第42話「クール美少女はただのかわいい女の子」
「「――終わった……!」」
終了のアナウンスが流れ、片付けを終えて私服へと着替えた僕たちは会場の外にあった椅子に座りぐったりとしていた。
結論から言うと、結局千冊もあった本を売り切ることはできなかった。
だけど、最終的には七割くらいの本が売れたのだ。
絶望的だった午前のことを考えるとこの数は奇跡と言っても過言ではないだろう。
本音を言えば終了のアナウンスが流れた後もまだまだ列は続いていたため、時間さえあれば本当に千冊売り切れていたのではないかと思っている。
しかしそれは贅沢な考えで、七百冊も売れたことを喜ぶべきだ。
それに終了のお知らせを聞いて残念そうにするお客さんや、どうにか売ってほしいと言ってくれるお客さんもいて胸がとても熱くなった。
決まりを破ることはできないので結局売ることはできなかったけれど、神代先生は残った本は次の同人即売会に回せばいいと言ってくれたし、お客さんたちにそのことを伝えるととても喜んでくれた。
結局売り切れなかったことで神代先生には申し訳ないことをしてしまったけれど、先生は怒るどころか僕たちのことをとても褒めてくれたので、本が売り切れなかったことは気にしていないようだ。
そのおかげで春風さんも素直に七割近くの本が売れたことを喜ぶことができていた。
こういうところを見るに、本当に神代先生は優しくていい先生だと思う。
「お二人とも、お疲れさまでした。本当によく頑張りましたね」
春風さんと二人椅子に座り込んでいると、飲みものを買ってきてくれた神代先生がまた笑顔で労ってくれた。
この人も相当疲れているはずなのに、こういうところはやっぱり大人だよね。
僕たちとは体力も違えば、精神力も違う。
もう僕はクタクタで動きたくないくらいなのに、疲れた様子を一切見せない神代先生は本当に凄い。
チラッと春風さんに視線を向けて見れば、丁度彼女もこちらを見たタイミングだったらしく目が合ってしまった。
すると、彼女はとても嬉しそうな笑みを浮かべる。
「いっぱい売れたね」
七割もの本が売れて嬉しそうに話す春風さんの笑顔はとても素敵に見えた。
こんなふうに喜びを表に出す子は魅力的に見えてしまうものなのだ。
「本当にいっぱい売れたね。これも春風さんが手伝ってくれたおかげだよ、手伝ってくれてありがとう」
僕は彼女の言葉に同調した後、心の底からお礼を言った。
今日の結果はまず間違いなく春風さんがいてくれたおかげだ。
彼女の力がなければ十冊も売れなかっただろう。
イラストも、発想力も、そして人を集める魅力も彼女が全て持ち合わせていたものだ。
僕はそれに乗っかっただけになる。
――まぁそれはさておき、春風さんと一緒にいたこれまでの時間はとても楽しかった。
だから、今まではあまり乗り気じゃなかったけれど、神代先生に言われていたことを実行しようと思う。
「それで春風さん、一つ相談があるんだけどいいかな?」
「何? 遠慮なく言っていいよ」
「ありがとう。えっとね、春風さんさえよかったら、文芸部に入ってくれないかな?」
「えっ……?」
「僕は今日まで春風さんと一緒に創作活動をしていて、とても楽しかったんだ。それで、これからも春風さんと一緒に創作活動をしていきたいと思った。だから、春風さんに部員になってほしいんだ」
春風さんは他人と関わることを恐れている部分がある。
だから素っ気ない態度をとって相手を遠ざけていた。
彼女が部員になろうとしないのも、いつでも文芸部から離れられるようにしておきたかったのかもしれない。
僕はそんな彼女の気持ちを無視して、自分勝手なことをお願いした。
それくらい、僕はこれからも春風さんと一緒に創作活動をしていきたいと思っているんだ。
後は、春風さんの答え次第になる。
春風さんはジッと僕の顔を見つめるだけで、口を開こうとはしない。
おそらく、僕の様子を見ながら考えているんだと思う。
ここは下手に何かを言うよりも、彼女が答えを出すのを待ったほうがよさそうだ。
勧誘はしてるけど、春風さんの意思で部員になってほしいからね。
「――うん、いいよ。私、文芸部に入る」
春風さんが黙ってから数十秒後、彼女は小さく首を縦に振った。
「いいの?」
「うん。だって、私も凄く楽しかったから。こういったイベントごとがあれば、これからも参加していきたいと思うの」
どうやら、春風さんも僕と同じような気持ちだったらしい。
僕はそのことにホッと息を吐く。
そうしていると、なんだか春風さんが急に落ち着きなく僕の顔をチラチラと上目遣いで見上げ始めた。
右手では自身の綺麗な髪を触っているし、体全体でもそわそわとしている。
「どうしたの?」
「あっ、えっと……」
声をかけると、更に春風さんの様子は挙動不審になった。
その後ろでは何やら微笑ましそうに僕たちのことを見ている神代先生の顔が見えたけど、若干ニヤついているように見えるのは僕だけだろうか?
神代先生でもあんな表情をするんだね。
僕は神代先生の表情が気になったけど、目の前で挙動不審な様子を見せる春風さんが気になって再度視線を春風さんに戻す。
すると、彼女は意を決したように口を開いた。
「そ、それでね、えっと――これからよろしくね、文君……!」
彼女がどうして挙動不審な様子を見せていたのか、それは名前を呼ばれたことでわかった。
なんでそんな呼び方をしたのかはわからないけど、春風さんは僕のことを下の名前からもじったあだ名で呼んできたのだ。
多分この呼び方をするのに勇気がいったのだろう。
見ればいつの間にか顔も赤く染まっている。
春風さんの顔を見ていて僕の顔は急激に熱くなった。
おそらく彼女と同じように赤くなってしまっているんだろう。
「こちらこそよろしく……えっと、鈴花ちゃん」
僕がそう呼ぶと、春風さんは驚いたような表情を見せた。
というか、僕も驚いていた。
彼女に合わせようとは思ったのだけど、本当は鈴花さんと呼ぶつもりだった。
なのになぜか、口から出たのは鈴花ちゃんだったのだ。
「あっ、今のは――」
僕は慌てて取り繕うと口を開く。
だけど、春風さんの表情が変わったことにより、思わず口を閉ざしてしまった。
驚いた表情を浮かべていた春風さんの表情は、満面の笑みに変わっていたのだ。
「えへへ、よろしくね」
そう言う春風さんの笑顔は人懐っこい年相応のかわいい笑顔で、僕はその笑顔に見惚れてしまった。
――そっか、この子はクールな女の子なんかじゃなく、クールな仮面を被っただけのただのかわいい女の子だったんだ。
今回で第一章は終わりとなります(*´▽`*)
楽しんで頂けましたでしょうか?
楽しんで頂けたようでありましたら、評価や感想を頂けますととても嬉しいです(*^-^*)
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なろうさんではダイジェストだった鈴花のサービスシーンたちもがっつりと描写をしており、話も読みやすく、そしてさらに面白い物へと書きなおしております!
是非とも、お手に取って頂けますと幸いです!
そして、発売してからでは書店様で手に入らない可能性が高いと思いますので、今のうちにお近くの書店様、もしくはネット通販でご予約して頂けますと幸いです!
尊すぎる鈴花のイラスト、そして美人過ぎる神代先生のイラストを皆様に是非とも見て頂きたいです(^_^)
どうか、よろしくお願いいたします!







