2話
朝起きて目を覚ます。今日もまた、未だ死んでいない事に喜びと感謝、そして恐怖を感じる。それが、僕の日課とも言うべき感情の動きだった。
生まれ変わったら何になりたい。そういった話は枚挙に暇が無いけども、大多数の意見を纏めれば過半数は人間になるのではないだろうか。その上で言えば、今生は恐らくは大当たりの部類だったのだろう。
顔を見た事の無い父親。薄気味悪い僕を遠ざける母親。そうであっても、僕を世話する召使が居るというだけで少なくとも財産はあるのだと理解できる。
笑わず、常に観察するように周囲を見渡し、怯え、泣く。そのくせ物分かりが良さそうに思える様子があるなど、普通の子供とはかけ離れた僕。であれば、捨てられないだけ圧倒的に恵まれている。
でも冷静に考えてみてほしい。それなりの思春期を経験した人間ならわかると思うけど、赤ちゃんの真似なんて出来るだろうか? いや、もっと歳をとっていれば逆に、そういった嗜好を持っている可能性もあるかもしれないけど。
少なくとも僕には無理で、寝ている間に、いや、もしかしたら起きていたとしても関係なく処分される可能性を理解しつつも、生活を変えられることも無く。
だから、大当たり。金持ちの家に生まれて、気味が悪くても捨てられなくて、そして能力を示せば興味を示してもらえる。
幼子が喋れるようになるのはどの程度が普通なのかは知らないが、少なくとも生後半年で意思疎通を図ろうとする事は無いだろう。逆に言えば、そうできるなら普通ではない。
1歳の時点で立って歩き、他者に頼りながらも本を読み、それを理解できるとなればどうだろう。拙いながらも会話を成し、知識を欲する幼子などという存在は、愛を注ぐには異形でも投資するには上等だったのだろう。
家に呼ばれた家庭教師は、誰も彼もが最初は僕を見て侮り、あるいは子守などと憤慨し、次に驚愕か興味を示し、最後にはもう教える事は無いと去っていった。
あるいは逆に僕の知識を取り込もうと画策した輩も居た訳であるが、そういった人間は気が付くともう来なくなっていた。あるいは来られなくなった、か。
なんにせよ、僕に都合が良かったことは確かだ。魔物や、特に災害とも同等の竜など知れば恐怖になる存在も居た。聞いたことも無い未知の現象など知らなければ怖がらずに済む事もあった。それでも、それ以上に喜ばしい物との出会い。
魔法。超常の力。個人で有し、危険に対策出来る可能性。前世ではどれだけ身体を鍛えても、武術を習った所で車に轢かれたり、あるいは銃なんかで撃たれれば死ぬ恐怖があった。
では魔法は? 一人の人間がほんの一言で地形を変える事の出来る力は、伝説ではなく今この瞬間にも存在している物で。
正に死に物狂いという言葉の、文字そのままであったのかもしれない。一度死んでいるのだから、どこか狂っていてもおかしくはない。とにもかくにも、死ななければ死なないのだから。
そうして過ごしていたある日。歳にして3歳を迎えるかどうかという時に、それは起こったのだった。