表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

みそっかす王女は国を棄てた

7話完結。

 古代ケルトでは11月1日が新年で、前夜の10月31日から、秋の収穫物を集めた盛大なお祭りが開かれました。またこの日には、死後の世界との扉が開き、先祖の霊が戻ってくるとも信じられていましたとさ。


 ☆☆☆☆☆☆☆



 魔法使い達が住む世界があった。


 空にドラゴンが飛び、草原には花々が絶えなくなる咲き乱れ、妖精が住んでいて、ユニコーンが駆けている、深い森の中には精霊の住処。小人族もここで集落を作っている。


 そして沼には正直者が好きな女神様がいて、落としたのはどっち?と気まぐれに出てきて、湖の底には龍の国。


 海には人魚の一族で、陸には魔法使い達が暮らしている。魔法使いは箒にまたがり空を飛び、呪文を唱えて先を読み、森羅万象と心を交わし、動物精霊妖精達と会話をし、草を集めて薬を作る。


 黒いローブをはためかせ、空から眺める地上の世界、新年来る夜前の夜、死者の国との境目がとろけて無くなるその時に、狭間の国でも口開く、あちらの世界とつながる。


 死者に紛れてあちらに行こう、一夜の限りの夜会が始まる、踊ってすごせ、あちらに行こう。聖なる一夜 ハロウィン。


 国中がウキウキとしている。広場では大きな篝火かパチパチ朱を爆ぜ、サラマンダーがその中でクネクネと踊っていた。


 スィーと火の上を掠めるように空を飛び、邪気を焼き払うと、あちらの世界に向かう者達、地上でそれの側で、賑やかに笑いながら手をかざし炎にあたる者達。


 賑やかな祭りの夜、それをお城のひときわ高い塔の上で、じっと見ている少女がいた。


 黒いローブ、手には箒、三角帽子、肩から大きく膨ららんだかばんを斜めにかけていた。少女は胸に下げている、父王から与えられた、この国の宝『星の首飾り』をローブの下で、ぐっと握りしめていた。


「ふん!どいつもこいつも………えーえー、どうせ私は空飛ぶのも下手っぴ、先読みはできない、できる事といえば、古文書を読み解く事と、薬作りだけの『みそっかすの王女』ええい!忌々しい。こんな国など棄ててやるわぁ!」


 産まれ持った魔力が、ほんの少しばかり低い王女様は、何をさせても下手だと言われ、笑われ、まことに面白くない毎日を過ごしていた。


「飛ぶのも下手、あらゆる者達との会話もままならない、風を聞いて雲を読むなんて事はここでは赤ちゃんでもできる事、王族たるものその気になれば『神』と会話を出来るというのに、まぁ薬を作ることだけはそこそこですが、恥ずかしい、成人を迎えたからには、あまり表に出ない様に、他の王子や王女が恥をかきますから」


 ため息と共に、母親である王妃が彼女にそう話したのは、その年を迎えた頃、国の為に働く様に言われる訳でもなく、有力な貴族の嫁に出される事もない、隠れて過ごせとそう娘に言い放った。


「冗談じゃないわ!わたくしは、成人になったら行けるという、あちら側で、この国など捨て去り先を過ごそうと計画を立てていたというのに、塔で一生過ごせ?は?信じられない、娘の幸せをなんだと想ってるのかしら!」


 高飛車に言い放つと、ゴソゴソとローブの下から外に出した古びたペンダント。じっと飾りのメダルを眺めると、それを握りしめる。そこには十三の星の彫刻と文字が円に沿い描かれていた。


「………そんなボロが欲しいのか?姫やお前の成人の祝じゃ、もっと他の物を選ぶと良い」


 それを選んだ時の父親の呆れた声が蘇る、母親である王妃のくすりと笑う声、ヒソヒソとささやく側使えの者達の嘲笑。


「どいつもこいつも、古文書というものを読まないのかしら?このペンダントの意味を知らないなんて、えーえー、私はみそっかすですからね、一日中書庫にいることも多かったのです、これは間違いない星の力を宿せるペンダント、それを手にした者はそこそこにその力を取り入れられるという………あら、今思い出したらそこそこって書いてあったわね」


 かばんの中の古文書に書かれてあったことを、ふと思い出した。まあ、そこそこ使えれば良いでしょう、あちらではそれほど高度な魔法はいらないと、アレに書いてありましたし。みそっかすの王女は楽観的に考える。


「さあ!この日の為にちゃんと取り入れてますの、私をあちら側に移動出来るだけで良いのです、その後の事は、あちらで考えましょう!頼みましたよ、ペンダントさん」


 箒にまたがると、王女はメダルにキスをする。ぽぽぽぽぽ!と星が光り大きな光が彼女を包む。王女は柄を握る手に、その力が流れて来たのがわかった。


 これはイケる!ニッコリ笑顔を浮かべた王女、空を飛ぶ、うき上がれ!と念を込めた。それまでとは違いふわりと羽のように浮かぶ。


 そしてグングンと上に上に昇って行く。今までフラフラとしか昇れなかった彼女は、ドキドキと胸が高まりときめく。空を飛ぶってこんなに素晴らしい気持ちなの?少しばかり惜しいかも………あちらでは飛ぶことはできないと読みましたもの。


「イエイエ!ダメですわ、ここまで来たからには先に進みのみ!さらば!ろくでなしの黒の国よ!二度と帰って来ませんわ!フン!」


 少し迷う心を打ち消すように声を出すと、上空に流れる風の道にたどり着く、サァ!と箒が風に乗る、崩れる事無くその強い流れに乗れたのを目を見開き少し驚いたが、心地よい感覚ににっこり笑う。周りにいる者達は、見事な箒の使い手がみそっかすの王女とは誰も気が付かなかった。


 ふ、ふふふふ、ふーふふふ!愉快ですわー!ほーほほほ!


 そして、そのまま出奔した。言葉通り、二度と帰って来ることはなかった。


 そして、お城の人々も、探しに行く者は………誰もいなかったという。



 ★★★★★★



「あー、やれやれ今年も乱痴気騒ぎが来るのかねえ、ハロウィンと無縁だと思ってここに店を構えたというのに、時代の流れかねぇ」


 街の路地裏、虹色薬局フォーアイ堂の年老いた店主は、プランターの花に水をやりながら、ブツブツと愚痴をこぼしていた。そう、国を出奔した王女様は、東の島国にたどり着くと、小さな薬屋を開いた。


「思えは文明開化やら、戦争やらなんやらあったけど、それなりにここで暮らしていけるのは、兎にも角にも私の薬師の腕が良いから、それにしてもここが、おまじない程度にしか魔法が無い世界だとはね、おかげでみそっかすの私が、大魔法使いになるんだから、だからむやみやたらに使うこともないけどね」


 ザッサッとかつて空を飛んだ箒で、店先をはき清めます。そして入口に下げてある看板を『開店』にし、店の中に入いる。


 そう、路地裏横丁、虹色薬局フォーアイ堂、そこの店主は、かつて過ごしていた国では、みそっかすの魔法使いの王女様。


 そう彼女は、人間界で魔法薬を作り、迷える人々に売りつけ、必要な物を集めて時を過ごしていた。


 持ち出した古文書を読み学び、その時々の文明を柔軟に取り入れ、上手く人に溶け込み、ベランダや店先で薬効がある草を集めてプランターで育てている、ちょっと変わったおばあちゃん。


 その昔、ちょんまげが男のヘアスタイルだった、女は結婚すれば眉を剃り落とし、白歯を真っ黒に染めてた時代。ふらりとここに住み着いた、魔女の小娘だったのは、


 遠い遠い、遥か遠い昔の事。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ