第25話「クール美少女はやきもちやき」
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「は、春風さん? どうしたの?」
急に腕を引っ張られたものだから、僕は戸惑いながら春風さんに声をかける。
しかし春風さんは僕の顔を見ていなくて、頬を膨らませて神代先生を睨んでいた。
この子は命知らずか!?
そう思った僕は、急いで庇うように春風さんを背中に隠した。
才能のない僕と同格に扱われたのが嫌だったのはわかるけど、まさかそこまで拗ねた態度を見せなくてもいいのに。
神代先生に喧嘩を売るのは本当にやめておくべきだ。
「せ、先生、僕に春風さんほどの才能と同格くらいの才能があるわけがありませんよ」
春風さんの態度に少々驚いた表情をしていた神代先生に対して、僕は笑顔を作りながら春風さんが拗ねている部分のフォローをする。
どうして僕ばかりこんな損な役が回ってくるのかと思ったのだけど、きっと春風さんと付き合っていく以上これは仕方がないのだろう。
もうそこは諦めたほうが良さそうだ。
しかし、神代先生はまたもや珍しく笑みを浮かべる。
「ふふ、そうですか、そこまでいっていましたか」
何がどこまでいっているのかよくわからないけど、なんだかとても機嫌が良さそうだ。
まるで微笑ましい物でも見るかのような目を僕や春風さんに向けてきている。
神代先生の笑顔を見たのは多分今日が初めてだけど、美人が微笑むと魅力が数倍に増すんだなってことを知った。
ただ、何が不満だったのか余計に春風さんは頬を膨らませて僕の腕を抱き込んだ。
……ちなみに、その際に柔らかい感触が僕の腕に当たることはなかった。
「確かに笹川君の文章力は皆無に近いです」
そしてなぜか始まるいきなりの駄目だし。
いや、確かに文章力に自信はないのだけど……皆無ですか。
さすがに一年以上活動していただけにこれはこたえる。
「ましてやタイトル決めのセンスも最悪です」
うん、だからどうして駄目だしされてるんだろう?
タイトルあれで駄目なの?
いいと思ったのにな……。
「ですが、キャラのやりとりや、話の内容は不思議な魅力があります。文章力に関しては努力で身に付きますが、話作りはセンスです。そして私は、あなたの小説を読んで話作りのセンスがずば抜けていると思っていましたよ」
神代先生は落としてから上げるという、なんというか指導者に向いてそうな手法で僕のことを褒めてきた。
今まで一度も褒められたことなんてなかったのに、まさかそこまで買ってくれていたとは思わなかった。
だったらもっと褒めてくれてもよかったのに。
たまに感想を言ってくれたと思っても素っ気なかったからね。
ましてや僕から聞かない限りアドバイスとかはしてもらえないし、正直見放されているとすら思っていたのにな。
「そこまで言ってもらえて嬉しいです……」
「わかってもらえて何よりです。まぁですが、これは怒ってもいるんですけどね」
「えっ……」
てっきり褒めてもらえたとばかり思っていたのに、なぜか最後に水を差されてしまった。
というか笑顔で僕の肩を掴んできたんだけど、今からいったい何をされるんだろう?
せめて笑顔で怒るのだけはやめてほしいんだけど……。
「言いましたよね、文章力は努力で身に付くと。それなのにどうして笹川君は文章力が皆無なのでしょうか?」
「あっ……」
そうか、そういうことか。
つまり先程の褒め言葉には嫌味が入っていたわけだ。
文章力がない僕は、今まで努力してこなかっただろうと言われているようだ。
確かに結構好き放題書くだけで、文章の書き方とかはほとんど意識しなかった。
意識せずにやっていれば当然身に付く事や伸びることはない。
もちろん正確には少しくらい上達するだろうけど、そんなのたかが知れている。
神代先生は僕が努力をしていないことに関して注意をしてきているようだ。
「去年の三年生たちは随分と笹川君のことを甘やかしていましたし、私も目を瞑ってきましたが――作品を売りに出すなら話は別です。残りの時間、文章力を上げるには十分すぎるほど時間がありますね?」
ニコッととても素敵な笑顔を見せる神代先生。
きっとこの笑顔を普段からしていれば引っ切り無しにいろんなところからお誘いがきていたことだろう。
少なくとも、この学校にいる多くの生徒は彼女に心を奪われそうだ。
……しかし、今の僕はその笑顔に恐怖しか感じなかった。
残り一ヵ月あるかどうかわからないのに、この先生は僕の文章力を引き上げると言っているのだ。
つまり、どれだけ詰め込まれるかわかったもんじゃない。
「え、えっと、話のほうも書かないといけないので、文章力アップだけに時間を使うわけには……」
このままではとんでもないことになりそうだ、そう勘が告げていた僕はおそるおそる逃げ道を探る。
しかし、それは思わぬ方向から塞がれてしまった。
「『銀髪クーデレ美少女は今日もかわいい』を出せばいい」
そう口にしたのは、頬をパンパンに膨らませて僕たちを睨む春風さんだ。
ギュッと僕の腕を抱きしめているのだけど、なんだかさっきよりも力が強くなっている気がした。
というか、ちょっと痛い。
「いや、あれは全然受けてないから駄目だよ」
無料小説サイトでブックマーク数が十人もいってない作品は出したら駄目だろう。
そう思って言ったのだけど、ご機嫌な斜めな春風さんは不満そうに首を横に振る。
「あれはタイトルが悪すぎるのと、文章力がないせいでほとんど内容も読まずに切る読者が多いせい。手直しをすればきっと人気作になる」
どうやら春風さんは神代先生と同じようで、僕の作る話のことを評価してくれていたようだ。
……うん、タイトル決めのセンスがないことや、文章力がないことも同意らしい。
いや、そもそも彼女って僕の小説をほとんど読んだことがなかったんじゃないのかな?
一回だけ僕が神代先生と席を外した時に読まれていたことはあるけど、あの時間ならたかが知れているはずだ。
それなのにどうしてこんなことを言ってくるんだろう?
「春風さんって僕の小説をあまり読んだことないんじゃないの?」
「………………これ」
疑問に思った僕が尋ねてみると、何かを凄く悩んだ後、春風さんは自分のスマホを操作して画面を僕に見せてきた。
それは、僕たちが使っている小説サイトのマイページだったようだ。
そしてそこには春風さんがブックマーク登録している作品の名前が載っていて、なぜか物凄く見覚えがあるタイトルがあった。
――そう、僕が書いている『銀髪クーデレ美少女は今日もかわいい』というタイトル名だ。
春風さんに作品のことを知られた時からブックマーク数は増えていない。
ということは、彼女は元々僕の作品をブックマーク登録してくれていたって事なのか……?







