第53話「お嬢様ふうな女の子再来」
そんな感じの日々を送っていたある日の放課後、僕は突然応接室に呼び出しを喰らった。
また何かをやらかしたかと思ったけれど、生憎今回ばかりは心当たりがない。
鈴花ちゃんは相変わらず部室でエロ写真を撮っているんだけど、一度ペンタブレットを見つかって以来は更に入念に片付けをしているのでバレていないと思う。
ましてや今回は僕一人の呼び出しだ。
ということは鈴花ちゃん絡みではないのだろう。
しかも腑に落ちないのは応接室への呼び出しだということ。
怒られるなら職員室や進路指導室だろうし、今回は怒られるわけじゃないのかもしれない。
「あっ、文君……」
廊下に出ると、いつも通り鈴花ちゃんが教室の前で待っていた。
その表情はとても心配しているように見える。
「ごめん、呼び出されたから先に部室に行っててくれるかな?」
「私も付いて行くよ?」
どうやら鈴花ちゃんは僕に付いて来ようとしているらしい。
普段から僕に付いて歩くような子だけど、今回は僕のことを心配してくれてるというのが表情からわかる。
だから僕は、彼女を心配させないように笑顔で口を開いた。
「うぅん、大丈夫だよ。鈴花ちゃんは先に部室に行って待っててくれる?」
「でも……」
「終わったらすぐに行くからさ、ごめんね?」
「んっ……」
僕がそう言うと、鈴花ちゃんは渋々といった感じで頷いてくれた。
納得はいってなさそうだけど言うことは聞いてくれるようだ。
僕しか呼び出されていない以上、このまま鈴花ちゃんに付いて来てもらうとおそらく廊下で待たせてしまうことになる。
どれくらいかかるかもわからないのに彼女を廊下で待たせるわけにはいかないから、部室に先に行ってもらおうと思ったのだ。
「――なぁ、もうあの二人付き合ってね? あそこだけ空間が違うんだけど?」
「というか、笹川と話す時の春風さん雰囲気違いすぎだろ。羨ましすぎる」
「笹川君私たちが話しかけると苦笑いというか居心地悪そうなのに、春風さんにはあんなふうに笑うんだ……! かわいい……!」
「ね? 笹川君と話す時の春風さんも美人というよりかわいい系の女の子になるし、あの二人かわいいよね」
なんだろう?
男子からは相変わらず嫉妬に満ちた視線を向けられているのだけど、女の子からはまるで微笑ましいものでも見るかのような目で見られている。
前までは物珍しそうな目だったのに、いったい何があったのだろう?
「…………」
僕が他の女の子たちに視線を向けていると、急に鈴花ちゃんが居心地悪そうにモジモジとし始める。
そして、ギュッと僕の服の袖を握ってしまった。
「「「「「きゃあああああ!」」」」」
直後、なぜか興奮した女の子たちの黄色い声が廊下中に鳴り響いた。
そして、男子たちの悲鳴に近いショックを受けた声も。
正直言うと何が起きたのかわからない。
急に鈴花ちゃんがモジモジとし始めた理由もわからないし、周りの反応――女の子たちの反応もよくわからなかった。
とりあえず今のままの鈴花ちゃんを残していくのは少し心配だったので、彼女を一旦文芸部の部室へと連れ行く。
「じゃ、ちょっと行ってくるね」
「んっ」
応接室に行かないといけないため部室の前で鈴花ちゃんと別れようとすると、彼女は少し寂しそうにしながらもコクリと頷いた。
もう一緒にいるのが当たり前になっているからか、最近少し離れようとするだけで鈴花ちゃんは寂しそうにする。
本当にかわいい女の子だと思う。
あまり寂しい思いをさせないように早く戻ってこないと――。
僕は寂しそうにする鈴花ちゃんに後ろ髪を引かれる思いを抱きながらも、応接室に急ぐのだった。
――そして着いた応接室。
どうやら中にいるのは下口先生のようだ。
正直嫌な予感しかしない。
というか、またこの人なのか――と、思わなくもなかった。
「失礼します」
下口先生に入るように言われた僕は挨拶をして応接室へと入る。
すると、下口先生とは別にとても意外な人物がソファへと座っていた。
「お久しぶりです、笹川さん」
鈴を転がすような綺麗な声で僕の名前を呼んできたのは、同人即売会で僕たちの本を買ってくれたお嬢様ふうな女の子だった。
ソファに座る彼女の後ろにはメイド服を着た童顔の女の子が立っているため、本当にお嬢様なのかもしれない。
どうして彼女が?
そして、なんで僕の名前を?
そんな疑問が僕の頭を巡る。
しかし、ボーっとしていたことで下口先生が僕の顔をキッと睨んできた。
「こら、早く座らないか笹川! すみませんね、うちの生徒の礼儀がなってなくて」
下口先生は僕に怒鳴ると、すぐに媚びを売るように両手をこねながらお嬢様らしき子にヘコヘコとし始める。
一瞬下口先生の知り合いなのかと思ったけれど、この態度を見ていると知り合いだったようには見えない。
だったらなんで下口先生がここにいるのかということが疑問になるけれど、相手が権力者だと考えると簡単に想像がついた。
ここでうまくこの女の子に取り入ることができれば今後自分のためになると思って進んでこの役を買ったんだろう。
ここまで露骨だと逆に凄いと思うな。
――だけど、下口先生の態度をお嬢様らしき女の子は気に入らなかったらしい。
「笹川さんは今怒鳴られるようなことをされたのでしょうか?」
「はい?」
「急に私のようなほぼ初対面の相手が訪れれば、彼が戸惑ってしまうのも当然のことでしょう。それなのに、どうして彼は一方的に怒鳴られないといけなかったのでしょうか?」
「あっ、その、えっと……」
「もしくは、あなたはいつもそのような頭ごなしの態度で生徒に接していらっしゃるのでしょうか? 教育者という立場でありながらいたずらに生徒を威圧するのは褒められたことではないと思いますが、どうお考えなのかお聞かせ願えますか?」
戸惑う下口先生を追い込むようにお嬢様らしき女の子は言葉を紡ぐ。
彼女は僕より少し年上に見えるけれど、それでも高校生三年生か大学一年生のような歳だ。
そんな女の子が、二回りくらい年上の下口先生を追い込んでいる。
見た目は優しそうなのに少しきつい性格なのかもしれない。
だけど、僕のことを庇ってくれたことから優しい人とも言える。
「いや、その……」
「いえ、今はそんなことどうでもよろしかったですね。笹川さんと二人だけでお話させて頂けますでしょうか?」
あっ、やっぱりこの子性格きつい。
丁寧な口調でありながらも相手を突き放すような言い方をした彼女を見て、僕は心の中でだけそう評した。
そして彼女の機嫌を損ねたことに下口先生は顔色を真っ青にし、頭を下げて何度も謝った後慌てて部屋を出て行った。
下口先生が真っ青になるほどの相手だなんて、いったいこの子は何者なのだろうか?
本日発売の
『クール美少女の秘密な趣味を褒めたらめちゃくちゃなつかれた件』
はお手にとって頂けましたでしょうか?(*´▽`*)
楽しんで頂けていますと幸いです!!







