第30話「超絶拗ねるクール美少女」
「――また、二人で一緒にいる……」
「春風さんが自分から話し掛けるのあいつだけだぜ。なんであいつばっかり……」
靴に履き替えて校庭に出ると、外で活動をしていた運動部たちの視線が僕たちに向いていた。
きっと春風さんがいるから注目を集めてしまっているんだろう。
表情から嫉妬されていることがわかる。
もうこの視線を向けられることにも結構慣れてしまったかもしれない。
それだけ春風さんと一緒にいるということなんだろう。
「それで、どこに行くの?」
隣を歩く春風さんが、チラチラと僕の顔を見上げ、髪の毛の先を指で弄りながら質問をしてきた。
「そうだね、とりあえず今日はゲームセンターに行ってみようか」
「とりあえず……つまり、またあるということ……!」
「ん? どうしたの?」
「う、うぅん、なんでもない……!」
やっぱり今の春風さんはどこか変だ。
普段ならしないガッツポーズを小さくしてるし、クールだからわかりづらいけどどっかはしゃいでいるようにも見える。
そんなに遊びに行きたかったんだろうか?
厳しい教育をする家庭で育ってきたのかな?
普段の春風さんってクールで落ち着いているし、とても真面目な印象がある。
それに勉強も学年で一番できるくらいだから、やっぱりそうなのかもしれない。
そう考えると、エロイラストに趣味が走ってしまったのは彼女が厳しい家庭で育てられたことによる反発とも思えるね。
苦労してるんだな、春風さん。
「なんだか酷い想像をされてる気がする」
心の中でだけ春風さんに同情をしていると、いつの間にか不機嫌な表情になった春風さんにジト目を向けられてしまった。
もしかして僕は顔に出してしまったのかな?
「な、なんでもないよ。うん、なんでもない」
春風さんのジト目は怖いのにちょっと癖になりそうなのが更に怖い。
絶対彼女のジト目が好きな男子はこの学校にいる。
むしろ大人数が好きかもしれない。
美少女ってなんでも許されるから強いよね。
それから僕たちは予定通り電車に乗り、ゲームセンターへと向かった。
僕たちの住む地域は東京などの都会とは違って、ゲームセンターの娯楽施設がある場所など限られている。
それにスマホなどの普及や、家でできるゲームのクオリティがかなり高くなった事でゲームセンターに行く人も少なくなり、今だとゲームセンターがかなり少ない。
だから僕たちは岡山駅まで出てきていた。
「――おい、見ろよあれ」
「なんだあの美少女。アイドルが撮影にきたのか?」
「ずるい、同じ女の子なのにあのかわいさ何」
「あれすっぴんだよね? 化粧してなくてあのかわいさってなんなのよ」
岡山駅は人が多く集まるところで、すれ違う人すれ違う人から春風さんは注目を集めていた。
やはり彼女ほどのかわいさになると街中でもそうそういないらしい。
本当にかわいいんだよね。
「なぁ、隣を歩く黒髪の子もかわいくないか?」
「いや、でもあれは服装的に男だろ?」
「やばい、あの子タイプ……! 喰いたい……!」
「ちょっと、よだれ! よだれ垂れてるわよ! あんた女限定じゃなかったの!」
「いや、あのかわいさは例外でしょ……! 男なんてくそくらえって思ってたけど、あの子ならいいわ……! 男も捨てたもんじゃないわね……!」
ぞくっ――。
なんだか、背筋に凄い寒気が走った。
きっとアイドル顔負けの春風さんの隣を歩いているものだから、嫉妬の視線を向けられているんだろう。
数が多くなればそういう視線も強くなるし、それで寒気が走ったのなら納得がいく。
こういうのは気にしても仕方ないため、もう割り切るしかないだろう。
「むぅ……」
だけど、やはりこういった視線は春風さんも嫌なようで、不服そうに小さく頬を膨らませていた。
「あげない……」
「えっ?」
「うぅん、なんでもない」
なんだか一瞬春風さんの目が怖くなった気がしたけど、彼女は小さく首を横に振ってなんでもないと主張する。
気のせいだったのかな?
「それで、お店はどこ? 早く行きましょ」
「あっ、うん、そうだね」
注目を集めたせいで春風さんはご機嫌斜めになっているようで、この場から早く離れたいみたいだ。
僕もその意見には賛成なので、昔家族で行っていたゲームセンターを目指した。
そしてゲームセンターに着いたのだけど、春風さんはゲームセンターに来たのが初めてらしくどう遊んだらいいのかわからないらしい。
昔からある太鼓を叩くリズムゲームに興味を示したようだけど、マイバチという自分専用にゲーム用のバチを作っているガチ勢がいて、その人の超絶技を目にした途端やる気が失せたようだ。
太鼓のゲームのガチ勢は人間の域を超えているからね。
どうやったらあんなに速く流れてくる譜面を叩けるのか今でも不思議でしかない。
聞いた話だと曲ごとの譜面を覚えているらしいけど、あんなのを見せられたら初心者は手を出し辛いよね。
まぁでも、見てる分には凄くて興奮してしまい、見入るんだけどね。
ただ、やってみたかった春風さんとしては残念だったようだ。
「あのリズムゲームをやってみよっか」
春風さんが先程の太鼓のリズムゲームに興味を示したので、僕は別のリズムゲームを提案してみた。
かわいいボーカロイドが映っている画面で、五ヵ所タッチするところがあり、曲に合わせて流れてきた色の物体をタッチしていくゲームだ。
やったことはないし、これにもガチ勢はいるのだけど、今は誰もやっていないので一緒にやるチャンスだろう。
春風さんもかわいいボーカロイドが気に入ったのか、コクコクと頷いてお金を取り出した。
やる気になってくれたようだ。
そして一緒にやってみたのだけど――。
「むぅ……!」
春風さんは、超絶拗ねていた。
というのも、この子見た目の可憐さからはわからないほどにリズム感がなかった。
なんでもそつなくこなしそうだから漫画のキャラみたいにハイスコアを叩き出すかと思ったのだけど、結果は真逆と言えるものだった。
むしろよくそこまで失敗するねってレベルだったからね。
流れてきているものに合わせてタッチすればいいだけなのに、それができないということはもしかしたら彼女は運動音痴かもしれない。
「えっと、違うゲームをしようか」
このまま放置しておくわけにもいかないので、頬をパンパンに膨らませている春風さんに別のゲームを紹介することにした。







