第20話「最悪の想定」
『お互いの秘密を知ってからクール美少女が仔犬のように付きまとってくるようになった件について ~アマチュア作家の僕とエッチなイラストレーターである彼女の秘密の関係~』の書籍化が決定しました!
それから僕たちは朝昼夕、いつも一緒にいてラノベや漫画、アニメの話で楽しい時間を過ごしていた。
極たまに気を抜けば春風さんがエロ話をぶっこんでくることがあるけど、それに関しても即座に話題を逸らすという対応をして慣れたと思う。
まぁ話題を逸らすと、決まって春風さんは小さく頬を膨らませて拗ねた表情を見せるのだけど、数分後にはラノベなどの話に熱中して機嫌は直っている。
こういうところは噂と違いちょろいんだよね。
そしてそんな彼女のことをかわいいと思ってしまっている自分がいる。
彼女と一緒にいる時間は本当に楽しかった。
だけど――そんな時間は、いつまでも続くということはなかった。
『――二年A組春風さん、二年C組笹川君、至急進路指導室まで来てください。繰り返します、二年A組春風さん、二年C組笹川君、至急進路指導室まで来てください』
それは一限目の最中に行われた放送。
授業中に呼び出しを喰らうなど余程の事態だと誰もが思う。
実際、授業を教えてくれていた数学の先生やクラスメイトたち全員が戸惑ったように僕の顔を見てくる。
僕だけならともかく、春風さんまでも呼び出しを喰らった。
その事実が僕に嫌な汗を流させる。
しかも呼び出されたのは職員室ではなく、進路指導室。
進路指導室に呼び出されることは極たまにあるけど、特定の生徒だけというパターンはほとんどない。
いつも順番にみんなが呼ばれて今後の進路に関して担任の先生と話をするのが通常だ。
どうしよう、汗が止まらない。
「笹川君、とりあえず進路指導室に行ってもらえますか?」
僕が固まって動こうとしなかったせいで、数学教師に行くよう促されてしまった。
僕は頷いて立ち上がると、すぐに進路指導室を目指そうと教室のドアを開ける。
すると、開けたドアの向こうにはここ最近いつも一緒にいる女の子が立っていた。
「あっ、春風さん……」
「笹川君、これってもしかしなくてもまずい事態?」
どうやら春風さんもこの事態の異常さに危機感を覚えているようだ。
僕は彼女の質問にコクリと頷き、とりあえず進路指導室に行こうと告げた。
春風さんは不安そうに僕の顔を見つめてきたけど、生憎今の僕には彼女を安心させる言葉も根拠もない。
正直どうして呼び出されたのかすらわかっていないからだ。
ただ、不安要素は多分に持っている。
今僕が願っているのは、呼び出された理由が部員ではない春風さんがいつまでも文芸部の部室に居座っているという事であってほしいということだ。
前に神代先生に得た許可のタイムリミットがきた、そうであってくれるのが一番マシだと思う。
少なくとも今頭に過っている最悪なパターンではないでほしい。
もしこの不安が当たってしまえば――最悪、春風さんの退学だってありえるからだ。
「――失礼します、二年C組笹川、二年A組春風です」
進路指導室に着き、ドアを三回ノックした後僕が代表して中に話し掛ける。
すると、中からは四十くらいの中年男性の声が聞こえてきて中に入るよう促された。
その声を聞いた途端、僕の体は竦んでしまう。
よりによってこの先生に呼び出されるなんて……。
僕は自分たちの不運を恨みながら、ゆっくりとドアを開けた。
中で僕たちを待っていたのは、眼鏡をかけた少し髪が薄くなっている意地が悪そうな顔をした男性教師。
融通が利かない堅物で、学生に対して学力が全てだと思っている先生だ。
生徒に対して当たりが強く、学力が低い生徒には鼻にかけた笑い方をして馬鹿にすることでも有名である。
一番怖い先生と言えば神代先生だけど、一番めんどくさくて嫌われている先生はまず間違いなくこの下口先生だ。
一応この人、二年生の学年主任でもある。
そしてその隣には、額と腰に手を当てている神代先生も立っていた。
もう文芸部関係のことで間違いない。
しかも、額に手を当てている様子から悪い話だとわかる。
「授業中に呼び出して済まないが、君が笹川か?」
下口先生はギロリと睨みながら僕に名前を確認してくる。
春風さんに確認しなかったのは彼女が有名で面識があるからだろう。
「はい、そうです」
「どうして呼ばれたかわかるか?」
「いえ……」
わからない。
よくないことだってのはわかるけど、どうして呼び出されたかまでは未だにわからなかった。
「春風さん、君は文芸部の部員でもないのに文芸部の部室に入り浸っているらしいな?」
僕に対する説明はなく、今度は春風さんに話を振る下口先生。
僕のことは呼び捨てだったのに春風さんはさん呼びなのは、彼女が女の子だからか、それとも学年トップの優秀な生徒だからなのか。
おそらく後者だろう。
「はい」
春風さんは短く返事をし、首を縦に振る。
そして不安が増してしまったのか、ギュッと僕の服の袖を握ってきた。
「どうして文芸部でもないのに入り浸っているんだ?」
「笹川君に小説の参考になるから話し相手になってほしいと言われました。元々同じ本が好きだということで仲良くなり、それから文芸部に顔を出すようになったのです」
これは僕が考えた彼女が文芸部に来ていることの建前だ。
神代先生との一件以来他からもこういう声があがることは予想できたため、予め考えて春風さんに伝えておいた。
少しでも建前があれば、春風さんの取っ付き辛い雰囲気によって深入りはされないと思ったからでもある。
しかし――。
「嘘だな」
なぜか、下口先生にはあっさりと否定されてしまった。
その瞳からはハッタリでなく、確信を持って言っていることがわかる。
そして下口先生はこちらを見たまま何かを鞄から取り出した。
取り出された物が何か。
それを理解した瞬間、僕は全身から血の気が引いた。
下口先生が取り出した物――それは、春風さんが普段使っているペンタブレットだったのだ。
「これは春風さんの物だな? 君はこんなイラストを描くために文芸部に居座っている、そうだろ?」
春風さんが今まで描いてきたエロイラストを僕たちに見せつけながらスクロールしていく下口先生。
最悪だ。
僕が一番あってほしくなかった最悪の想定が現実になってしまった。
前書きでも書きましたが、書籍化が決定しました!
これはもう、いつも応援してくださる皆様のおかげです!
本当にありがとうございます!
また、お声掛けしてくださった出版社様には感謝しかありません!
情報に関しては今後発表できるようになり次第、随時発表させて頂きますので、よろしくお願いいたします(*´▽`*)
最後にもう一度になってしまいますが、いつも応援して頂き本当にありがとうございます!
これからもよろしくお願いいたします!







