第51話「だって、ねぇ?」
「――そっかぁ、やっぱりそうなんだね」
「は、はい……」
家に帰ると、何やらニコニコ笑顔になっている姉さんと、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながらモジモジと身をよじらす鈴花ちゃんが話しをしていた。
どうやら花を摘みに行きたくてモジモジとしているわけではなさそうだけど、ここまで照れているなんていったいなんの話をしていたんだろう?
「あっ、ふーちゃんおかえりなさ~い」
「お、おかえり、文君……」
「ただいま。いったいなんの話をしていたの?」
僕がそう尋ねると、二人は顔を見合わせてしまう。
そして姉さんはニマニマと僕の顔を見つめてき、鈴花ちゃんは言わないとでも言うかのようにブンブンと首を横に振った。
こんな態度を見せられると本当になんの話をしていたのか気になってしまうじゃないか。
しかしどうやら二人は僕に話すつもりはないようで、おそらく聞いても無駄なんだと思う。
「あっ、そうだ鈴花ちゃん。いつでもこの家に遊びに来ていいからね?」
「ね、姉さん!?」
まるで名案を思い付いたとでも言わんばかりに笑顔でとんでもないことを言い出した姉さんを見て、僕は思わず姉さんのことを呼んでしまう。
しかし、姉さんは戸惑う僕に気が付かずに――いや、あえて僕をスルーしたようだ。
「それに、今日もよかったらご飯を食べていってよ」
姉さんは何を考えているのか――というか、未だに勘違いをしているのか鈴花ちゃんを食事にまで誘ってしまう。
さすがにこれは鈴花ちゃんも嫌がるはずだ。
――そう思ったのだけど、僕の予想はあっさりと裏切られてしまう。
「あっ、その……迷惑でなければ……」
鈴花ちゃんはチラチラと僕の顔を見ながら、なぜか頷いてしまった。
いつでも来ていいとは、逆に言えば来たくなければ来なくてもいいということなのでスルーしたのはわかる。
だけど、一緒に食べるのは今なため頷いてしまえば本当に食べることになってしまうじゃないか。
絶対に断ると思ったのにまさか受け入れるなんて……彼女はいったい何を考えているのだろうか?
もしかして、姉さんの人がいいせいで逆に断りづらかったのかな?
姉さんは威圧感とかを出して相手に強制するような人ではないけれど、ニコニコと無邪気で誘ってくるため断りづらいところがある。
実際先程も鈴花ちゃんは姉さんの笑顔によってミルクセーキを断れなくなっていた。
となると僕のほうから帰りやすい雰囲気を作ってあげたほうがいいのかもしれない。
「明日も学校があるんだからあまり遅くなるわけにはいかないと思うよ。それに、こんな急だともう家にご飯ができてるんじゃないかな?」
こう言えば、鈴花ちゃんは家にご飯があることを理由に帰ることができる。
例えそれが本当は嘘で、家ではご飯ができてなかったとしても僕や姉さんに確かめる術はない。
そう思って言った言葉だったんだけど、なぜか鈴花ちゃんはシュンとしてしまった。
そして悲しそうな目をした上目遣いで僕の顔を見つめてくる。
「やっぱり、文君には迷惑だったかな……?」
鈴花ちゃんの思わぬ反応に僕は息を呑んでしまう。
彼女のために助け舟を出したつもりだったけど、どうやら鈴花ちゃんには僕が嫌がっているように伝わってしまったようだ。
確かに見方としては僕が追い返すために理由を付けているようにも取れてしまうけれど、そこの取り方は鈴花ちゃんの考え方に依存する。
鈴花ちゃんが帰りたいと思っているのなら僕の言葉は思惑通り助け船になり、彼女は喜んで僕の言葉に乗ったはずだ。
だけど逆に、帰りたくないと思っていれば僕の言葉は否定的に聞こえてしまうだろう。
そして鈴花ちゃんは僕の言葉が否定的に聞こえたようなので、どうやら彼女はご飯を食べて帰りたかったみたいだ。
「いや、あの……鈴花ちゃんこそ、本当にいいの?」
僕は鈴花ちゃんの態度に戸惑いながら尋ね返してみる。
すると、彼女は恥ずかしそうにモジモジとしながらも小さく頷いた。
本当に食べて帰りたいようだ。
「ふーちゃん、女の子にいじわるをしたらだめなんだよ?」
「いや、姉さん……いじわるとかじゃなくて、本当に鈴花ちゃんが無理してないかが心配なだけだよ」
注意をしてきた姉さんの言葉に僕はすぐ否定をする。
本当に鈴花ちゃんのことを心配していただけだし、いじわるを言っているつもりはない。
そして鈴花ちゃんが晩御飯を食べて帰りたいと心から思っているのだったら、僕はもう何かを言うつもりはなかった。
一応鈴花ちゃんにもう一度視線を向けてみる。
すると彼女はチラチラと僕の顔を見上げており、何かを期待しているかのように見えた。
この様子だと、無理に言っているわけじゃないんだろう。
そしたらもう野暮なことを言うのはやめておこう。
それに、正直に言うと鈴花ちゃんと一緒に食事ができるのは僕にとっても嬉しいことだしね。
ただ、姉さんもいるとなるとまた色々と聞かれそうで困るような気もするのだけど。
「そっか、だったら鈴花ちゃんもご飯を食べていきなよ」
「いいの……?」
おそるおそる、といった感じで顔色を窺うように鈴花ちゃんは僕に確認を取ってくる。
この子は本当に見た目の可憐さからはわからないほどに気弱なところがある。
昔仲が良かった友達に突き放された傷が完全には癒えてないのだろう。
彼女に気を遣うにしても、遠ざけるような言葉は今後使わないようにしようと僕は思った。
「うん、鈴花ちゃんがいいならもちろん僕もいいよ。その代わりちゃんとお家の人には連絡してね」
鈴花ちゃんがよくても家の人が駄目という可能性はあるし、連絡もなしに遅くなってしまえば鈴花ちゃんの親に心配をかけることになってしまう。
ましてやそれで鈴花ちゃんが怒られてしまうかもしれないため、ちゃんと連絡だけは入れておいてほしかった。
「うん……! すぐに電話してくる……!」
僕の言葉を聞くと鈴花ちゃんはとても嬉しそうに笑みを浮かべてスマホを片手に廊下に出た。
早速親に電話をするつもりらしい。
こういうところは本当に素直でかわいいと思ってしまう。
「鈴花ちゃんって本当にとてもかわいい子だね。昔は顔はかわいくても冷たい子って印象だったけど、今は内面のほうが凄くかわいいかも」
鈴花ちゃんが出たドアを見ていると、嬉しそうに頬を緩める姉さんが鈴花ちゃんのことを絶賛した。
姉さんはかわいい物が大好きだから鈴花ちゃんのことが気に入ったのだろう。
「仲良くなってくれたのは嬉しいけど、まさか晩御飯にまで誘うとは思わなかったよ。鈴花ちゃんが内心嫌がっていたらどうするつもりだったの?」
結果的に鈴花ちゃんも望んでいたからいいけれど、親切は時に迷惑となる。
姉さんがそこら辺を理解していないわけがないと思うんだけど、先程ちょっと強引に誘っていたので一応注意をしておいた。
しかし、姉さんに僕の気持ちは届いていないようだ。
「え~? だって、ねぇ?」
姉さんは僕の言葉を聞くなり凄く意味深な目を向けてきた。
ニマニマとして本当に楽しそうだ。
このハイテンションはいったいなんなのだろう?
いつもは話しやすい姉さんが、今日は凄く話し辛い。
上機嫌な姉さんを前にして、僕はまた少し困ってしまった。
その後は姉さんが食材を買いに行くと言ったので付いて行こうかと思ったのだけど、僕たちはお留守番するように言ってきたので鈴花ちゃんと二人きりになってしまう。
すると彼女はまた僕の部屋に行きたがり、スカートを脱いで写真撮影を始めてしまったので僕は凄くドキドキとしてしまうのだった。
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