第11話「女友達と思った」
「小説を書いてあるんだよ」
僕はあえて小説を書いてることを隠さず、素直に打ち明けた。
だけど、これ以上は何も言わない。
僕の読みが間違ってなければ、春風さんの興味はここで消えるはずだから。
「なんだ、小説かぁ。文芸部だったら当たり前のことね」
春風さんは残念そうに息を吐くと、僕の手にメモ帳を置いた後自分のペンタブレットへと視線を落とした。
よかった、狙い通り春風さんの興味はメモ帳から消えたようだ。
春風さんは僕の秘密を握りたかっただけで、メモ帳の中身は然程気にしていなかった。
だから中身がわかり、自分が期待していたような秘密ではなかったことから興味が失せたんだ。
もちろんここで何を書いているのかと聞かれたとしても、僕はラブコメと言って誤魔化すつもりでいた。
知り合いにラブコメを書いていることがバレると結構メンタル的にダメージを負うけど、それでも春風さんに本人をモチーフにした作品を書いてると知られるよりはマシになる。
まぁ春風さんは興味を無くしてるみたいだしもう気にしなくていい。
さて、僕は予定通り小説の続きを書こうか。
――油断というのは本当によくなくて、特に人が油断をするのは何かに安心をした時だ。
安心をすれば気が抜け、そして今まで警戒していたことに疎くなってしまう。
おわかりだろうか?
僕がこの時点でやらかしてしまっていることを。
あれ……?
どうして僕は今、普通にWEB小説サイトの自分のページを開いたんだ?
これ、春風さんに見られたらアウトなんじゃ……?
僕は自分が無意識にやらかしたことを自覚し、呆然としてしまった。
ここでページをすぐに閉じればまだどうにかなったかもしれないのに、どうしてか僕はページを閉じるよりも先に春風さんの顔色を窺ってしまう。
そして運が悪いことに、丁度春風さんは顔を上げてディスプレイに視線を移してしまった。
「あっ、このサイト私も使ってるわよ? まぁ私の場合は小説を書くんじゃなく読み専なんだけどね」
僕が使ってる小説サイトは書くだけの人もいれば、読むだけの人もいる。
まぁ小説といってもラノベ系がほとんどだから春風さんが読んでいるのは意外だった。
でもよく考えてみると、エロイラストを描くような子だ。
ラノベを読んでいても全然不思議じゃない。
しかし今気にしないといけないのはそんなことじゃなかった。
「そっか、笹川君はこのサイトを使って――って、えっ!?」
自分と同じ小説サイトを使っているのが嬉しかったのか、春風さんは楽しそうに話し始めたのだけど、すぐに何かに気が付いたかのように驚いた声を出した。
そしてそれは、まず間違いなく僕が開いている小説のタイトルを見て出た声だった。
「『銀髪クーデレ美少女は今日もかわいい』って……」
春風さんはよほど驚きなのか、わざわざタイトル名を口に出して読んでいた。
これはどうなんだろう?
タイトルの名前自体に戸惑ってるのか、それとも銀髪美少女という言葉から自分に関連していることにうすうす気が付いているのか――もしくは、こんなタイトルの作品を書いてる僕のことをドン引きしてるのか。
出来れば最初の奴であってほしい。
後の二つは絶望しか残されてないから。
とりあえず急いでページを閉じる。
もう手遅れ感は否めないけど、万が一にも話に飛ばれることは避けないといけないからね。
まぁでも、この状況がどうにかなるわけでもないんだけど。
――しかし、春風さんはそれから何かを言ってくることはなかった。
黙々とペンダブレットにイラストを描き、僕の小説のタイトルに興味を示した素振りは一切ない。
黙り込まれると逆に不安になってくるけど、怒られたり冷たい言葉を浴びせられるよりはいいと思う。
ただ気になるのは、時折春風さんがチラチラと僕の顔を見上げてきていることだ。
これは本当に気にしていないのかな?
でも何かを言ってくる様子はないし……うん、気にしていないということにしておこう。
僕はこの状況を自分に都合よく解釈することにした。
そうしないと絶望的なことになりそうだったからだ。
――それから一時間ほど、春風さんは黙ってイラストを描き続けていた。
その間僕は何をしていたかというと、まさか同じ失敗をするはずもなく鞄からラノベを取り出して読んでいた。
文芸部なのに小説を書かなくていいのかという気持ちはあるけど、春風さんの隣で先程の小説を書く勇気はない。
そんなの最早自殺行為だからね。
ただ、僕が何もしなくても問題は起きるらしい。
それが何かと言うと、エロイラストを描いていた春風さんが急にスカートを捲り上げ始めたことだ。
「なっ、何をしてるの!?」
色白で染み一つない綺麗な太ももがほとんど見え、際どい部分まで見えそうなほどに春風さんがスカートを捲り上げたので僕は慌てて目を逸らして声を出す。
「何って、モデルがあるほうがイラストは描きやすいでしょ?」
春風さんはこの状況をなんとも思っていないようで、至って冷静な声で僕の質問に答えた。
昨日恥ずかしさで逃げた女の子とは思えないくらいの落ち着きようだ。
「だ、だからってここでやるものじゃないでしょ!?」
「何を言ってるの? 今描いてるのだから今見るのは当たり前じゃない」
「男の僕が隣にいるんだよ!? 襲われるかもしれないとか考えないの!?」
「あっ……」
僕が注意をすると、春風さんは口に右手を当てて何かに気付いた様子を見せる。
なんだ、その『あっ……』は。
まさかこの子……。
春風さんは途端に顔を真っ赤にし、ブンッと勢いよく僕から顔を逸らしてしまった。
こちらから見える耳は真っ赤に染まっていることから、恥ずかしさに耐えられなくて顔を逸らしたようだ。
そんな彼女が口にしたのは――
「いつの間にか、女友達だと勘違いしてた……」
――昨日同様、僕のことを女の子だと勘違いしていたという言葉だった。
昨日はまだしも、今日はもう僕が男だと知っていたはず。
それなのに勘違いするなんてどうなのかと問い詰めたい気持ちだ。
だけど今の春風さんは羞恥心に悶えてしまっているようで、体を両手で抱き締めてモジモジとしている。
ここで何かを言ってしまえば追い打ちをかける形になるかもしれない。
さすがにそれは可哀想だと思い、僕は言葉を呑み込むしかなかった。
でも、一つだけ言わせてほしい。
僕ってそんなに女の子っぽいの……?
男だと理解してもらった後にも女の子と間違われた僕は、男として見られないことに少しの間落ち込んでしまうのだった。
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