第33話「さ、笹川君ならいいよ」
「いいよ、仕方がないことだからね」
「怒らないんだ……?」
「はは、怒るようなことでもないでしょ、こんなこと」
春風さんがポンコ――抜けているのは今に始まったことじゃないし、これで春風さんと一緒にいられる時間が増えたんだ。
感謝はすれど怒ることはない。
「やっぱり、笹川君は優しい……」
なんだか春風さんが、最初に取ってあげたぬいぐるみを袋から取り出してギュッと抱きしめながら僕のことを上目遣いに見てきたんだけど、いったいどうしたのだろう?
何か声が聞こえた気もするけど、小さくてうまく聞き取れなかった。
それに相変わらずぬいぐるみをギュッと抱きしめる春風さんはかわいくてずるいと思う。
こんな姿でお願いでもされようもなら男はみんな彼女のお願いを聞いてしまうだろうね。
それから二十数分後、春風さんが乗る予定の電車がきた。
後は彼女を見送って終わり――そう思ったのだけど、どうやら神様はここで終わらせてくれるつもりはなかったらしい。
というのも、春風さんのために取ったぬいぐるみは僕の両腕にもあり、これを彼女に持たせるのはあまりにも酷だったからだ。
「さ、笹川君……」
当然春風さんもぬいぐるみがいっぱい入った袋を四つも持つなんて無理だとわかっているため、困ったような表情を僕に向けてくる。
ここで僕が取れる選択肢なんてもう決まっているだろう。
てかもはや選択肢ですらない。
これは確定事項だ。
「一緒に行くよ」
「い、いいの?」
「さすがにこれを春風さんに持たせるのは気が引けるからね。でも、春風さんもいいの? 家の前までとはいっても、春風さんの家の位置を僕が知ってしまうことになるんだけど」
「あっ、う、うん。さ、笹川君ならいいよ」
笹川君ならいいよ――そう言われた途端、僕は言いようもない気恥ずかしい思いに襲われた。
そして顔がとんでもなく熱い。
多分今僕の顔は真っ赤だろう。
だけど、目の前にいる春風さんも顔を赤くして僕から視線を逸らしていた。
どうやら恥ずかしい思いをしているのは僕だけではないらしい。
「えっと、じゃあ送って行くね」
「う、うん」
僕たちはお互い緊張した面もちで再度電車に乗る。
相変わらずチラチラと春風さんは僕の顔を見上げてくるけど、何かを言ってくることはない。
その後は特に何かが起きることはなかった。
彼女の駅に着き、そのまま十分ほど歩いたところで彼女の家には着いたからだ。
豪邸ということも可能性としては考えていたけど、春風さんの家は普通の家庭より二回りほど大きいという感じだった。
「ここが、私の家」
「大きいんだね」
「そうかしら?」
「うん」
「「…………」」
他愛のない会話をしてすぐ、僕たちは黙り込んでしまった。
後はもう挨拶をして別れるだけなのに、なぜかその言葉が切り出せない。
春風さんも同じ気持ちだろうか?
だけど、いつまでもこうしているわけにはいかない。
電車を待つことで約三十分ほど時間を余計に喰ってしまっているし、あまりここにいると春風さんのご家族に鉢合わせしかねないからね。
「じゃあ帰るよ」
「あっ、うん……」
帰ると言うと、一瞬春風さんが寂しそうな表情を見せた。
しかし、すぐに春風さんは優しい笑みを浮かべた。
「今日はありがとう。ぬいぐるみをこんなにも取ってもらえたし、とても楽しかったわ」
「喜んでもらえてよかったよ。じゃ、また明日」
「また明日。おやすみなさい、笹川君」
僕は春風さんのどこか寂しそうな表情を見て後ろ髪を引かれる感覚に襲われてしまったけれど、今日のところはこのまま帰ることにするのだった。
◆
次の土曜日――春風さんと僕はとある待ち合わせをしていた。
今日は朝早くから春風さんと一緒に遊園地に行く予定なのだ。
この遊園地での写真さえ手に入れば一通りほしかったものは手に入るという状況だった。
そうして待ち合わせ場所に向かった僕なのだけど、思わぬ光景に息を呑む事になる。
というのも、ある一箇所に大きな人混みができていいたからだ。
そしてその中心にいるのは遠目からでもわかるくらいの美少女であり、僕がよく知っている女の子だった。
――そう、春風さんだ。
今まで制服姿しか見てこなかったけど、私服姿の春風さんのかわいらしさは制服の時よりも遥かにかわいくなっている。
どうやら春風さんはお洒落にも気を遣う子のようだ。
そして、服を選ぶセンスもいいと思う。
あれは傍から見るとアイドルやモデルにしか見えない。
道理でこんなにも人混みができているわけだ。
………………えっ?
よく考えたら僕、あの注目されきっている中に飛び込んでいくの?
いくらなんでもそれはちょっと鬼畜展開すぎないかな?
絶対に周りから変な目を向けられるじゃないか。
あそこまでの美少女が待っているのなら当然みんなはそのお相手にも興味を持っているはず。
それなのに僕なんかのようなどこにでもいる男が彼女に声をかけたら、がっかりされたり馬鹿にされたりするんじゃないかと思った。
何より、春風さんに恥をかかせるんじゃないかと。
しかし、こんなことを考えている間も時間は刻一刻と過ぎていく。
それによって待ち合わせ時間まで残り少なくなってしまっていた。
さすがにこのまま外野に混じって見ているわけにもいかなくなり、僕は勇気を振り絞って春風さんの元に向かおうとする。
だけど――そんな時、春風さんが男二人組に声をかけられてしまった。
片方は長髪でアクセサリーを体中に付けた如何にもチャラ男といった感じの男。
もう一人はカジュアルといえばいいのか、気軽にくつろいだ服装ではあるけど、男の僕でもかっこいいと思うようなお洒落男だった。
そして二人とも、結構なイケメンでもある。
さぞかし女を喰ってきたのだろうというような感じで、春風さんに話し掛ける様子も慣れているように見えた。
きっと今までこんなふうにナンパをしてきたんだろう。
そして表情から読み取れる自信からはそれらが成功してきたことを物語っている。
そんな男たちが春風さんのような超絶美少女が一人でいれば放っておくわけがなかった。
彼女は完全にターゲットにされてしまっている。
まずいな。
そう考えた僕はもう話し掛けづらいとか言っている場合じゃないと思い、急いで春風さんの元に向かった。
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