第36話「すれ違った末」
気まずい雰囲気が続くものだと思ったけど、意外にもその時間はすぐに終わった。
というのも、遊園地に着いた途端春風さんの表情が輝き始めたからだ。
「ここが、遊園地……!」
「もしかして春風さん遊園地に来たことがないの?」
「そうね、お父さんたちは仕事でいつも忙しいから連れてきてもらったことがないの」
なるほど、だからこんなに嬉しそうにしているのか。
お父さんたちがお仕事で忙しいなら仕方がないけど、少しだけ可哀想だと思った。
だから、今日はちゃんと春風さんに楽しんでもらおう。
「春風さんってどういうのが好き?」
「乗ったことがないからわからない」
確かにそれもそうだ。
僕のおすすめは観覧車だけど、あれは夕暮れ時や夜に乗るほうがいい。
海に反射する夕日やオレンジ色に染まる空はとても綺麗だし、夜は街に光がともって綺麗だ。
だから観覧車は最後に乗るのがいい。
「ジェットコースターは――やめておこうか」
試しに中に入ってから目についたジェットコースターを口にすると、途端に春風さんの表情が青ざめたためやめることにした。
クール美少女ってジェットコースターのような絶叫系が得意で好きなイメージがあるけど、彼女の場合は例外だったようだ。
そもそもこの知識は漫画で得たものだし、リアルとは関係ないね。
後は春風さんの根が本当は子供っぽいところも関係しているだろう。
見た感じクールで大人っぽい彼女だけど、実は苦い物が苦手だったり怖がりだったりという子供みたいな一面を持っている。
そういった意味では、今しがたジェットコースターに怯えた表情をしたのは納得ができた。
僕の言葉にコクコクと春風さんが一生懸命に頷いたのを見て、何に乗ろうか視線を巡らせる。
といっても、ここの遊園地は絶叫系が多いね。
昔はCMでお化け屋敷みたいなのを大々的に宣伝していたし、こっち方面で売っているのかもしれない。
夏には大きなプールも開いているようだけど、生憎今は夏の少し手前だ。
それにいくらなんでもプールで遊ぶのはハードルが高いし、小説では出てこない。
だからここのプールに春風さんと来ることはないだろう。
――と、一応ここら辺でも写真を撮っておこうかな。
「そういえば、この前のゲームセンターの時もそうだったけど、どうして写真を撮ってるの?」
スマホを構えた瞬間、丁度春風さんと目が合ってしまった。
言葉から察するに僕が写真を撮っていることにはとっくに気が付いていたようだ。
「気付いてたのにどうして今まで聞かなかったの?」
僕はバツが悪くなりながらも、春風さんが怒っているようには見えなかったため誤魔化すことはせずに理由を聞いてみる。
春風さんは髪の毛の先を指で弄りながら恥ずかしそうに頬を赤らめているだけで、本当に怒っているようには見えなかった。
「他の男の子がしてたら怒ってたけど、笹川君だから……まぁ、いっかなって……」
そう言う春風さんは僕から視線を逸らしており、どこか落ち着きがない様子だった。
僕ならいい。
それはいったいどういうことだろう?
僕は自分の鼓動が大きくなるのを感じながらも、彼女の言葉の意味を考える。
あぁ、そうか。
春風さんはきっと僕の思惑に気が付いているんだ。
そもそも職員室で僕に手があると言ってすぐにこんなふうに遊んで写真を撮っているのだから、気が付かないほうがおかしい。
もし気が付いていないのならその子はとても抜けている子だろう。
先程理由を聞いてきたのはただ確認したかったってところかな。
だからもうバクバクとうるさい僕の心臓は静かにしてくれ。
そんな都合がいい展開なんてないんだ。
まさか、彼女が僕に好意を持ってくれていて、だから許してくれているとかそんな漫画のようなことありえない。
ここで期待をしたら僕が後で傷つくだけなのだから、本当に静まってくれ。
答えが出た僕はそう言ってうるさい自分の心臓を静めようとする。
そして落ち着いたところで、春風さんの先程の質問に答えるために口を開く。
「春風さんも察してると思うけど、僕が写真を撮っていた理由は、春風さんにこれをイラストを描く資料として使ってもらうつもりだからだよ」
「えっ……?」
「イメージが消えちゃうんだったら、こういうふうに見て描ける資料があればいい。春風さんのおかげで写真も結構集まったから、今日の遊園地で撮った後に整理すれば十分だと思う」
「つまり……今日のことやゲームセンターでのことは……その写真のため……だったってこと……?」
「えっ?」
何かおかしい、そう感じたのは、春風さんの強張った声を聞いたからだ。
見れば先程まで照れていた表情は鳴りを潜め、目の端には涙がたまり、そして――表情は、怒りを含むものへと変わっていた。
「春風さん……?」
「帰る」
「えっ……?」
「もう帰る……!」
どうしてかわからないけど、何かに怒ってしまった春風さんは踵を返してしまった。
そして怒りを全身で表現しながら入口に向かって歩いていく。
どうやら本当に帰るつもりのようだ。
「ちょっ、まっ、待って! 待ってよ、春風さん!」
さすがにこのまま彼女を帰らせるわけにはいかず、僕は慌てて春風さんの手を掴む。
すると、彼女の怒りを秘めた顔が僕へと向いた。
「馬鹿みたい」
「えっ?」
「もういい、帰る」
「待ってってば! ごめん、気に障ったのなら謝るからさ! ちょっと待ってよ!」
「……理由もわかってなくて謝ることに意味なんてあるの?」
春風さんはやっと足を止めてくれたと思ったら、今度はいつも他の生徒たちに向ける冷たさを含んだ目を僕に向けてきた。
ここ最近ずっと向けられていた優しさなんて微塵もなくなっている。
彼女が僕のことを突き放そうとしていることがすぐにわかった。
「そうだね、確かに理由がわからずに謝るのはよくないと思う。そして僕に理由がわかってないのも事実だよ。だからさ、なんで春風さんが怒ってるのかを僕に教えてよ」
僕は春風さんの目に身が竦む思いをしながらも、ここで退いたら絶対に駄目だと勘が告げていたため、春風さんと向き合うことにする。
すると――
「それは…………言えるわけないじゃない……」
――なぜか、春風さんは顔を真っ赤にしてプイッと顔を背けてしまった。
うん、どういうこと?
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