俺と麻里と美しの夕の花
ホホホホゥゥゥー…………、どうしようか、コのママ街に飛んで行って、遊ぼうかと思ったが………何やらババア好みの展開が、匂うニオウ!におうぞぉぉ………、どれ?
「あー、もしもしもしもし?今からな、オモシロイの動画に撮る、ソウソウ、リアルタイムで見れるネー、あー?見たらワカルヨ!ククククク」
ジャックは、上空に留まっている。賑わう街に行こうとしたのだが、地上にいる二人がどうにも気になり、途中で引き返してきたのだ。彼は地上にふわりと降り立つと、その気配を消した。
そして携帯を取り出す、ポチポチと設定をしたあと、二人の様子を撮り始めた。
★★★★★★
いる!麻里がここに!ここに来ているんだ。
「麻里!麻里がいる!」
次の光を探す。それは自由気ままに姿を現す。どこだ?次は何処に?最後に会えると、カブ男は言った。それは姿が見えるという事なのだろう。早く、早く、と俺は地面を見る。
「出た!三つ目!踏んだよ、次は君!」
駆けていった。それを踏んだ。子供のときに戻って遊んでいる様だ。影踏み、かくれんぼ、色鬼ごっこ、校庭で、公園で暗くなるまで麻里やみんなと遊んだ。楽しかった、面白かった、暗くなり帰ると怒られた。
光が俺に降りてくる。メダルに集まっているのだろう、前より大きく踏む音が響く。四つ目が、そして次、その次と俺達は言われた通りに交互に進めていく。それに従い、気配がはっきりとわかるようになる。
いろんな麻里を思いだす、毎日遊んだ小学生の時、喧嘩ばかりしていた中学生の時、なんとなく付き合っていた高校、それから別れた。故郷を出て、都会の同じ街だけど、別々の大学に行ったから。
「うそ!まさかだとは思ったけど、なんで合コンに参加してんのよ!」
「はあ?お前こそ!てか全然変わんねーな………一人足りないって、頼まれたんだよ」
卒業して、就職をした先でであった、賑やかに騒ぐ事が好きな同僚に誘われて、参加した居酒屋での合コンに麻里がいた。俺も全然変わって無かったんだろう、直ぐに顔を見て昔と同じ様に話しかけてきた。
アドレスを交換して、休みにはあちこち遊びに行った。映画も、遊園地も、スノボもスケートも、海もキャンプも、お互い社会人だし、道具はレンタルがあるから、気楽に借りて遊んで楽しんだ。
そろそろ結婚か?みんなに囃されて………指輪を渡して、それから、それからと、たくさん有る思い出が、次々と出てくる、止まらない。今迄悲しくて寂しくて、思い出さない様にしていた。
「…………ごめん、俺………、待受け見れても、俺の中の麻里の思い出すのが辛くて、悲しくて、閉じ込めて、思い出さない様にしていた………ダメだな、そんな事、ダメだよ」
情けなくなる。七つ八つ九つ。次々と出てくる。走っているからか、会える時がはっきりと分かったからか、ドキドキしてくる。十三迄大丈夫かなと、不安になる、ろくに食べてなかったツケが、ここに来て出てきた。
息が上がり足元が怪しくなる。転んだりしたら麻里になんと言われるか、俺は息を切らせながら最後の一つを踏んだ。光が上に上がると俺に落ちてきて消える。何が起きるのか、会えると言ってた。会える…………、
「あ………ああ………目の前に居たのか」
「最後の一つを追いかけてきたの、会いたかった!会いたかったぁぁぁぁー、う、うわぁぁん」
プロポーズした時と同じ様に、麻里が俺に抱きつく。実体じゃない、何処か頼りない重さだが、麻里を感じる、触れる、声が聞こえる、話せる、はっきりと見える、みえるみえる。
会いたかった………ぐぅ、と抱きしめる、腕の中に麻里がいる。俺の腕の中に戻ってきている。ふわりとした頼りない、仮初の姿形だけど、確かにいる。泣きながらいる、俺も泣いている。
「このままでいて欲しい、いてほしい、無理だよね、多分一晩限りのだよね、でもでも、いてほしい、だめなら俺を連れて行って………」
「それはできない、出来ない、できない………、私が来たのは、貴方に聞きたかったの、最後に明日聞くって言った事を、聞けば私の中にいる赤ちゃんに名前がつくのよ、貴方にしか出来ない」
名前?俺は腕の力を抜いた、囲っている中で、君は俺の顔を見上げてくる。
「あ………名前、うん、花子にしたら怒られたから、ネットで調べて考えた」
「花子も良いけど、でも、やっぱり考えると大きくなった時に怒られそうで、だからダメって言ったの、三月に産まれるから、桃花かな?とか思ってるけど、なににしたの?」
生きている時が戻った様、けれど君はもう居ない、明日になれば居ない、いや、もうすぐ消えてしまう、今度会えるは………無い、何にしたの?教えて、と聞いてくる。
「う、うん、女の子はね『夕花』ゆうか、にしたんだ、可愛くて、君が好きな空も入れたいし、簡単なのがいいなぁって…………」
「かわいい…………でも普通に考えると、優しい花で優花ってのもあるのに?夕花?どうして?」
「学校で、書くのが、かんたんな方がいいなぁって思ったから。だめかな?」
俺は先々まで考えた事を話す。無くなった明日をここで過ごしている。まぁ!とクスクスと笑う麻里。キラキラと綺麗で、可愛くて、愛おしくて離したくなくて、どうしたらいいのか、わからなくなってくる。
「アハハハ、書きやすい………優しいパパですよ、良かったね『夕花』ちゃん」
お腹を優しくさすりながら呼んだ。俺はそろりと手を重ねる。温度が麻里の手に、そしてその先に入るような気がした。名前を呼んで、と言われたので恐る恐る呼んでみた。
「え、と………夕花、女の子でいいの?」
「うん、女の子なの、だからいいの」
麻里が涙に濡れながら、美しく笑っていると思った。プロポーズの時よりも、結婚式のときよりも、一優しくふわりと笑った。眩くて目を細めた。視界が一瞬狭くなった。いつ彼女が抱いていたのかは、わからない。俺は目をパチパチとする。
「え、どこから?そ、その赤ちゃん、俺の?俺が、名前を付けた……、」
「そう、夕花よ、夕花、ゆうか、ホラ優しいパパですよ。学校で名前を書くのを心配している、独りになると床で寝て、ご飯も食べないパパがいますよ」
産まれたての赤ちゃんが、彼女の腕の中にいる。俺と麻里の間にいる。手を握りしめて眠っている。小さくて小さくて、俺はそろりと手に触る。触れることが出来た。嬉しいのか、悲しいのか、ない混ぜに笑顔と涙が混ざる。
「かわいい、小さい、夕花、夕花、赤ちゃん」
うん、赤ちゃん、この子は貴方しかいないの。パパの中にしか存在が無い。だって産まれて来れなかったから、ごめんね、ごめんなさい。と麻里がハラハラと話す。俺も夕花にあやまる、小さい娘はすやすやと眠っている。
★★★★★★
「くはぁぁ!ホネ!ヤラれちまったよぉぉ…………ティッシュ、ティッシュ、チーン!ぐすぐす…………そうか、ベビーが産まれる展開とは、ううう、泣けてくるねぇ、我ながらいいカモ拾ったよぉぉ、ズズズ」
小さなキッチンで、炊きあがったホクホクのカボチャの煮物を皿によそいながら、画面のリアルタイムを眺めて涙する店主。
「クソぉおぉ!ホネ、間近で見やがって………ぐすん、アヤツ元人間の癖に、変に霊力とか魔力上げやがって………クソぉ!腹が立つぅぅ、ぐすんティッシュ、ティッシュ」
チーンとオーブンレンジが音を立てる、中にはカボチャのグラタンがグツグツ煮えたぎっている。ガスコンロには鍋がグツグツ、中身はバターナッツのオレンジ色のスープ、焦げぬ様にお玉でぐるぐるかき混ぜる店主。
「う、う、う………あやつもこれを間近で見てんだね………垓骨の目にも涙…………どっから出てくるのか?そもそも飯、ここでたまに食べるけど、何処に消えているのやら、変な奴だよねぇ、昔住んでた国にも、あんなのいやしなかった………。おお!チュウしそうだね!それいけー!兄さん!チュウをしろ!ホネ!近づけー!」
ハロウィンの夜、フォーアイ堂の二階では店主が携帯画面に激を入れていた…………。