第4話「クール美少女はむっつりというレベルじゃなかった」
「あの、感想……」
「あっ、えっと、そうだね。みんなとてもかわいいと思うよ」
「それ、だけ……?」
うわ、当たり障りのない感想を言ったら物足りなさそうな――そして、仔犬のような顔で見つめられてしまった。
春風さんは意外と欲張りな子みたいだ。
ただ、もしかしなくてもこれはシチュエーションとかについても感想を求められてるのかな?
いやいやそれはさすがにきついよ。
厚顔無恥な男子やそっち系が好きな男子なら喜んで語るのかもしれないけど、生憎僕はそのどちらでもない。
ましてや相手は春風さんなわけで……本当にどんな罰ゲームなんだ。
「えっと、本当にかわいいと思うよ」
「むぅ……」
うぅ、やっぱりかわいいという言葉だけでは納得してくれないらしい。
プクッと頬を膨らませて物言いたげに僕の顔を見つめてきている。
率直に言うと拗ねた春風さんの表情はとてもかわいいのだけど、今まで彼女に抱いていたイメージとかけ離れすぎていて戸惑ってしまう。
冷たくて素っ気ない女の子だと思っていたのに、今は何だか子供っぽく見える。
泣きやんだ直後だからなのかな?
まぁ何はともあれ、この様子だとちゃんと感想を言わないと駄目そうだ。
本当になんの罰ゲームなんだ……。
「触手……いいと思いました……」
「どんな感じで?」
何この子!?
鬼!?
鬼なのかな!?
恥を忍んでエロイラストに関して感想を言ったのに、春風さんは更に追及をしてきた。
容赦がなさすぎるんじゃないかな?
ましてや男子にしていい話題ではないと思うのだけど。
「触手が美少女にまとわりついてて……それで快楽と戦いながらも負けそうな感じの美少女がよかったです……」
どうも曖昧な感じでは逃がしてくれなさそうな春風さんに諦め、僕は半ば投げやりになりながら正直に答えた。
あぁ、穴があったら入りたい……。
「笹川さんって触手プレイが好きなんだ。マニアックね」
「……君に言われたくないよ」
確かに触手プレイがいいなんて言ったらマニアックだと思われるかもしれないけど、よりにもよって触手プレイを描いた本人に言われたくない。
後、目が輝いていて同士を見つけたような表情なのだけど、この子は今僕の事をどんなふうに見てるんだろう?
まさか、エロ好き仲間とか思われてないよね?
「この部室、文芸部……よね? 笹川さん一人だけなのかしら?」
春風さんの表情に戸惑っていると、彼女はキョロキョロと部室内を見回した後小首を傾げて質問をしてきた。
「えっ? あっ、うん、そうだけど?」
「そう……!」
あれ?
この子なんで余計に目を輝かせてるの?
そして、立ち上がったと思ったらどうして鞄を持って部室内を進み、僕が座っていた椅子の横に椅子を持っていっているのかな?
「あの……?」
「笹川さんに他にもイラストを見せてあげるわ……!」
「へっ!?」
何!?
どういうこと!?
「他にもいっぱい描いてるから……! だから見せてあげる……!」
春風さんは僕の戸惑いなんかに気付いた様子はなく、嬉々として鞄から大量にメモ帳を取り出した。
いったい何冊持ってるんだ。
「いや、あの……」
「これ、笹川さんが好きそうな物だと思う……!」
止めようと思い春風さんに近寄ると、クール美少女らしからぬ満面の笑みを浮かべて開いたメモ帳を見せてきた。
そしてそこに描かれているのは、ハイエルフらしき耳が凄く長い美少女が、粒々がついた触手に色々と酷い事をされているイラストだった。
うん、頭が痛い。
――それから下校時間までの間、僕は春風さんが描いたエロイラストに関して延々と感想を求められるのだった。
◆
キーンコーンカーンコーン――キーンコーンカーンコーン。
羞恥による精神的に大きなダメージを負って僕が遠い目をしていると、下校時間を知らせるチャイムが校舎内に鳴り響いた。
「あっ、チャイム……」
あれからずっと嬉々としながらエロイラストについて語っていた春風さんは、チャイムの音を聞いて残念そうに表情を曇らせる。
そしてどこか寂しそうに僕の顔を見てきた。
随分と楽しそうに話していたし、この時間が終わる事を残念に思っているのが見てとれる。
まぁ内容はもう僕の精神を思いっきり削ってくれるようなものだったのだけど、逆に言うと内容が内容だけに話し相手がいなかったんだと思う。
だから、勘違いからエロイラストに興味を持っていると思われた僕の事を話し相手と認識してここまで話をしてきたと見ていい。
まぁ少なくとも一つだけ言えることは、春風さんはむっつりというレベルではないという事だね。
よく男子相手にそんな事言えるねってレベルの話をたくさんしてきていたんだ。
正直顔が熱くて仕方ないよ。
同時に、春風さんのような美少女がエロイラストを描いていて、しかも嬉々として話している姿にドキドキとしてしまっている自分が情けない。
おかしいな、僕こんな人間じゃなかったはずなのに。
そして何より、クラスメイトとまともに話せない僕が春風さんとは意外と話せていた事に驚いている。
……いや、まぁ、色々と気圧されていたからまともに話せていたかどうかは怪しいけど。
「戸締りしないといけないから、春風さんは先に帰っててくれる?」
「なんで?」
「えっ?」
「私もきちんと手伝うわ」
どうやら春風さんは戸締りを手伝ってくれるみたいだ。
今まで関わってこなかったから噂でしか知らないけど、意外と優しいみたいだね。
「そっか、ありがとう。それだったら悪いんだけど、窓を閉めて鍵をかけてくれるかな? 僕はパソコンの電源を落としたりするから」
「わかった」
僕の言葉に従い春風さんは窓に向けて歩いて行く。
素直でいい子だよね。
さて、僕は今のうちにパソコンを落とさないと――あれ?
僕はパソコンの電源を落とそうとしてふと手を止める。
なんだろ?
なんだかとても大事な事を忘れている気がする。
喉元までその事が出かけているんだけど……いったいなんだったかな?
「――ごめん、笹川さん……」
「えっ?」
何を忘れているのか、それを思い出そうとしていたらいつの間にか春風さんが僕の後ろにまで来ていた。
その表情はとても申し訳なさそうに見える。
僕は考えるのをやめ、首を傾げながら口を開いた。
「どうしたの?」
「あの窓……鍵が固すぎて閉められないの」
春風さんが指さす方向を見れば、一番左側の窓だけ鍵がかかっていない。
「あぁ、この部屋結構ボロいから鍵の部分も錆びちゃってて固いところがあるんだよね。僕が閉めるよ」
「閉められるの?」
なんで不思議そうに聞かれるんだろう?
そりゃあ僕だって男なんだからいくら固くても窓の鍵くらいは閉められるんだけどな。
「よいしょっと」
固い鍵にも慣れた僕は右腕を軸にしながら全身の力を使って鍵を閉める。
ね、できたでしょ?
「わぁ、凄い」
自分が閉められなかった鍵を僕が閉めたからか、春風さんは感心したようにパチパチと拍手してくれる。
どうしよう、恥ずかしくなってきた。
「そっか、力が弱くても全身の力を使ったら閉められるのね」
「うん、力が弱い前提で話を進められてるのは気になるけど、まぁそういう事になるね」
春風さんの言ってる事は半ば間違っていないため、思うところはありながらも僕は素直に頷く。
なんだろ、確かに見た目が女の子っぽいと言われる事が多いけど、僕ってそんな非力に見えてるのかな?
「あっ、それよりも早く鍵閉めて職員室に持って行かないと先生に怒られちゃう!」
僕たち生徒には最終下校時刻というのが決められているため、その時間を過ぎたら結構厳しく怒られてしまうのだ。
その辺はこの学校が進学校だから仕方ないし、文化部の僕には着替えなども発生しないため普段なら気にしない。
だけど今は、春風さんとのやりとりで結構時間がやばくなりそうだった。
「そう、じゃあ急ぎましょう」
春風さんはやっぱり素直なようで、僕の言葉を聞くと急いで鞄を持ち上げて部室の前に出てくれた。
本当に素直でいい子だ。
この子があの学校で有名なクール美少女の春風さん?
全然そんなふうには見えないよね?
いや、確かにクールなんだけど、怖さがないというか、取っ付き辛くないというか。
別人……という事はないだろうけど……。
「ほら、笹川さん。急がないとだめなんでしょ?」
「あっ、うん、そうだね」
まぁもう春風さんはこの部室に用はないから明日からこないだろうし、深く考えるのはやめておこう。
どうせ明日からは関わる事がないだろうからね。
僕は春風さんの様子に疑問を持ちながらも、それ以上は考えるのをやめて部室に鍵をかけるのだった。
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