第35話「無言で服の袖を握ってくる美少女」
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「春風さん?」
僕が声をかけると、春風さんは髪を耳にかけたり、そのまま髪の毛の先を弄ったりと落ち着きのない様子を見せる。
そしてチラチラと僕の顔を見てくるんだけど、彼女が何をしたいのかがわからない。
「どうかしたの?」
「あっ、えっと……笹川君、凄いんだね」
「えっ?」
「不良相手に怖気つかなくて……かっこよかった……」
春風さんのその言葉は、消え入りそうになるくらい小さな声だった。
しかし、しっかりと僕の耳には届いてしまっており、その言葉の意味を理解すると途端に顔が熱くなってしまう。
恥ずかしさに耐えられなくなり、僕たち二人は顔を赤らめながらお互い視線を逸らしてしまった。
すると、周りからヒューヒューとめちゃくちゃ冷やかしが飛んでくる。
どうやら完全に見世物になってしまっているようだ。
そっか、春風さんが注目を集めていたから僕の先程のやりとりはみんなに見られていたのか。
それで不良みたいなチャラ男たちを追い返したらからこれだけ称賛してもらえているのかな?
まぁ、追い返したというか、あの龍弥という人が退いてくれただけなのだけど、春風さん効果かいいように映ってしまったみたいだ。
「場所、移そうか……」
「う、うん……」
僕たち二人は周りの冷やかしから逃げるように遊園地へと向かうことにした。
「そういえば、どうして今日は遊園地のある駅で待ち合わせだったの? 別に電車内でもよかったんじゃないのかな?」
今日は春風さんの希望でブラジルをモチーフにした遊園地の最寄り駅で待ち合わせだった。
お互い家の最寄り駅が違うのだから自分たちの最寄り駅で待ち合わせができなかったのはわかるけど、わざわざ遊園地の最寄り駅で待ち合わせをする必要はなかったと思う。
しかし、これは聞いてはいけなかったことだったのかな?
「べ、別に、こういう気分の時もあると思うの……」
春風さんは純白の肌を真っ赤に染めたまま、恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。
モジモジとしていてとてもかわいく、なんだかその姿を見ていると言いようのない恥ずかしさが込み上がってきた。
「そ、そうだね……」
「うん……」
「「…………」」
話すことがなくなってしまい、僕たちの間に沈黙が訪れる。
いや、話すことがないんじゃなく、気恥ずかしい雰囲気に喋れなくなったんだ。
「「あ、あの」」
そして無理に何か話そうとすれば、お互いの言葉が重なってしまう始末。
なんなの、これ。
まるでラブコメ漫画のような展開じゃないか。
「あっ、春風さんから先にどうぞ」
「うぅん、笹川君のほうからでいい」
挙句こんなふうにお互いが譲ってしまう始末。
僕は知っている。
こうなった時はお互いが譲り続けて一向に進まないことと、キャラによっては喧嘩が始まってしまうことを。
だからもう僕から話してしまうことにした。
「服、かわいいね。とても似合ってるよ」
僕が言いたかったこと、それは彼女の服がよく似合っているということだった。
姉さんから教えてもらっていたことだけど、まずこんなふうに女の子と遊びに行く時は服装を褒めるということ。
でも、ただ褒めればいいというわけではない。
ちゃんと相手がお洒落に気を遣っている部分をピンポイントに褒めるのがいいと言われていて、相手が特に気を遣ってないところを褒めるとお世辞だと捉えられて嫌な気分にもさせることがあるため、ちゃんと見極めるように言われていた。
その点は春風さんは全身の御洒落に気を遣ってくれているようでどこを褒めても問題なしだ。
白色の肩あきタートルニットに、水色のミニスカート。
靴はヒールではなく白色のレザーロングブーツを履いている。
これは遊園地で遊ぶことを考慮してくれているのかもしれない。
正直春風さんのような隙のない女の子が、肩あきの服や太ももまで見える短めのスカートを履くとは思わなかった。
だけどとても似合っているし、なんというか男心をくすぐられるような服だ。
僕的には凄く好きな服装である。
しかし、褒めたのはよくなかったのか春風さんはそっぽを向いてしまった。
「…………かわいいって、かわいいって言われた……! 勇気を振り絞ってこの服買ってよかった……!」
なんだかブツブツと呟いているんだけど、もしかして褒めたことで怒らせてしまったのかな?
どうしよう、今日も写真をいっぱい撮るから彼女のご機嫌を取らないといけないのに、怒らしてしまったら今後がまずいじゃないか。
どうフォローをしようか、そう考えていると何やら春風さんが僕の目を見てきた。
てっきり怒られるのかと思ったけど、予想もしない言葉を言われる。
「笹川君も、その……似合ってると思う」
顔が真っ赤になっている春風さんにいきなり褒められ、かぁーっと顔がまた熱くなった。
そして思わず顔を背けてしまう。
こんな真っ赤になっている顔を彼女に見られたくなかったのと、気恥しくて彼女の顔を見られなくなったからだ。
「えっと、ありがとう……」
「うん……」
「「…………」」
そして、再び訪れる沈黙の時間。
こんな時間は僕の人生で初めてかもしれない。
おかげでどうしたらいいのか全く分からなかった。
すると、なぜか春風さんがギュッと僕の服の袖を握ってきた。
先程チャラ男たちがいなくなってから放していたのに、どうしていきなり握ってきたのかわからない。
「は、春風さん……?」
「なに……?」
「いや、うぅん、なんもでない……」
声をかけながら春風さんのことを見ると、彼女は耳まで真っ赤にした状態で俯いていた。
その様子を見て僕は何も言えなくなる。
そして全身をかきむしりたくなるような痒さに襲われた。
もうおかしくなりそうだ。
僕たちは無言のまま遊園地へと連れて行ってくれるバスに乗り込んだ。
席は結構空いていたのだけど、僕が座ると春風さんも当たり前のように僕の隣の椅子へと座った。
そして肩が当たりそうなほど近くに体を寄せてくる。
というかもうほとんど当たっていた。
顔を赤く染める春風さんも、しおらしくなっている春風さんも全てがかわいくて仕方がない。
こんなふうに体を寄せられると男としての欲望も出てくるわけだし、もう本当にどうにかなってしまいそうだった。
ただイラストの資料にするために写真を撮りにきただけなのに、どうしてこんな展開になっているのか。
わけがわからないけど、とりあえず凄く嬉しいことには間違いない。
最悪でも勘違いはしないようにしないといけない、春風さんだって別に僕のことを男としては見てないだろうし。
そう、多分女友達みたいな感じでいるんだと思う。
少し前まではちょいちょい勘違いされていたし、女の子が相手ならこんなふうにくっつく女の子たちは今までいっぱい見てきたからね。
中には腕を組んでいる子たちだっていたことがある。
うん、だから勘違いはしたらだめなんだ。
勘違いしちゃったら彼女に嫌われてしまう。
それだけは避けたかった。
僕は遊園地に向かうバスの中で、一人勘違いをしないよう心に強く決めるのだった。







