第12話「相性抜群の二人」
――その日は結局何事もなく一日は終わり、やっぱり別れ道までは春風さんも着いてきたのだけどそれだけだった。
しかし、春風さんの態度には次の日から変化があった。
休み時間の度に僕の教室に顔を出し、昼休みには一緒にお昼を食べようと言ってきたのだ。
それにより教室内は騒然。
だけど春風さんは気にした様子がなかった。
そして、放課後も当たり前のように僕のことを呼びに来て文芸部の部室に移動しては黙々とエロイラストを描く。
その間にほとんど会話はなかったのだけど、春風さんは時折チラチラと僕の顔を盗み見てきていた。
いったい彼女が何を考えているのか、それは全くわからないのだけどそんな感じの日々が数日続いたある日のこと――。
「――えっと、春風さんはラノベだと何が好き?」
ついに沈黙やチラチラと見られることに耐えられなくなった僕は、雰囲気を変えるために彼女が喰いつきそうな話題を振ってみた。
本当はエロイラストの話題のほうが凄く喰いつきそうだったけど、僕が話に付いていけられないのでイラスト自体の話題を避けた。
普通のイラストの話をしてても平気でエロ話をぶち込んできそうだからね、この子は。
「ん? 好きなのって言われるとありすぎて迷うわね」
狙い通り春風さんはラノベの話題に喰いついた。
Web小説サイトで読み専をしてるからそうなんじゃないかなと思ったけど、やっぱり彼女はラノベが好きらしい。
春風さんはペンを机の上に置き、口元に右手の人差し指を添えながら小首を傾げて考え始める。
確かにラノベはいい作品が多くてどれが好きだと聞かれると凄く迷うと思う。
でも、僕にはこれだって推せる作品が一つだけあった。
誰かに聞かれたら絶対に僕はその作品の名前を答えるだろう。
それは――。
「――やっぱり、『よくきた実力教室へ』かしら」
何げなく発せられた言葉。
だけどその言葉を聞き、僕は思わず息を呑んだ。
「『よく実』、好きなの?」
「うん、一番好きだと思う。生徒同士の駆け引きとか凄く面白いし、主人公の暗躍なんて凄くかっこいい」
「そ、そうなんだ……! 僕も『よく実』が一番好きだよ……!」
「そうなの……!?」
同士を見つけた、そんな感じの目でお互いを見る僕たち。
ここ数日大人しかったけど、春風さんは僕も『よく実』が一番好きだと聞いてテンションが上がったようだ。
そして僕も今は少しだけテンションが上がっている。
学校で『よく実』について話せるような友達が今までいなかったから、話せる子を見つけて嬉しいといった感じだ。
「春風さんは何巻が好き?」
「七巻」
「おぉ、やっぱり七巻が一番いいよね」
「うんうん、今までで主人公が一番かっこよかった巻だと思う」
七巻は主人公の更なる実力が発揮された巻だ。
学校にいるほとんどの人間に知られない状況を作り上げ、他クラスのリーダーとの直接対決をした巻であり、尊いヒロインが生まれた巻でもある。
あの巻ほどの衝撃は未だに他では感じたことがない。
僕たちはそれから『よく実』の話題でかなり盛り上がった。
どうやら僕と春風さんの感性は似ているらしく、好きな場面どころか好きなキャラも同じだ。
大人気となっているキャラが多い『よく実』の中で二人とも一番の推しキャラが一致するなんて珍しい。
そのおかげで会話が弾んだというのもあると思う。
結局その日は下校時間を知らせるチャイムが鳴るまで僕たちは『よく実』に関して語り合った。
春風さんも今まで語り合えるような友達がおらず、こういうふうに語り合えて嬉しかったらしい。
今日一日で僕たちの距離はグンッと縮まった気がする。
それと同時に、『よく実』について一生懸命話す春風さんは年相応のかわいらしい女の子に見え、不思議と僕の胸は高鳴ってしまった。
その日から僕たちは自分の好きなラノベについて語り合うようになった。
朝は一緒に登校し、昼は二人で中庭にあるベンチでお弁当を食べ、放課後は文芸部の部室でお互いの活動に励む。
そんな中で僕たちの話の中心になっていたのはいつもラノベだった。
本当にここまで好みが合うのかってくらいに春風さんが好きな作品は僕も好きで、僕が好きな作品は春風さんも好きだと答えていた。
おかげで話題には困らないどころか話すのがとても楽しい。
だからだろう、朝通学路で待たれていたり、お昼休みに呼びにこられたりしても気にしなくなったのは。
最初は通学路で僕たちの別れ道になってる場所で待たれていたり、お昼休みに一緒にお弁当を食べようと誘ってきたことには驚いたし、同じ学校の生徒から凄い視線を受けていたので戸惑っていた。
だけど今では春風さんと一緒にいることが当たり前になりつつある。
……まぁだからといって、嫉妬で感情が覆われた人たちの憎しみにも近い目には慣れないのだけどね。
ただそれでも、春風さんと一緒にいればその視線もあまり気にならなくなっていた。
一つ彼女と一緒にいて困ることと言えば、エロイラストが完成すると嬉しそうに僕に見せてくることだ。
更にそれだけでは終わらず、感想も根掘り葉掘り求められる。
酷い時なんてシチュエーションに関してまで意見を求められたこともあるくらいだ。
……それとあれだね。
彼女はエロイラストを描くために結構自分の体を参考にしてるらしく、時折自分の服装をわざと着崩して写真に撮ったりすることがある。
さすがに僕がいる時はしないようなのだけど、僕がちょっと用事があって部室から出ているタイミングでそんなことをしているんだ。
本人曰く、折角学校にいるのだから学校でも資料がほしいとのこと。
要は学校の机や椅子が映った状態で淫らな写真を撮りたいということなのだろう。
本当に何と言うか、いろんな意味で凄い子だ。
さて、どうしてその場にいないはずの僕がこんなことを知っているのか。
それは、僕が戻って来たタイミングで丁度春風さんがそんな写真を撮っていることが度々あったからだ。
最初の頃なんて混乱した春風さんが僕を押し倒すなんて事態もあった。
一番酷かったのはどこで手に入れたのか知らないけど大きなスライムを持っていた春風さんが僕の登場で驚き、手を滑らせてスライムを思いっきり頭から被ってしまったことだ。
あの時は下着姿だったし、ゼリー状のスライムがいい感じに春風さんの体に広がっていたので本当に目のやり場に困った。
後片付けも物凄く大変だったしね。
……うん、そう考えると結構問題児だな、彼女は。
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