第49話「お姉さんだから緊張する」
「――へぇ、それじゃあ今はふーちゃんと鈴花ちゃんの二人で文芸部をやってるんだ?」
ニコニコと嬉しそうな笑顔をする姉さんは、テーブル越しに僕たち二人の顔を見つめてくる。
興味津々の姉さんを振り切ることができず、普段僕たちが何をしているのかを白状させられた。
もちろんエロイラストやそれが関わることによって起きたラッキースケベなどについては誤魔化したけれど、それでも普段二人で一緒に活動していることは話すしかなかった。
鈴花ちゃんはなぜか借りてきた猫のようにおとなしくなってしまっているし、僕一人でこのテンションが上がりきっている姉さんの相手をするのは中々にしんどい。
そして相変わらず、僕たちが付き合っていないということは信じてくれてなさそうだ。
それには、今現在鈴花ちゃんが僕のカッターシャツを脱がずにスカートだけ履いてここにいるというのもあるのかもしれない。
彼女は手早く着替えるためにスカートを履くだけで済ませたのだけど、姉さんには鈴花ちゃんが僕の服を脱ぎたくないと言ってるように見えたみたいだ。
全く、フィルターがかかっているせいで次から次へと勘違いをされて困ったものだね。
「一応、二人だけでも楽しくやれてるよ」
「ふ~ん」
僕の言葉に対し、姉さんがニマニマとする。
きっと心の中で、『そう言いながらも本当は二人きりで楽しい放課後を過ごしてるんだよね?』とでも思ってるのだろう。
ご機嫌なのはいいけど、誤解をするのはやめてほしい。
もちろん、鈴花ちゃんと付き合っていると言われるのが嫌なわけじゃないんだ。
むしろ嬉しいとさえ思う。
他の人から見ると、僕たちは恋人に見えるくらい仲良く見えるんだってね。
だけど、僕と同じことを鈴花ちゃんが思うかといえばそれは違う。
彼女は学校で一番と言っても過言じゃないくらいにモテる。
今までだって数多く告白をされてきたことだろう。
そんな子が、僕のようなパッとしない男と付き合っていると周りに思われて快く思うはずがない。
今もきっと嫌だと思っているはずだ。
だから姉さんにはそういう誤解をしてほしくないと僕は思っていた。
「そうだ鈴花ちゃん」
「は、はい……!」
姉さんが声をかけると、カチコチに固まってしまっている鈴花ちゃんが少し裏返った声を出した。
どうやら半端なく緊張しているようだ。
もしかして鈴花ちゃんも姉さんのことを知っていたのだろうか?
鈴花ちゃんに及ばないまでも、姉さんは僕の高校で中々の有名人だった。
勉強は全国模試で常に上位に入るほどにできるし、見た目のかわいさやロリ巨乳っていうことで結構話題になっていたと思う。
だから鈴花ちゃんが姉さんのことを知っていたとしてもおかしくない。
でも、知っていたからといってこうも緊張するかな?
僕以外の人と接する鈴花ちゃんを見ていると、絶対に緊張しないように見える。
少なくとも人見知りをするようなタイプではないし、誰かに憧れるような性格もしていない。
もちろん今は素の鈴花ちゃんだからまた違うといえば違うのだけど、姉さんが見せた反応からしても元々二人が知り合いだったわけではないと思う。
となれば、鈴花ちゃんが姉さんを特別視するような要素はなかった。
「ふふ、そんなに緊張しなくてもいいよ」
姉さんは緊張してしまっている鈴花ちゃんに対して、先程までの笑顔とは違って今度は優しい笑顔を向ける。
鈴花ちゃんの緊張をほぐそうとしているのだろう。
この人は本当に人の懐に入るのがうまい。
元々優しくて面倒見がいい人だし、そのおがけか僕の同級生や今の三年生からも人望を集めていたのを覚えている。
「あっ、えっと、はい……!」
しかし鈴花ちゃんは余程緊張しているのか、姉さんの笑顔でも緊張は解けなかったようだ。
姿勢をピンッと正し、緊張でガチガチとなった表情で姉さんの顔を見つめている。
あまりにも緊張しているので見ていて可哀想になるくらいだ。
だけど姉さんはそんな鈴花ちゃんを見て何かを察したようで、更に優しい笑みを浮かべる。
「鈴花ちゃんは紅茶は好きかな?」
「あっ、えっと……」
突然姉さんが話を変えたことで、鈴花ちゃんは戸惑ったように視線を泳がせる。
全然話に付いていけてないので緊張から頭が回っていないのだろう。
仕方ないね。
「ミルクセーキを作ってあげてよ、姉さん」
困っている鈴花ちゃんに対し、僕は助け船を出すことにした。
ミルクセーキと聞いた途端、鈴花ちゃんの表情がパァッと輝く。
ミルクセーキは鈴花ちゃんが好んで飲むドリンクの一つだ。
いちごミルク同様凄く好きだということを知っている。
そして姉さんは普段から料理だけでなくケーキ作りやドリンク作りを趣味としてやっているため、ミルクセーキくらいなら簡単に作ることができた。
「うん、わかった。じゃあ作ってくるから少しだけ二人でお話しててね」
そう言って姉さんは席を外す。
鈴花ちゃんに緊張をさせている原因が自分だとわかっているため、少しだけ鈴花ちゃんが落ち着く時間を作ってくれたのだろう。
その間に僕が鈴花ちゃんの緊張を解けという意思も込められているかもしれない。
「鈴花ちゃん、姉さんは怖い人じゃないから緊張しなくても大丈夫だよ」
僕は姉さんの姿が見えなくなった後、優しく鈴花ちゃんに声をかける。
すると、鈴花ちゃんは上目遣いに僕の顔を見つめてきた。
「わかってるけど、緊張するんだもん……」
「どうして?」
「どうしても何も……………………文君のお姉さんだから、緊張するに決まってるじゃん」
「えっ? ごめん、聞き取れなかった」
間を置いて発せられた言葉は消え入るように小さく、うまく聞き取れなかった僕はもう一度尋ね返す。
しかし、鈴花ちゃんはプイッとソッポを向いてしまった。
「えっと……?」
「文君のいじわる……」
「全くいじわるなんてしてないんだけど!?」
「してるもん……」
えぇ……いったい僕はいつ鈴花ちゃんにいじわるをしたのか。
むしろ彼女に助け舟を出したりしていたのに、なんでこんなことを言われているのかわからない。
だけどいじけてしまった鈴花ちゃんもかわいいと思ってしまっている僕がいる。
もうこうなってくると病気だね。
鈴花ちゃんはあくまで僕のことを友達としてしか見ていないんだし、嫌われないようにこんなことを考えているのはバレないようにしないと……。
いじけてしまった鈴花ちゃんを横目に僕はそんなことを考えてしまうのだった。
発売まで1週間をきりました!
是非とも、4月24日に発売されます書籍のほうもよろしくお願いいたしますヾ(≧▽≦)ノ
きっと楽しんで頂けると思います!
鈴花のとてもかわいいイラストを早く皆様にお届けしたいです……!!







