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水の竜との出会い

フィリアの言うとおり、その後俺は二日間をほとんど寝て過ごし治療に専念した。


「相変わらず化物じみた体だよなぁ。本当に治るなんて」


借りているギルドの一室で一人傷を確認する。どうやら問題ないようだ。

服を着替えていると、フィリアとアリアが入ってきた。


「ようやく復活か。全くどれだけ僕を待たせる気だい?」


フィリアが顔を急に近づけてきたので、慌てて下がる。

好きだと自覚してから、どうにも意識してしまう。

その度に彼女は不思議そうな顔をしているが、あまり気にしないようで助かった。


「治ってよかったわ。あなたを連れてきた時の彼女の慌てようといったら、あんな彼女今ま」


慌ててフィリアがアリアの口を塞ぐ。アリアはクスクスと笑っていた。


「そんなことよりも、治ったなら早速働いてもらおうか。アリアへのお礼でまた借金が増えたのだから、ゆっくり休んでいる暇はないよ」


なんと、借金が増えてしまったようだ。当然といえば当然だがいつになったら返せるのだろう・・・。


「私はいらないと言ったんだけど、彼女が払わせるって言って聞かなかったのよ。金貨1枚で説得したから、頑張ってね」


アリアが申し訳なさそうな顔で金額を伝えてくる。命を救われたのだからそれぐらい安いものだ。


「とりあえず、これからどうするか決めようか。治療に専念している間に何があったか知りたいだろう?」


俺が眠っている間にわかったことを、アリアが話してくれた

奴らの目的は薬を使い、竜の守護者のような力を得ることが目的だったようだ。

だが薬の生成はうまくいっていなかったようだ。

人に投与した場合手に入る力は不完全な上、自我を失ってしまう。

各地で目撃された変異種は、やつらの実験体だったのだ。

そして、あれから奴らは不気味なほど姿を表さなくなっていることも分かった。


「拠点を潰されて、おとなしくしているとかじゃないよな?何か目的があるのか」


各地で目撃されていた変異種も出現していないようだ。

実験は止めてしまったのだろうか。


「おそらくは薬の改良を第一に考えているんだろうね。そのために奴らが原初の4竜の血を求めていることも分かった。血が手に入るまではおとなしくしているさ」


ということはフィリアが狙われるということか。居場所もバレているだろう。


「ここも危険なんじゃないのか?」


もしここを襲われたら間違いなく一般人を巻き込んでしまう。

そうならないためにも先手を打つほうが良いと思ったのだが。


「ここには僕もいるしアリアもいる。それに冒険者だってたくさんいるんだ。いくら奴らでもおいそれと手を出せるわけないさ」


よく考えればそれもそうだ。どうやら早合点してしまったようだ。


「僕は他の竜たちのことが気になる。彼らは竜だけど、僕のようにあまり強くないからね。狙われるとしたら僕より彼らのほうだろう」


そういえば他の3竜については、聞いたことがなかったな。

どこにいるんだろうか。


「他の竜たちの居場所はわかるの?わかるなら警告しにいったほうが良いんじゃないかしら?」


アリアの提案にフィリアは考え込む。

奴らを追うべきか、かつての仲間に警告しに行くか悩んでいるようだ。


「奴らの情報も少ないし、他の竜たちに会いにいったほうが良いんじゃないか?」


奴らも竜を探しているようだし、どこかで遭遇するかもしれない。

手がかり無しで闇雲に探すよりは良いだろう。

納得してくれたのか、フィリアが今後の方針を決めたようだ。


「そうだね、気は進まないが彼らに会いに行こうか」


そうと決まれば早速行動だ。アリアとメリルにお礼をいって、二人でハジの町を出る。


「それで、最初はどの竜に会いに行くんだ?場所はわかるのか?」


馬車へ荷物を積み込みながらフィリアに尋ねる。


「最初は水の竜に会いに行こうか。彼女の場所ならすぐにわかるからね。とりあえず西へ向かってくれ」


フィリアはすでに荷台でくつろいでいる。水の竜とはどんな竜なんだろう。

会えるのを楽しみにして馬車を走らせた。


目的の場所へは馬車で3日かかった。

この地方は水が綺麗なことで有名で、水源となる山脈の麓には大きな湖があった。

どうやらその湖に、水の竜は住んでいるらしい。


「彼女は僕たちの中では最年少でね。僕のことを姉のように慕っていたよ」


向かう途中に彼女はそう教えてくれたが、彼女の顔は少し困ったような表情をしていた。


「良い子そうじゃないか。なにか問題でもあるのか?」


気になって尋ねる。彼女はしぶしぶと言った感じで教えてくれた。


「悪い子ではないんだが、その、喋り方が特徴的でね。出会ったときにあまり驚かないで上げると助かる。もちろん僕へ反応を求めるのもやめてくれ」


フィリアをここまで困らせるなんてどんな竜なんだろう。さらに会うのが楽しみになった。

目的の湖が見えてきた時、至竜教のやつらの姿が見えた。


「やはり奴らもいたか、復帰の準備運動にはちょうどいいだろう。君に任せるよ。」


フィリアに馬車を任せ、奴らの相手をするために刀を抜く。


「そういえば、君が寝ている間に奴らへの扱いが変わってね。もう捕虜は必要ないから殺してしまって構わないよ。どうせあいつらは極刑だ。気にすることはないから存分にやってくれたまえ」


フィリアの言葉を聞き、俺は遠慮なく刀を振るう。

ダルクスがいるかと警戒したが、無用の心配だったようだ。

中には抵抗してくるものもいたが、俺の相手ではなかった。

20人ほどいた奴らをすべて片付け終わるとフィリアが近づいてきた。


「お疲れ様。大丈夫かい?」


恐らく初めて人を殺した俺を気遣っているのだろう。

正直に言えば、何も思わなかったわけではない。

だが、奴らは村のみんなの仇だ。そう思うと躊躇なく殺すことができた。


「問題ないよ、それで水の竜はどこにいるんだ?」


刀についた血を払い、鞘にしまう。


「何かあったらちゃんと言うんだよ。彼女は多分湖の底だろうね。奴らも手出しできなかったからここで待ち構えていたのだろうさ」


湖を覗き込む彼女。この深さでは人間は潜ることはできないだろう。


「どうやって呼び出すんだ?まさか潜っていくわけじゃないよな?」


聞いておいて嫌な予感がした、彼女のことだ潜って行けと言うかもしれない。

だが、俺の予感がはじめて外れた。


「彼女の方から来てもらう。僕が来たとわかればすぐに出てくるだろうさ」


しかしどうやって気づいてもらうのだろう。

疑問に思っていると、彼女は湖に向かって右手を向けた。


「まさか・・・冗談だよな?」


そのまさかだった。彼女はにやりと笑い、右手から炎の魔法を放つ。

炎によって水が一瞬で蒸発し、軽く爆発が起きた。

あたりを霧が包む、しばらくして霧が晴れると今度は地面が揺れ始めた。


「気づいたか、おそらく竜の姿だろうから腰を抜かさないようにしてくれよ?」


湖を見ると、なにやら大きな影が上がって来るのが見えた。

その影は水面から勢いよく飛び上がると、俺達の方に向かってくる。

フィリアの前に落ちてきたそれは、フィリアが竜のときと同じような姿をしていた。

その全身は水色の鱗で覆われ、背中に翼はなくしっぽが魚のヒレのような形をしていた。

俺があっけにとられていると、竜の発言でさらに驚くことになるのだった。


「お姉さま!」

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