時の罪人
「はぁ……はぁ……おねえさん! 見て!」
少女は立ち止まり、未来タワーの入り口を指さした。
内崎は肩で息をしながら未来タワーの出入り口を見ると、誰かが出てきていた。
「お兄ちゃん!」少女は急いで駆け寄った。
「ん……? 甘田か!?」
福中は甘田を抱きかかえた。
「どうしてここに!?」
「うっ……心配だったから……」
甘田は福中の胸の中で涙を流した。
福中は甘田を抱きかかえたまま、歩み寄ってくる女性を見つめた。
「初めまして、警察の内崎といいます。彼女をここに連れてきたのは私です……。ごめんなさい」
「謝らなくても大丈夫です。多分この子が生意気なことを言ったんですよね?」
福中は目に涙を浮かべていた。
「警察……よかったぁ……」村田は桃瀬をゆっくりと地面に下ろし、座り込んだ。
「他の警察も来るんですよね?」福中が内崎に訊く。
「そ、それは……」
すると、警察のサイレンの音が聞こえてきた。
「え?」
内崎が後ろを振り返ると、何台もの警察車両がこちらに向かってきているのが見えた。
その時、内崎の携帯が鳴る。
「はい。内崎です」
『先輩! 無事でしたか! 今応援に向かいます! 未来タワーの幹部たちを逮捕するんですよね?』
「それってどういう――」
『現次を含めた未来タワーの幹部たちに逮捕状が出たんですよ!』
「そ、そんな……」
内崎が納得いかないまま、警察車両は未来タワー出入り口の前に集まった。
「準備が整い次第、取り押さえるぞ!」
警官たちは準備を始めた。
「内崎先輩、これを」後輩の男は内崎に書類を渡した。
その書類の中には、集められた証拠が記載されたものがあった。
「殺人……。誘拐……。これだけの証拠がどうして急に……?」
「そんなもったいぶらないで下さいよ! 内崎さんの集めた証拠でしょ? ここまでの事件を一人で解決したなんて、流石は内崎さんです!」
内崎は黙り込む。
(調べてはいたけど……私の少ない情報で逮捕状が出るわけ……)
その時――
「内崎さんでしたっけ?」村田が内崎に尋ねた。
「ど、どうしました?」内崎は振り向いた。
「すいません。少しの間だけ突入を待っておいてもらえませんか?」
「それは出来ない! ですよね? 内崎さん?」
「少し、彼らと話をさせて」
内崎がそういうと、後輩の男は「分かりました……」と不満そうな顔でその場を離れた。
「待ってほしい理由はなに?」
「それは……地下に仲間がいるからです……。彼らは私達を仲間だと思っていなかったのかもしれませんが、私は今でも彼らを大切な仲間だと思っています」
村田は真剣な眼差しで、内崎を見つめた。
「仲間ね……」内崎の脳内で友と呼べる人物の顔が浮かんだ。
「俺も行きます……」福中が村田の隣に立った。
彼もまた、鋭い眼差しで内崎を見つめた。
「いっちゃだめ!」甘田は福中に抱きついた。
福中はそっと、甘田の頭を撫でた。
「甘田……お前は元の家族に戻れ……。俺は会わなきゃいけない奴らがいるんだ……」
「ぜったいっ、いやッ!」
「内崎さん……。お願いが二つあります。この子……甘田まきを親の元へ帰してやってください……。それと……」
「色々あることは分かったわ。行ってもいいわ。ただし、二十分たったら突入するから」
「「ありがとうございます」」福中と村田は一礼した。
「だめ!」甘田は福中の服を引っ張った。
福中はしゃがみ、甘田に目線を合わせた。
「家族はお前の事を心配して探してくれているんだ。それに俺はすぐに帰ってくる……。心配するな……」
「で、でも……」
福中は笑顔で立ち上がった。
「さあ、行きましょう……。すいませんがこの子を頼みます」
村田と福中は地下へと向かった。
「……」甘田は無言のまま福中の背中を見つめていた。
「心配しなくて大丈夫、きっと帰ってくるわ」
内崎は甘田の肩にそっと手を置いた。
「ここが研究室……」のむは辺りを見渡した。
他のメンバーも同様で、警戒しながらも研究室の奥へと向かった。
「ありました」ミラが声を上げると、鈴木とミラが集合した。
「じゃあタイムマシンを修復不可能まで壊しますね」
のむはタイムマシンの操作パネルを触り始めた。
「これは……?」
伊敷が大きな筒状の機械を見つめていた。
中には何も入ってはいないが、何か不気味な雰囲気が漂っている。
「中に誰か入っていたんですかね?」
浦川も不思議そうに筒状の機械を見つめた。
「ん?」
廊下で待っていた鈴木がエレベーターのある方向に振り向くと、男女の二人がこちらに歩み寄ろうとしていた。
どちらも特殊警備係の服は着ているが、武器を持っている様子ではなかった。
「止まれ……何者だ?」鈴木が警戒するように二人を見つめると、女性の方が必死に両手を振り始めた。
「未来タワーの特殊警備係の者ですが、敵意は一切ありません!」
「なら、何しに来た?」
「佐々木と有村に話があって来ました」
男の目に少し怒りがこもっているが、殺意は感じられなかった。
「あの二人か……それなら中にいる」
鈴木は二人を通すことにした。
「ありがとうございます」
男女の二人が研究室に入っていった。
研究室の扉が開く音に、中にいた浦川たちの視線が集まった。
「お前ら……」
「来たんですね……」
浦川と伊敷は福中と村田の顔を静かに見つめた。
「話してくれますよね?」村田の問いに、浦川と伊敷は頷いた。
浦川と伊敷は、今まであった出来事を福中と村田に話した。
「なるほどね……。二人は過去から来た人だったと……」
「ああ、そういうことになる」
「はぁ……まさか二人が特殊メイクをしていたなんて……。は、笑える」
あまりの展開に福中は少し疲れた表情をした。
「だましていてすまない……」
「別にいいですよ」村田は笑顔で答えた。
いつの間にか、四人の雰囲気はいつも通りに戻っていた。
「それにしても、まさかこの会社がここまでひどいことをしてただなんて……」
村田はそう言いながら、研究室を見渡した。
「お前らはこの後どうするんだ?」
「元居た時代に帰るよ」
「そうか……」福中は少し寂しそうな顔をした。
「ならここでお別れなんですね……」村田の目に涙が浮かぶ。
「そういうことになるな……」
浦川と伊敷は目に涙を浮かべながら、福中と村田を見つめた。
『完了しましたぁっ!』
のむは泣きながら歓喜の声を上げた。
「伊敷と浦川がいた特殊警備係のメンバーか?」
宮沢は福中と村田をなめ回すように見つめると、福中に一枚の手紙を渡した。
「これから来る警察部隊の女隊長さんに渡しておいてくれないか?」
「女隊長……内崎さんの事ですか?」
福中が訊くと、「頼んだぜ」と宮沢はカッコつけながら言った。
「さあ、皆さん。帰りましょう」
ミラの声に福中と村田以外のメンバーが静かに頷いた。
しばらくして、警察の部隊が地下の研究室に突入してきた。
「話は済んだの?」
内崎は福中と村田に訊くと、二人は「はい」と頷いた。
「これ……」福中は内崎に手紙を渡した。
内崎は手紙を開封して、その場で読み始めた。
その手紙の文章前半には未来タワーの悪事と宮沢が警察にした事が書かれていた。
そして、文章の後半には宮沢の自慢話と別れの言葉が書かれていた。
「あの人らしいわね……」
内崎の頬に一筋の涙が流れた。
時を超えて、
尼左市探偵事務所に朝がやってきた。
「ああ、たいくつだぁ!」
伊敷は事務所のソファーに座りながら、体を伸ばす。
「いいじゃないですか、平和で」
のむは人数分のコーヒーを入れたコップの一つを伊敷の前にあるテーブルに置いた。
「のむさん……いつまでここにいるんですか?」
「サラッとひどい事言わないで下さいよぉッ!」
「朝から元気ですね……」
浦川が目をこすりながら起きてきた。
「訊いてくださいよ! 伊敷さんが出ていけっていうんです!」
「二人とも仲良くしてくださいよ……」
「浦川、暇だ! 新たな依頼を見つけてこい!」
「そんな無茶苦茶な……。やっと僕たちは自分の生きる世界に帰れたし、手島は再逮捕されたし、今は平和を楽しみましょうよ。それに――」
事務所のインターホンが鳴った。
「お、新たな依頼か? 浦川見てこい」
「はいはい……」浦川は玄関に向かい、扉を開けた。
「今を楽しんでるか!?」
朝からハイテンションな宮沢が事務所に上がり込んできた。
「宮沢さん。ミラさんから譲ってもらったアパートにいなくて大丈夫なんですか?」
「大丈夫、大丈夫。それより新しい依頼を持ってきたぞ!」
「待ってました!」伊敷は両手を広げて喜んだ。
(なんか二人……似てきたな……)
浦川はため息をついた。
いつも通りの平和でにぎやかな朝、そんな朝日に照らされた一枚の写真立ての中には、共に戦い、苦楽を共にした六人が笑顔で肩を組む、集合写真が入っていた。
「こんなことがあり得るのか……?」
独房の中で、医者の男は驚く言葉しか出なかった。
刑務所内の独房の一室で、横たわる一人の男の死体――
外傷は見当たらないが、男の体は何処か軽かった。
「名前は手島直也……彼は死んでますよね?」
看守の手は震えていた。
医者は頷き――
「はい……。脳みそが無い状態でね……」
独房は静まり返った。
『フフ……』
耳元で聴こえた声に、医者は後ろを振り向くが、そこにはコンクリートの壁しか見えなかった。