、本当に大人しく退いてくれるらしい。
僕は更に揉めごとへと発展することがなくてほっと息を吐く。
これならもう引き取ってくれるだろう――そう考えたのがフラグになったのか知らないけれど、不知火さんは何かを思い出したかのようにパンッと手を叩いた。
そして、自分のスマホを取り出して操作をした後、なぜか僕に画面を見せてくる。
「ふふ、そういえば、こちらとても素敵なお写真ですよね?」
「なっ――!」
画面を見て僕は思わず固まってしまう。
不知火さんは僕にとってとんでもない爆弾を持っていたのだ。
「な、なんでこんなものが……」
僕は画面と不知火さんの顔を交互に見る。
すると彼女はとても楽しそうな笑みを浮かべた。
「まさか、女装をなさっていたとは思いませんでした。私、すっかりと騙されてしまいましたね。しかしそれも仕方がないことでしょう。今画像を見直してみても、女の子のようにしか見えないのですから」
そう、彼女が僕に見せてきたのは同人即売会でコスプレをしていた僕の画像だった。
しかもバッチリと僕の顔は映っており、どうしてこんな画像を彼女が持っているのか不思議でしかない。
そしてこのタイミングで彼女が出してきた理由も容易に想像がついてしまう。
「あ、あの、いや、これは……」
「とても素敵な画像ですよね? 私の手元に置いているだけではもったいない写真だと思いませんか?」
それは暗に、『この画像をばらまかれてもいいのか?』という脅しをかけてきていた。
つまり、不知火さんの要求を呑まなければ僕の女装コスプレ画像をSNSなどにばらまくということだろう。
やはり彼女はとても危険な女の子だったようだ。
結局僕は、彼女の要求を呑むしかなかった。







