第14話「眼鏡美人はお見通し」
春風さんが部室に来ていることに対して?
どうだろう。
最初は戸惑っていたけど、今では嬉しいと思ってるんじゃないかな。
春風さんとするラノベの話はとても楽しいし………………二人きりの時の春風さんはとてもかわいいから。
まぁいろいろと問題行動をするのは困るけどね。
「彼女は小説を書いていませんが、僕たちは本の感想を言い合っています。他の人の感想を聞けるというのは自分とは別の見方を知れるということですので、勉強になると考えています」
僕は思っていることを口にするのではなく、建前を口にした。
さすがに彼女が来ると楽しいとか言っても、納得はしてもらえないだろうからね。
まぁでも、今言ったことは建前だけど嘘ではない。
「つまり、春風さんが文系部に顔を出すことをあなたは必要だと感じているのですね?」
「はい、その通りです」
「なるほど」
神代先生は右手を口に当てて僕のことを見つめながら考え始める。
いったい何を考えているのか、そんなことはすぐにわかった。
このまま春風さんが文芸部に来ることを許していいのかどうかを考えているんだ。
もっと言えば、彼女が来ることがメリットになるのかデメリットになるのか、そういう判断をしていると思う。
他に何か言ったほうがいいのかな?
でも下手に何かを言うとそれがマイナスに働きかねない。
今は神代先生に検討してもらえるだけの材料を提供できたと割り切ったほうがいいか。
これでまだ駄目だと言われるようであれば、それから対応すればいい。
「確かに、初めて笹川君が春風さんを連れて職員室に来た時以降から、あなたの小説はよくなっています」
「えっ?」
ゆっくりと口を開いた先生の予想外な言葉に僕は首を傾げる。
小説がよくなってる?
そうなのかな?
「ヒロインの子の行動が妄想から現実じみて来たことで、より読者を惹きつけるヒロインに昇格させることができているのでしょう。それは少なからず、モデルにしている春風さんと共にいることが大きいと思われます」
なるほど、そういうこともあるんだね。
ただ、ちょっと待ってほしい。
今普通に聞き捨てならないことを言われたよね?
「モデルが春風さん? いったいなんのことでしょうか?」
「バレていないとでも思っていたのですか? あなたの小説を読んでいて春風さんを知っている人であれば誰もがすぐに気付きますよ?」
どうやらとぼけても無駄だったらしい。
そうか、神代先生にはバレていたのか。
うん、穴があったら今すぐに入りたい。
「あの、そのことは春風さんには……」
「なるほど、彼女は知らないのですか。わかりました、内緒にしておきましょう」
よかった、神代先生が話の通じる人で。
これがもし口の軽い人とかだったら春風さんに話されてしまい、いろんな意味で僕は終わってしまうところだった。
少なくとも学校にはこれなくなるだろう。
なぜって?
同級生の女の子をモデルに小説を書いてるなんて知られたら、みんなからきもいって思われるからだよ。
「笹川君もそういうお年頃ですからね、大目に見ておきますよ」
「あの、神代先生。物凄く含みのある言葉のようなんですが……」
「さて、それはそうと、笹川君も春風さんも基本的に一人行動の子たちでしたからね。年頃の男女が二人きりというところは少し気になりますが、一緒にいる相手ができたことはいいことです」
うん、普通に無視された。
途中で向けられた生暖かい目がかなり気になるけど、どうせ聞いてみても聞き流されるんだろうね。
聞くだけ無駄だと思ったほうがいい。
「まぁ彼女は今気まぐれで来ているだけのようですし、いついなくなるかはわかりませんが」
結局僕は神代先生の言葉に合わせることにした。
「そうですか? あの様子を見るに当分は居据わるように見えますよ?」
あの様子?
それはいったいどんな様子なんだろう?
僕的には文芸部に全く興味のない様子を見せたことから、いついなくなってもおかしくないと思うのだけど。
「そもそも春風さんが文芸部に来ている理由もイマイチわかっていませんし」
「あなたは絵に描いたような子ですね……」
思っていることを言うと、神代先生は若干呆れた表情を僕に向けてきた。
なんでだろう?
そんなおかしなことは言ってないと思うのだけど。
「いえ、これはあなたたちの問題なので私が口を出すのはやめておきましょう。それよりも笹川君」
「はい?」
「春風さんが文芸部に来ることを認めます。後で彼女にも伝えておいてください」
「本当ですか!?」
思ったよりもあっさりと許可が出たことには僕は驚いて聞き返す。
てっきりもうちょっと聞かれたりするものだと思っていただけにこれは嬉しい。
しかし、これで話を終わらせてくれるというわけでもないようだ。
「その代わりですが、あなたは春風さんを文芸部に勧誘しなさい」
「えっ?」
「当初あなたたちが言っていたように、部活見学で春風さんが文芸部を訪れていることにしておきます。ですから、あなたは春風さんが文芸部に入るように誘うのです」
春風さんを文芸部に……?
いや絶対に入らないだろ、あの子。
自由にエロイラストを描いてるだけの子がわざわざ入ってくれるとは思えない。
ましてや先程全く興味が沸いていないと言われたばかりだし。
「あの、多分誘っても入ってくれませんよ?」
「それはわからないではありませんか。少なくとも私はあなたの頑張り次第だと思っています」
とんでもない無茶ぶりだ。
春風さんが首を縦に振る未来なんて全く想像できないんだけど、先生の自信はどこからくるのかな?
「そんな目をしなくても今すぐにとは言いません。ただ、彼女が文芸部に入ろうと思ってくれるように努力してくださいということです」
「まぁ、そういうことでしたら……」
不可能ではないのかな?
ただ、絶対に時間はかかってしまうだろうけどね。
春風さんの気が向いた時に入ってもらおう。
要は春風さんが入部するかどうか悩んでいる体を保てと神代先生は言いたいようだしね。
「頑張ってください。それでは私は職員室に戻ります」
「あっ、はい。失礼します」
僕は立ち去る神代先生の背中に頭を下げた。
先延ばしに近い形ではあるけれど、どうにか許してはもらえたようだ。
神代先生には堅物で怖いイメージを抱いてんだけど、意外とそうでもないのかもしれない。
少なくとも、僕や春風さんの事を考えてくれる思いやりのある先生ではあった。
さて、僕も部室に戻ろう――と思ったけど、緊張していたせいで喉が渇いてしまった。
飲みものを買ってから部室に戻ればいい。
ついでに春風さんの飲みものも買って行ってあげよう。
あの子ああ見えてコーヒー飲めないんだよね。
いちごミルクやミルクセーキのような甘い飲みものがお気に入りみたいだ。
クールで澄ましているのに、甘い物が大好きで苦い物が苦手とかとてもかわいいと思う。
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