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俺と麻里と美しの夕の花 星踏み遊び

 夜、俺はベンチに独り座っている。今日はハロウィン、じっとりとした蒸し暑さが消えている夜の風が、木々を揺らして吹く。麻里が好きなそれを飲まずに、お守りの様に握りしめている。 


 角の公園には人っ子一人いない、皆賑やかに今宵を過ごしているからだ。自転車でパトロールするおまわりさんも来ない、皆お仕事で忙しいからだ。


 座って待つ間に、同僚から何時もの店にいるから来ないか?と誘われたが、外出している事を伝えて断った。


「ん!家でシケてるかと思ったら………イイ傾向だ!そうだよ。外に出て息をしなきゃ、邪魔したな。ハッピーハロウィン」


 にぎやかな店内を背負ってホッとした様な声。悪いな、と久しぶりのやり取りをすませた。息をしなきゃという言葉が耳に残る。携帯を仕舞いつつ、うん………そうだな、そうだけど。息するのも苦しいんだよ、と缶を握りしめて、どことも無しに眺めていると…………。


「あ!なんか出た………あれが『ドアノブ』?てか妖怪?普通に怖いんだけど」


 ギ、ギ、ギュルルルル、キシャァァァ!ギュルギュル………、それは出たときには『ドアノブ』ポっと銀に光る丸いノブだったはず、しかしハッキリと形取った時には、高速回転しながら何か雄叫びを上げている、摩訶不思議なモノに成り果てている。


 何、何か出てくるんだろうな………期待が膨らむ反面、不安もそれに比例する。ドキドキしながらふらりと立ち上がる、ゴト、ゴロゴロゴロ…………手から離れたココアが落ちて転がる。


『トリックアート!千枚漬け旨いー!………ハズ………』


 聞き覚えがある声が響いた、声が上がると動きを止めたそれ。ポツリと丸いノブが見えた。


 ガチャン、ギ、ギギギィ………切り取られた様な長方形の空間が姿を見せる、それが扉が押し開ける様に開いた。こちら側と言っていいのか、出てきたのは黒いヒラヒラとした姿。そして、ギギギ………バタンと閉まる音が響く。見覚えのあるソレが俺に話して来る。


「オオー!大根男!なにか言え!」


「は?え?大根男?あ、ヒラヒラ男…………夢じゃなかったんだ………カブ男」


 一瞬悪魔が現れたかと身構えたか、少し親しげに声をかけながら出てきたそれは、あの時の奇妙なハロウィンコスプレイヤーだった。


「…………キィー!ジャパニーズ!嫁は俺の名前を呼んだというのに!嫁!チャントオシエテいたのか!」


 嫁?誰の………と一瞬訳がわからなかった。居るの?何処に?目をやってもこすっても、瞬きを繰り返しても、ヒラヒラ男が話してるその場所には誰もいない。


「アー、見えないミエナイ、ある事シナイと形がデナイ、イイカ!大根男、ババアに頼まれた事をやり遂げたら会えるぞ」


「会える…………麻里に?来てるの?ここに、遊べって言われたけど、何処に、そこにいるのか?カブ男!教えてくれ、ここに麻里が来てるのか?」


「…………カブ男………、終わったら嫁!教えとけ、オマエノ嫁ここに来てる、イイカ?会いたいなら0時がキタとき、地面に浮かぶ『星』を踏め!ここに6枚と、7枚金貨が埋めてある、イチマイ目大根男、二枚目嫁の順番で踏め!間違うな『生』『死』『生』で終わるようにシロ」


 テキパキとカブ男は、俺に言いたい事だけ言い、ソレデハオレ様は、チョイトばかり賑やかなトコロに、キョーフをお届けに行ってくるから、イイカ!楽しくヤレ!デワサラバぁー!とバザァと布地を広げると、風を起こして飛び去った。


 ★★★★★★


 え………と、0時?今………ああ、あと少しか、俺は携帯を取り出すと時間を確かめ、アラームをセットした。キョロキョロと辺りを見渡す。ガランとして俺一人しかいない。閉じた後は、再び奇声を発しながら動いている。フラフラと俺はそれに近づく。カブ男はその当たりを見ながら話していたから………。


「麻里いるの?いるの?どこ?何処に?」


 歩く、近づく、手を差し伸ばし探る、何も無い…………幽霊をみれるという友人がいる事を思い出す。霊感があるから、小学校のキャンプの時にしかめっ面で、話していた。あの子なら見れるのだろうか、ここにいる俺の奥さんを。


「ねえ、ズルいよ、みえないんだよ、そっちからはみえてるのだろう?ズルい、どうして俺にはミエナインだ!」


 …………ピピピピ、ピピピピ!アラームが鳴った、午前0時が来た。俺は拳で涙を拭う。


 時間がくれば何がか始まるという、カブラ男がそう話していた。


 店主は集めろという、最後に会えるとカブラ男が言ってた。二人とも、最初に踏むのは俺と言っている。俺はそれに従うべく、宙を見ていた視線を地に向ける。


 ………ポッ!と光が丸くひとつ浮かび上がった。そして消える、どこだ?と身体を捻り探す、離れた場所で次が光る。消える、ランダムに動き繰り返すソレ。


 最初に踏めと言った、俺はそれを追いかける、数えて………始まればどうなる?俺は丸く光るモノに向かって行った。ソレはもてあそぶ様に、あられたり消えたりをする。始まりは…………俺!  


「いち!踏んだ!次は………麻里だ!」


 ダン!ジィィィーンと足首に響く、力を入れなくてもいいのに思いっきり光に足を置いた。シュン!丸いそして鮮やかに、抜ける様なま白の光が飛び出す、星の光はさもありなんというモノが、一度上に高く上がる。その行方を追いかけることは無い、


 そんな事はどうでもいい、俺は白く、そして小さなデコボコの石畳の上に現れる次の光の行方を探す。次に踏むのは麻里、それが止まれば彼女の存在が証明される!


 薄墨色の光が止まる、タ、ン!と音が聞こえた気がした。いた!光が上に昇った。麻里がそこにいる。俺は自分の番が次という事を忘れて、そこに駆け寄った。


 ☆☆☆☆☆☆☆


「トリックアート!千枚漬け旨いー、ハズ…………」


 ジャックが私の目の前で、お芝居の様に合言葉を言う。心臓。あるのかしら?この身体に………、でもドキドキとしている、痛いほどにそれを感じる。


 ゆっくりと軋む音を立てて長方形が開いていく。空気がそこからコチラに流れ込んで来る。ああ………、香りが流れ込んで来る。


 無臭のココとは違う、風が来る。


 ソレは木々のソヨソヨと動く緑の匂い。


 ソレは空気に含まれる水の匂い。


 ソレは生きている重さを感じる匂い。


 目を見開いた。思いっきりそれを吸い込んだ。懐かしさと哀しさで涙が溢れる。どうしよう、間近で見たら私、どうなっちゃうのだろうと急に怖くなった。


 ジャックが彼と話している。私も外に出ていたのだけど、姿は見えないらしい。どうやらお互い霊感とやらには、恵まれてなかったみたい。


 ずいぶん痩せちゃってる。私は………変わらない姿なのに、話に聞くのと違うと言いたい、死人の方が姿が変わらないんじゃないの?


「…………!嫁!チャントオシエテイタノカ!」


「は?な、何?」


 ぼう………と眺めていたらジャックに怒られた。オシエテ………ああ、そんな事知らないだろうな、カボチャのお化けと呼んでいたような………、薄らぼんやりと記憶が蘇る。哀しい思いが大きくなる。


 何回も一緒に過ごしたハロウィン、ずっとずっと一緒に、過ごせると思っていた秋のお祭り………、今年は二人で、子供が産まれたら家族でコスプレして、クリスマスだって、お正月だって、それまでとは違っているのがあったと思うのに………叶う事が無かった、叶わない夢がある。


 見えてないなら泣いちゃえ、あっちも泣いてるし………ジャックがこの先私達がやるべき事を話している。涙を拭きながらそれを聞く。するべき事をしないといけないと、わかっていたから………、そして大きな言葉がきこえた。


「最後に会える」


 今から出てくるのを順に踏んだら………最後に会えるの?彼がフラフラとこちらに来た。でも私の姿は見えてない、声も聞こえない、触れているのに空を掻く彼の手。通り抜ける彼の身体………。


 会えるということは………どういうことなのだろう、出来れば、出来れば………ほんの少しだけでいい。


 もう一度だけ、5分だけでいい、身体が欲しい。


 彼の鼓動を聞いて、温もりを感じたい。


 触れたい。話したい。そして………聞くの、彼が決めたあの事を。


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