第15話「VSクール美少女」
予定通り僕は自動販売機で自分用のコーヒーと春風さん用のいちごミルクを買い、そのまま部室へと戻った。
道中すれ違った女の子たちから『あれ? 一人だ、珍しい』とヒソヒソ話をされたのだけど、そんなに春風さんと一緒にいる印象が強いのかな?
いや、思い返すと十分間の休憩時間以外は最近いつも一緒にいるね。
普通なら僕が誰と一緒にいようと気にならないだろうけど、相手が学校で一番人気の春風さんだからみんなの記憶にも焼き付いてしまっているわけか。
だからって春風さんを責めるつもりはないし、彼女が僕の元に来ることに関して嫌だって気持ちもないけどね。
……むしろ、嬉しいくらいだし。
この時僕の中では既に春風鈴花という女の子に対する好意が芽生えていた。
それは、自分が思い描いていた理想の女の子に春風さんが近かったことも理由の一つだと思う。
普段の春風さんは元から知っていた通り、冷たさを感じるほどのクールで素っ気なく口数も少ない。
だけど、僕と二人きりになるとクールなのは変わらなくても、温かい笑顔や可愛い笑顔を見せてくれる。
後、たまにちょっとポンコツなのかな、という姿を見せることもある。
それがギャップでとてもかわいく見えるんだ。
ただ、それだけではなく、他のみんなが居る時にも春風さんはたまに笑みを見せてくれた。
しかも素っ気なく話している時に急に笑みを見せてくる物だから、ずるいと思うくらいのかわいさなんだ。
その時の様子を見ていた生徒からは歓声があがるほどに、ね。
………………まぁそれと同時に、僕に対する嫉妬と憎しみの感情も半端なく増しているようなのだけど。
時々寒気がするくらいだからね。
「――ごめん、春風さん。遅くなっちゃった」
僕は部室のドアを開けるとともに春風さんに謝る。
ちょっと話しこんでしまったのと飲み物を買いに行っていたせいで春風さんを一人で待たせすぎてしまったからだ。
「…………」
「あれ?」
しかし春風さんからは返事がなく、見てみれば何かパソコンに視線が釘付けになっているようだ。
ペンタブレットでイラストを描くことに夢中になってるならわかるけど、彼女がパソコンを使ってるところなんて初めて見る。
いつもは僕が小説を書くために使ってるから使えないっていうのもあるんだけど、別にパソコンは一台じゃないんだから使いたいなら使ってくれればいいのにね。
……ん、ちょっと待って。
確かあのパソコン、僕が小説書きっぱなしじゃなかったかな?
最初の頃は春風さんがいるからやめてたんだけど、あの子全然画面には視線を向けないし、部活動時間内に小説を書いてなかったことで神代先生に進みが悪すぎると注意されたから、今はもう気にせず書いていたんだ。
春風さんが画面を見るようであれば咄嗟に別のものへと画面を切り換えて誤魔化せばいいと思っていたからね。
だけど今現在、僕が席を外していた間に春風さんにバッチリパソコンを使われている。
これは非常にまずい事態なんじゃないだろうか。
状況を理解した僕は背中にツゥッと冷や汗が流れるのを感じる。
急いで春風さんの後ろに回り込めば、開かれているページは僕が書いている小説のテキストファイルだった。
「は、春風さん何してるの!」
「えっ!? あぁ!」
僕が慌てて画面をロックすると、春風さんが物言いたげな目で僕の顔を見つめてきた。
頬を膨らませ、不満がありありと分かる目をしている。
完全に拗ねている表情だ。
「いいところだったのに……」
「ご、ごめん。だけど人の小説を勝手に読むのはやめてよ」
「読んでもらうために書いてるんじゃないの?」
「そ、そうだけど、知り合いに読まれるのは恥ずかしいというか……」
「神代先生には読んでもらってるくせに」
「先生は顧問なんだから仕方ないよ。というか、春風さん書きかけの最新話なんて読んでもわからないでしょ?」
春風さんが読んでいたのは僕がまだ書きかけの話だった。
つまり最新話になるのだけど、それまでの話を読んでいない春風さんにはわからなかっただろう。
「むっ……」
うわ、不機嫌そう。
小さく頬を膨らませながらペンタブレットを取り出して何かを描き始めた。
「な、何を描こうとしてるの?」
「笹川君がチャラ男に凌辱されるイラスト」
「本当に何を描こうとしてるの!?」
拗ねた春風さんのとんでもない行動に僕は先程とは別の意味で同じ言葉を言う。
しかもどうして相手が男なんだ。
この子はいったい何を求めてるの。
「大丈夫、需要はある」
「誰もそんなことは心配してないので今すぐにその手を止めてくれないかな!?」
「知らない」
僕の言葉を無視してペンを走らせる春風さん。
その速度はすさまじいもので、あっという間にアタリをとったと思ったらみるみるうちに体のパーツを描いていく。
確かレイヤーというのかな?
絵を描く紙のデジタル版のような物を体のパーツごとに数枚使い分けている。
その切り換えさえ凄く速い。
もう頭の中で完全にイメージが出来上がっているようだ。
――って、呑気に分析してる場合じゃない!
そう考えている間にももう僕を模したらしいイラストが大まかに描き上げられているじゃないか!
僕になんて表情をさせるんだ、この子は……!
「春風さんストップ! それ以上は駄目だ!」
言葉では止まらないため、僕は持っている飲み物二つを机の上に置くとすぐに春風さんの手を掴んで止めさせた。
しかし、春風さんは手を振って放してと抗議をしてくる。
描くのをやめるつもりはないようだ。
僕が放さないでいると、春風さんの手の振り幅は段々と大きくなり全身を使って抵抗を始めた。
そして――大きく、バランスを崩す。
当然だ、今春風さんは椅子に座ってるのに、全身を使って暴れてしまったら椅子の重心がずれて倒れてしまう。
「きゃっ!」
「危ない!」
僕は咄嗟に掴んでいる手に力を込めて彼女の手を引っ張った。
しかし、重力に従うだけでなく勢いがついてしまっている彼女の体を、手だけで持ち上げるのは無理だった。
持ち上げるどころか、咄嗟のことで足に踏ん張りを利かせていなかったこともあり僕の手は持っていかれる。
まずい、そう判断した瞬間僕は思考を切り換え彼女を持ち上げるのではなく、彼女を守ることにした。
彼女の手を放し、彼女の体の下に自分の体を滑りこませたのだ。
読んで頂き、ありがとうございます(*´▽`*)
『お隣遊び』のリメイク版も連載再開しましたので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします!
大幅リメイクですよ~(/・ω・)/
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