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二つの革命

伊敷は携帯電話を耳に当てた。

「はい。伊敷で――」

『福中だ! 緊急事態だ! 早く来い!』

電話が切れると、伊敷は飛び上がるように席を立つ。

「浦川!」

「はい!」浦川も急いで席を立つ。

『待ってください!』

ミラが声を上げると、二人の動きが止まった。

「皆さん。今がその時かもしれません……。革命隊が本当に未来タワーを襲撃しているなら、今が現次と手島を止めるチャンスです」

『その通りよ』

伊敷と浦川の二人が後ろを向くと、鈴木と宮沢が帰ってきていた。

「今がチャンスよ。私達の目的は現次と手島を止めることよ。未来タワーを救っている場合じゃないわ」

鈴木が冷静に提案する。

伊敷と浦川の脳裏に福中と村田の顔が浮かぶ。

「今しかない」鈴木が念を押す。

「分かりました」

 伊敷と浦川は頷いた。



「何で入れないのよ!?」

内崎は車で未来タワーの近くまで行こうとしたが、検問に止められた。

「ですから、関係者以外は立ち入り禁止なんです」

「私は警察よ!?」

「ここのリーダーの方に他の警察署の人は誰も通すなと言われまして……」

「その人の名前は!?」

「それは……」

『うるさい女性は嫌われますよ?』

開沼は不敵な笑みを浮かべながら、内崎の乗る車に歩み寄る。

「開沼……。何であんたが!?」

「私はここのリーダーと言う大役を任されたんですよ」

「なら、私を中に入れなさいよ!」

「それは出来ません。中は危険がいっぱいです。それに貴方は女性だ」

「女性だから!? 男どもより劣っていると言いたいの!?」

「そんなことはありませんよ」

開沼は勝ち誇ったような顔をしている。

「寄り道せずに帰ってくださいよ?」

内崎は怒りをぐっと堪えて検問所を後にした。


「ほんとにむかつく奴……」

内崎は自動販売機で何か飲み物を買おうと、車を路上に停めた。

「お姉さん」

車を出ると、すぐに声をかけられた。

後ろを振り返ると、そこにいたのは見覚えのある少女だった。

「君は……確か公園で会った少女」

「そうだよ。お姉さん、もしかして向こう側に行きたいの?」

「向こう側……?」

「あっち」少女は未来タワーの方を指さした。

「なにか行き方があるの?」

「あるよ。けどね……お願いがあるの。私も連れていってほしいの」

「そ、それは……」

「なら教えない!」

少女は腕を組み、そっぽを向いた。

内崎は少し考え、決断する。

「ついてきていいよ」

「やったぁ!」

少女は喜びながら飛び跳ねた。

「じゃあ行こうか」

「うん! ついてきて!」

少女は内崎の手を取った。

「早く! 早く!」

二人は狭い路地裏に姿を消した。



「未来タワーの者です」

「どうぞ」

伊敷と浦川が運転する二台の車は検問を越えた。

車の中には伊敷、ミラ、鈴木が乗っている。

その車の後ろを走る車には、浦川、宮沢、のむが乗っていた。

車に乗る全員が、小型の無線を耳につけている。

「皆さん。私の声は聞こえていますか?」

ミラの声が無線から流れると、全員が返事をする。

「それでは今から作戦をお伝えします。まず伊敷さん、浦川さんで未来タワーの上層階で現次と手島を探してください。もしいなければ地下に来てください。伊敷さんと浦川さん以外は、タイムマシンがあると思われる地下に行って、タイムマシンを完全に壊します。作戦は以上です」

ミラの指示に全員の顔に緊張が走る。


未来タワーに近づくに連れて、想像を超えた光景が広がっていた。

「革命隊は本気ね……」

道路には無数の放棄された車から炎が上がっている。

「未来タワーは無事なのか?」宮沢が言うと、鈴木が答えた。

「いくら革命隊でも返り討ちにあっているでしょうね」

「そうですね。未来タワーの設備は何から何まで時代の先を行っていますから」

浦川はそう言いながらも、福中と村田を心配していた。

「もう少しで駐車場入り口だ」

伊敷は警戒しながらハンドルを握る。

地下駐車場の入り口は何事もなく開いていた。

二台の車は入口に入り。地下へ降りた。

「さあ、私達の革命を開始しましょう」

ミラの声に全員が覚悟を決めた。


伊敷と浦川は桃瀬の居る上層階に着いた。

「無事か!?」

「まあ、何とか……」

福中は疲れた様子で答えた。

辺りには革命隊らしき人が数人倒れていた。

「桃瀬と村田は!?」

「二人なら部屋の中だ」

浦川は部屋のカギを福中から貰い、扉を開けた。

「佐々木さん! 有村さん!」

扉を開けると、村田が声を上げた。

「二人とも無事ですか!?」

「はい! 福中さんが外で守ってくれたので」

村田と桃瀬の無事に浦川と伊敷は安心した。

「それなら、ここは福中と村田に任せてもいいか?」

「構いませんけど、どちらへ?」

「俺と佐々木は上の階を見てくる。誰かが助けを求めているかもしれないからな」

「分かりました!」

浦川と伊敷は桃瀬の部屋を出た。

「誰か来たぞ……」

福中は長い廊下の先を見つめていた。

浦川と伊敷も福中の視線の先を見つめた。

『もしかして警備係の方ですかぁ……?』

目にクマの出来た不健康な顔に灰色の髪色――

血で赤く染まった手を拭きながら、こちらに歩み寄る男の名前を浦川と伊敷は知っていた。

「「ルガ!?」」伊敷と浦川は声を合わせる。

「知り合いか?」

『いやぁ、桃瀬さんのおかげで私も有名人になったものです』

「もしかして……あれが桃瀬のマネージャーか?」

福中の問いにルガが頷いた。

『そうですよ』

伊敷と浦川は目を合わせた。

どうするべきか?

「先を急ぐぞ」

先に意見を言った伊敷に浦川は賛成した。

(特殊メイクがバレることはないはずだ……)

二人はルガに近づいた。

「桃瀬さんは無事です」

「それは良かったですぅ」ルガは笑顔に答えた。

「私達二人は先を急ぎますので、それでは」

「そうですかぁ」

伊敷と浦川がルガの横を通り過ぎようとしたその時――

「もしかして現次さんに会いに行くんですかぁ?」

二人の背筋に緊張が走る。

「ええ……無事を確かめに行きます」

「それなら、地下にいると思いますよぉ」

「そ、そうですか。ありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ」

ルガは爽やかな笑顔で答えた。

伊敷と浦川はルガの言ったとおりに地下へと向かった。



黒煙が闇夜の街へと消えていく。

辺りからは悲痛の声が聞こえてくる。

そんな戦火の中を佐野は意識もうろうと歩いていた。

(戦いはまだ続いているのか……?)

定まらない足取りで、未来タワーに向かっていると、見覚えのある女性が視線の先で倒れていた。

「戸波!」

佐野が駆け寄り、戸波を抱き上げた。

「……革命隊は……勝ったの……?」

口から血を流す戸波は、かすれた眼差しで佐野を見つめた。

「分からない……。けど未来タワーに仲間が押しかけているのは確かだ!」

「そう……それは良かったわ……」

戸波は両目を閉じた。

「おい! 戸波! しっかりしろ!」

戸波は細めた目で佐野を見つめる。

「後は……任せたわ……」

「気をしっかり持て! 今すぐ助けを呼んでやる!」

「……貴方は生き延びて……革命隊を頼んだわ……」

「うるせえ! 生きろ戸波!」

「ふふっ……弱いくせに……」

戸波は微笑みながら、静かに目を閉じた。

「戸波ッ!?」

佐野が戸波を揺するが反応はなかった。

「……」

佐野は静かに戸波を抱き寄せた。


『ずいぶんと悲しい話ね』


驚いた佐野が後ろを振り返ると、裸足に薄い紫色のワンピースを着た少女が一人立っていた。

『その人は死んだ。仲間も死んだ。貴方はどうするの?』

「俺は……未来タワーに行く……」

佐野は少女が何故ここにいるかを疑わなかった。

まるで戦火の中にいるのが当たり前のような態度で、少女は話を進める。

『勝算は?』

「……」佐野は何も言わず立ち上がった。

『ふん、無謀ね』

未来タワーに向かって歩み始める佐野を見つめる少女はニヤリと笑った。

『全てを壊す力が欲しい?』

耳元で囁かれた佐野は歩みを止める。

「お前は何者だ? 悪魔か?」

『欲しい? 欲しくないの?』

「……条件は何だ?」

『これだけ探してよくわかった……。あの人はもうこの世にいない……』

 少女は悲しげな表情で空を見上げた。

「あの人?」

『貴方には関係ない話よ……。条件は未来タワーを必ず火の海にすること。貴方の望みと私の望みは奇跡的に同じよ。さあ、どうする?』

「なら……よこせ……全てを壊す力を」

戦火の中で、少女は不敵に微笑んだ。



「のむ……タイムマシンの場所はここ?」

鈴木は辺りを警戒しながら言った。

「ここです。でも鍵がかかってる……」

「鍵は私が開けましょう」

ミラはカギの横にあるパネルを触り始めた。

「俺たちは周辺警戒だな」

長い廊下のどちらからでも敵が来てもいいように、鈴木と宮沢がそれぞれ警戒する。

「もうすぐ開きます」

ミラの声に全員の緊張が高まった。

「誰か来た……」

鈴木が声を上げると、全員がその方向を見た。

向いた先の廊下の蛍光灯が点滅し始めた。

そして、その点滅の中から一人の老女が現れた。

『こんな所にもネズミいるねぇ』

老女は落ち着いた声で鈴木達に歩み寄る。

「あなた……暗殺係ね……」

『暗殺係の事を知っているんだね。私の名前はひとみ』

「あなたが来たということは……私達が来るのを最初から知っていた……」

『さあ、どうかねぇ』

ひとみは鞘から刀を出すような素振りを見せたが、刀は見えない。

『さあ、勝算は?』

ひとみが不敵に微笑むと、点滅の光の中から、暗殺係の部隊が現れた。

気が付けば、辺りは暗殺係に囲まれていた。



「これでよかったんですよね……?」

桃瀬は自分の部屋の奥に隠れていた現次に言った。

「もちろんですよ。あの二人は我々の敵ですよ。貴方もその眼で見たでしょ?」

着物姿の現次は白衣姿の手島と共にゆっくりと部屋から出てきた。

数時間前、現次は桃瀬の部屋を訪れて佐々木と有村を探すように指示を出していた。

そして、桃瀬が自分の能力を使い、見たものは、見知らぬ人を乗せてこちらに向かう二人の姿だった。

「……」村田は言葉を失っていた。

これまで一緒に行動していた二人が敵だという真実をまだ飲み込めていなかった。

「村田さん。あの二人は敵なんです。こちらの調べもついています」

現次は言い聞かせるように言った。

「あの二人が俺達を裏切った……」福中は徐々に苛立ちを見せていた。

「さぁ、あの二人は別の係りの者に任せましょう。私達は屋上へ向かいますよ」

現次は皆を屋上に誘導した。


「扉は開きました。けど……これでは入れないですね」

ミラ、鈴木、宮沢、のむは暗殺係の部隊に囲まれていた。

『もう降参したらどうだい?』

ひとみの提案を誰も受けようとはしない。

『ならあの世で後悔しな……』

ひとみが合図をすると、戦闘は始まった。

数では圧倒的に不利な状況にあった。

そこへ、浦川と伊敷が到着する。

「今助けるぞ!」

伊敷と浦川は嵐のような戦場の中に突っ込んだ。

「ギリギリ間に合ったわね」

鈴木は敵の拳を避けながら言った。

「タイムマシンは?」伊敷は敵の一人を拳で叩き飛ばす。

「この中にあります」

『果たしてタイムマシンまでたどり着けるかね……』

ひとみは激戦の外で高みの見物をしていた。

「もう少しなのに……」

扉の厚さは数十センチ。その先があまりにも遠く感じた。

「きゃああ」のむが敵の攻撃に驚き、目を閉じた。

「あぶねえぞ!」宮沢はのむを攻撃をしようとする敵を蹴り倒す。

「ありがとうございます」

「俺の後ろに隠れとけ」

「はい!」

暗殺係の部隊が次々と倒れていく。

『革命隊にしてはよくやるねぇ』

ひとみは感心するように顎を触った。

「私達をあまり舐めないほうがいいわよ」

鈴木は頬に着いた血を手で拭った。

そして、立っている暗殺部隊はひとみだけになった。


未来タワーの屋上に来た現次達を冷たい夜風が出迎えた。

「……」

村田は立ち止まり、歩いてきた道を悲し気に振り返った。

「何してる? 行くぞ……」

福中は村田が止まった理由を分かっていたが、急がせるように言った。

「さあ、あのヘリです」

現次の指さす先にヘリの前には操縦士が一人立っていた。

桃瀬が歩もうとしたその時、悪寒が走った。

「何か来る!?」

桃瀬がビルの外を見つめると、それにつられるように他の者も外を見つめた。

『未来タワー……』

皆の視線の先で、男が夜空に浮いていた。

あり得るはずのない光景見た人達は言葉を失った。

『現次はどこだぁ』

しかし、ただ現次だけは違った。

「私はここにいますよ……」

着物姿の現次は男に向かって手を振った。

『許さねぇ! 現次』

夜空に浮く男が手のひらを現次に向けると、現次は音もなく浮き上がった瞬間――

ヘリまで吹き飛ばされた。

大破したヘリは爆風と共に一気に燃え上がった。

「現次!」手島が燃え盛る炎に向かって声を上げた。

操縦士はその場から逃げ出そうと走り出すが、なぜか足が宙に浮いている。

『吹き飛べ……』

操縦士はビルの外に吹き飛ばされた。


「貴方は革命隊ですねぇ?」

炎に照らされた男の顔にルガは見覚えがあった。

「名前は確かぁ、佐野。けど貴方にそんな能力があったなんて意外ですねぇ」

「俺はもう負けない」

「それはどうかなぁッ!」

ルガはヘリの破片を手に取り、佐野に向かって投げつけた。

とがった破片は、佐野の頬に深い切り傷をつけた。

「こんな傷……」

佐野はニヤリと微笑むと、傷が塞がった。

「次々行きますよぉ!」

ルガは次々と破片を投げ続けた。

「無駄だ!」

佐野が手を上げると、破片は全て吹き飛んだ。

「そろそろ降りてきてもらえますかねぇ?」

「そんなわけ……うッ!?」

佐野は心臓を押さえたまま、屋上の地面に落ちた。

「貴方の貧弱な体に、そんな強力なエンジンがいつまでも使えるわけ……」

ルガは佐野に近づき――

「ないじゃないですかぁっ!」拳を下から振り上げた。

佐野の顔が跳ね上がると、そのまま地面に仰向けのまま倒れた。

「いやぁ、まだまだこの世界も私の天下ではないみたいだね」

燃え盛る炎の中から現次が出てきた。

着物は破れているが、体の傷はどこにもない。

現次はゆっくりと佐野とルガに歩み寄る。

「流石はルガ。私の最高傑作は伊達じゃないですね。それにしても普通の人間にこのような能力……やはり彼女は危険だ……」

「地下の奴か?」手島の問いに現次は頷いた。

「脱出ヘリが壊された今、皆さんはここにいてください。私は地下の研究室に行き、彼女を回収してきます」

「なら、俺も行くよ」

手島声に現次は頷いた。

「私達は桃瀬さんをお守りします」

福中の言葉に「私も!」村田も頷いた。

「それでは任せましたよ」

現次は手島と共に未来タワーの中に戻っていった。



「さっきの音! やっぱり未来タワーからだよ!」

少女は未来タワーの屋上を指さした。

内崎は少女の指さす方を見ると、赤い色の光が見えた。

「未来タワーが燃えている!?」

内崎がその光景に目を奪われていると、少女が急に走り出した。

「待って!」

少女は一目散に未来タワーの方へ走り出した。

(お願い! 生きていて!)

少女は涙目になりながら、未来タワーの屋上を見つめた。



「流石だねぇ」

ひとみの目は狂気を感じるほど期待に溢れている。

「私達は革命隊じゃない……熊切秀樹の意志を継ぐ者よ!」

「熊切……。あの青年か……」

『いつか必ず貴方を……』

脳裏で、男の声と共に、覚悟を決めた眼差しをした青年の顔が頭に浮かんだ。

ひとみの目は一瞬、悲しさをにじませた。

「それならなおさら、やっつけないとねぇ……」

歩み始めるひとみの前に伊敷が立ちふさがった。

「俺が行きます……」

「気を付けてください。彼女の刃は特殊な技術で見えなくなっています」

「そうみたいですね!」

伊敷はひとみに向かって突進した。

「ほほう……私に向かって飛び込んでくるとはいい覚悟だよ」

ひとみは両手を振り上げた。

「うりゃぁぁぁぁ!」

ひとみは伊敷の肩にめがけて刀を振り下ろすその時――

一発の銃声が鳴った。

放たれた銃弾はひとみの持つ見えない刀の刀身に当たった。

「これは凄い……」

ひとみの斬撃が止められた。

拳銃の引き金を引いたのは浦川だった。

「見えてますよ」

浦川の目の力はひとみの見えざる刀を捉えていた。

「流石だッ!」

伊敷はひとみの頬に向かって渾身の拳を浴びせた。

ひとみは数メートル後ろに吹き飛んだが、少し経つとゆっくりと立ち上がった。

「若いねぇ……私に躊躇ちゅうちょするなんて」

ひとみは口から流れた血を拭う。

「こんな殺しの道具をまだ人間だと思ってくれるなんてねぇ……。嬉しいよッ!」

ひとみは刀の刃先を伊敷に向け、飛びかかる。

「くっ……!」

刃は伊敷の左肩に突き刺さり、貫通した。

「殺し合いで油断は禁物だ……。熊切に習わなかったのかい?」

「確かに習ったけど……」

伊敷は刀身を右手で掴んだ。

「女性を何回も殴るもんじゃないとも教わったからな!」

伊敷が見えざる刀を抜くと、鮮血が飛び散った。

「面白い若造だねぇ……。その甘え……熊切の若造にそっくりだよ!」

ひとみが刀を振り上げると、伊敷はひとみの腹部に前蹴りを入れる。

二人の距離が離れた。

『おやぁ? 懐かしい人達がいますね』

忘れもしない声に、伊敷とひとみ以外が振り向いた。

「現次……それに手島……」

「まだあきらめていないとは……恐れ入りますよ」

手島は煽るように言った。

「諦めが悪いのよ」

鈴木が現次の前に立とうとすると、浦川がそれを止めた。

「ここは自分が行きます」

浦川は現次の前に立った。

「逃げた奴らが私の世界を止められるとでも?」

現次は首を傾げた。

虫唾むしずが走りますね!」

現次はゆっくりと浦川に近づいた。

浦川は現次に向かい拳銃を発砲する。

しかし、銃弾は現次の前で静止した。

「だから何度も無駄だと言ったじゃないですか……」

呆れた表情で近づく現次に浦川は「ミラさん!」と叫んだ。

ミラは現次の足元に手榴弾のようなものを投げつけた。

「今度は何です……んッ!?」

一瞬、光の中に包まれた現次に向かって浦川は引き金を引くと、銃弾は現次の右胸を撃ち抜いた。

「熊切……死ぬ前にこんなものを作っていたなんて……」

現次は苦しそうに唇をかみしめた。

「一気に畳み掛ける!」

浦川は引き金を引きながら、現次に近づいた。


「あんたの大将はずいぶんピンチじゃないか?」

伊敷はひとみに訊くと、ひとみは「まだまだこんなもんじゃないよ……」と言った。

その表情は自分に言い聞かせているように見えた。

「そうかい!」

伊敷の渾身の拳をひとみは蝶のように躱し、伊敷を切りつける。

伊敷の肩から血が流れるが、傷口はすぐさま閉じた。

「まだまだ!」伊敷は力を込める。

それぞれの戦いは激しさを増していった。



現次と手島が屋上を去った数分後。

未来タワーの屋上で、村田は夜空に向かい祈りを捧げていた。

「あいつらの為に祈っているのか?」

福中が訊いた。

「当たり前」

「なぜ? あいつらは敵だぞ?」

「それでも苦楽を共にした仲間でしょ!?」

「ああそうだ! だからこそ許せない! 何故俺達に何も言わなかったんだ!?」

「あの二人は私達と出会う前から、何かを覚悟でここに来たんだと思う……」

「何なんだよ……。ますますアイツらが分からない……」福中は激しく頭を掻きながら、座り込んだ。

「私達も下に降りよう!」

「何を言い出す……。下は地獄だぞ? どんな敵が――」

「それでも行くの!」

村田は立ち上がり、桃瀬とルガのもとに駆け寄った。

「あの! 下に向かいませんか!?」

「それはどうかなぁ」ルガは首を傾げた。

「下は危険では?」桃瀬が言った。

「確かに危険ですが……ここにいても助けが来るか分かりませんよ」

「確かにそうですが……」

「それにルガさん、本当は下に行きたいんじゃないですか?」

「あ、分かりました?」ルガの目は輝いた。

「なら……私がこの目の能力を使って、下に行きましょう。少しは戦闘を回避できるかもしれません」

「そうですね! ありがとうございます!」

村田は二人を説得すると、再び福中のもとに駆け寄った。

「二人の同意を得たから、下に向かうよ!」

「……」

「そんなに悩むなら地下にいる二人に訊いてみようよ!」

「言われなくてもそうするさ!」


辺りを警戒しながら無事にエレベーターに乗り込んだその時――

「皆さんには地上の階で降りてもらいますぅ」

「それは……」納得のいかない顔をする村田を無視するようにルガは話し続ける。

「貴方たちは逃げてください。警備係の二人は桃瀬さんを安全な所に」

「ルガさんは地下に行くんですか?」桃瀬は心配そうにルガを見つめた。

「心配はいりませんよ」ルガは笑顔で桃瀬の頭にそっと手を置いた。

すると、桃瀬は崩れ落ちるように倒れた。

「何したんですか!?」

「少し記憶を消したんですよぉ」

「き、記憶を!?」

「はい。私の存在を消し、今まで貴方たちと共に行動していたということに書き換えました。起きた時には私の事なんて忘れているでしょう」

「そ、そんな……」

「これでいいんですよ……。彼女にこの場所は荷が重すぎたんですぅ」

ルガは優しい目を桃瀬に向けた。

「後は任せましたよ」

「はい……」



浦川は現次に向かって、拳銃の引き金を三回引いた。

三発の銃弾は現次の体を撃ち抜いた。

「こんな些細なことで……」流石の現次も床に膝をついた。

壊れた体の機械は正直すぎた。現次は立ち上がることが出来ない。

浦川の銃弾は確実に機械の急所を撃ち抜いていた。

「機械は繊細です。人間の肉体のように傷ついても根気で動かせるようなものじゃない」

「知ったような口を利くな!」現次の鋭い目は、浦川たちを見上げていた。


見えざる刀が地面に落ちると、その刀は姿を現した。

「これで終わりです……」

伊敷の拳はひとみの顎のすぐ下で止まった。

「情けをかけるのかい……?」

「ええ、貴方は最初から気持ちで負けていたんです。貴方の斬撃には何の思いもこもっていない」

「流石は熊切の弟子だねぇ……人の本心を当てるのが上手だ……。降参だよ……。いつかはこうなると自分でも分かっていたのかもね……」

ひとみは両手を上げた。

「何だとぉッ!?」手島は大声を上げた。

「貴方はどうするんです?」浦川は銃口を現次に向けた。

「諦めてたまりますか……。やっとここまでこれたんです……。諦めて……」

『あきらめましょうよぉ。現次』

現次に声をかけたのは、屋上から降りてきたルガだった。

ルガは拳銃を取り出した。

「危ない!」

一発の銃声が鳴った。

「ル……ガ……」現次は頭を床に強打するように、力なく倒れた。

「ルガぁぁぁッ!」手島が叫ぶ。

ルガは拳銃で手島の太ももを撃ち抜いた。

「くッ……」手島は手で太ももを押さえながら、うつ伏せで倒れた。

「弱い者、負けた者はいらない。それがこの未来タワーの暗殺係のおしえですよぉ。それにこんなに楽しそうな事を勝手に終わられたら困ります」

ルガは不敵に笑う。

ミラがルガに飛びかかる。

「あなたからとは意外ですね」

ルガはためらいもなく拳銃の引き金を引くが、ミラは銃弾を腕に受けながら、ルガの腹部に蹴りを入れる。

腹部に打撃をくらったルガは、にやけた顔で反撃の拳を振りかざす。

「ミラさん! どいてください! 私が撃ちます!」

ミラが横に移動すると、浦川の放った数発の銃弾が、ルガの胸に命中する。

圧倒的に戦力の差が見えたが、それでもルガは楽しそうに笑った。

「こんなの久しぶりですよぉ」

(久しぶり……?) ルガの手が止まった。

記憶が思い出せない。そんな感覚に気を取られていると、次の銃弾が飛んできた。

ルガの体は、何の抵抗もなく銃弾を受け止める。痛みが考える時間を与えない。

「今が楽しいなら別にいい!」ルガは笑顔を取り戻す。

しかし、傷だらけの体は悲鳴を上げていた。

大量の出血は、視界をぼやけさせる。

「もう眠りなさい……。狂わされた狂人よ」

ミラの放った拳は、ルガのこめかみを撃ち抜いた。


地下通路は静まり返った。

「戦いは終わったのか……?」

伊敷の体にどっと疲れが押し寄せてきた。

「戦いは終わりましたが、私達にはまだやるべきことが残っています」

「さあ、みんなは研究室に入って。私は手島と婆さんを見とくわ」

鈴木の声に他のメンバーは研究施設の中に入っていった。


「これで悪事はもうできないわね」

鈴木は腕を組み、ひとみと手島を見張る。

「へへっ……まだ彼女がいる……。人間の進化は……はじ……ま……」手島は気絶した。

「……」

ひとみは目をつぶりながら、体を震わせていた。

(彼女……?)

鈴木が首を傾げたその時――

『ふふ……』

少女の声が耳元で聴こえてきた。

「何ッ!?」

鈴木が振り返るが、そこには誰もいなかった。

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