変異種の原因
2日走り、目的の遺跡に着いた。
途中何度か、投げナイフの練習と、刀の扱いになれるためフィリアと特訓した。
刀は、爪ほどではないが切れ味抜群で、これなら十分に爪の代わりを果たしてくれるだろう。
投げナイフに関しても、思い切り投げたら木をなぎ倒してしまったため、軽く投げることで精度を上げることにした。それでも岩に突き刺さるほどの威力だった。
「ここに奴らがいるんだな」
遺跡を前に気を引き締める。
仇がいるかもしれないのだ。
「気持ちは分かるが、無茶をするんじゃないぞ。僕の言うことはきちんと聞いてくれよ」
フィリアがそんな俺をみてため息をはく。
寝過ぎたせいで腰が痛いのだろうか。
クッションでも敷き詰めるべきか、そんなことを言いながら、腰をさすっていた。
改めて遺跡を見渡してみる。
かなり前の時代のものなのだろう、石畳や、外壁はひび割れ、ツタが生い茂っていた。
通路に並んでいる柱も、何本か倒れている。
観察していると、遺跡の中から人が出てきた。
「お前さんたちも、冒険者か?」
鎧も、剣も傷だらけで、その顔も傷跡だらけの初老の大男だった。
「お前さんたちもってことは、君も冒険者かい?」
フィリアが尋ねる。男は背負っていた剣を抜き、こちらに向けた。
俺も刀を抜き男に向かって構える。
「そうだな、俺は元冒険者だ。今はとある組織でこの遺跡を任されてるガルムってもんだ。冒険者って事は、邪魔しにきた敵って事でいいんだよな?」
ガルムがこちらに近づいてくる。恐らくこいつが、他の冒険者たちを殺したのだろう。
「とある組織ってのは、至竜教の事か?」
こみ上げる怒りを必死に抑える。
せっかくの手がかりだ。情報を引き出さなければ。
「俺たちのこと知っててきたのか、勇敢だねぇ」
二人の見た目からして、今までの冒険者よりは弱いと思ったのだろう。
馬鹿にした調子で、ゲラゲラと笑うガルム。
「聞きたいことがある、俺の村を襲ったのはお前か?」
怒りに震えながら尋ねる。
こいつが仇ならばすぐにでも殺してやる。
そう思いながら返事を待った。
「俺じゃねぇが、うちの人間の誰かだろうな。俺の役目は遺跡を守ることだ。うちの組織で原初の4竜の1匹を探している部隊が、各地の村を襲ってるって聞いたことあるぜ」
あごひげをいじりながら、軽い調子で答えるガルム。
仇はこいつではないが同じ組織にいる以上こいつも同罪だ。
「ずいぶんとおしゃべりだね、僕たちに情報が漏れても良いのかい?」
4竜という言葉に反応したのか、フィリアが口を開く。
なにか思い当たる節でもあるのだろうか。
「構わねぇよ。すぐに死人になるやつにそんな心配しても意味ねぇだろ?」
剣をこちらに構え直し、ニヤリと笑うガルム。
「ずいぶんと自信があるようだね。ショウ、君の気持ちは分かるが、殺すなよ。こいつはまだ役に立つかもしれないからね」
そういうと、フィリアは少しだけ後ろに下がる。
刀を構え直しガルムと向き合う。
そんな様子を見て、ゲラゲラと笑うガルム。
「殺すなとはおかしな事を言うお嬢ちゃんだ。じゃあ少年、悪いけどさっさと死んでもらうぞ」
彼が冒険者を殺し初めて、これでもう5人目だ。
そろそろましな奴が来るかと少しだけ警戒していたところに、
ただの少年と少女が来て拍子抜けしたようだ。
手にした大剣を振り上げ、こちらにめがけて振り下ろす。
俺はそんな彼の剣に合わせ、刀を振るう。
「反応できたことはほめてやろう。だが俺の剣は、その剣ごと斬り捨てる!」
ガルムが叫んでいるが、恐怖はない。
大剣を刀で根元から切り捨てる。
「ばかな!ミスリルでできた俺の剣が斬れるわけがない!」
短くなった剣を手に、ガルムが叫んでいた。
ボルグが作ってくれた刀の切れ味は、俺の想像を遙かに超えていた。
「殺しはしない。でも、死ぬほど痛いぞ!」
そのまま、慌てる彼の顔面に拳をたたき込む。
巨体が宙を舞い、遺跡の壁にたたきつけられた後、地面を転がった。
気を失ったようだ。
「よく我慢したね。こいつは後で、連れて帰るとしよう」
フィリアが近づいてくる、珍しくほめられたようだ。
彼女はガルムをロープで縛ると、遺跡の中へ目を向ける。
「では、こいつが守ってたものを見に行こうか」
刀をしまい、彼女の後をついて行く。
遺跡の内部は、いくつか小部屋があるようだ。
至竜教の教徒だろう。
遺跡の中にいた、竜の仮面を付けた男たちは、一切抵抗することはなかった。
だが、逃げられても面倒だ。
遺跡の中に牢屋があったため、そこに閉じこめておくことにした。
一番奥の部屋に進むと、大きな壷が部屋の中央においてあった。
中を覗くと、血のようなものが底にたまっている。
男たちの中から一人連れてきて、説明させた。
「これが、俺たちが戦った変異種を生み出していたのか」
説明によると、血のようなものの正体は薬のようだ。
竜の血を元に、様々な加工を施したもので、接種すれば竜のような力を得ることができるそうだ。
その実験として、適当な魔物に与えて、変化を観察していた。
それが、変異種と呼ばれる問題の個体になったようだ。
「とりあえず、あとは近くのギルドに任せようか。僕たちも、アリアに報告しに戻ろう」
あらかた調査し終えたのか、外へ向かうフィリア。
俺も男を牢屋に戻すと、外へ向かう。
外へでると、ガルムが目を覚ましていた。
「お前らいったい、なにもんだ?」
自分がやられたことに、まだ納得いかないのか二人をにらみつけるガルム。
「僕は竜、彼は僕の守護者さ」
胸を張るフィリア。
そういえば、彼女は竜だったな。
いつも少女の姿なので、忘れてしまっていたが。
ふとガルムを見ると、様子がおかしい。
笑い出すか、頭のかわいそうな子を見る目をするかと思ったが、驚いたように目を見開いている。
「竜だって?人間の姿になれる竜・・・それに守護者・・・まさか、お嬢ちゃんが原初の4竜の1匹なのか!?」
原初の4竜?そういえばそんなことを言っていたな。
奴らが探し求める存在らしいが、どういうものなのだろう。
「僕のことを知っていたか、なぜ僕を狙うのか、お前は知っているか?」
フィリアがお前と呼ぶなんて珍しいな。
何か気に障ったのだろうか。
「さぁね、俺はただの戦闘員だ。ただ、上の連中は嬢ちゃんを探してるよ。まさか本当に存在するなんてな。嬢ちゃんが4竜だって知ってたら、さっさと逃げ出してたんだがなぁ」
げらげらと笑うガルム。
「そうかありがとう。もうお前に用はないよ。生かす意味もない」
ガルムが何かを言い掛けたが、言葉になることはなかった。
フィリアがガルムの首をはね、殺してしまったのだ。
「おいフィリア!何も殺す事な・・」
振り向いたフィリアの顔を見て黙る。
彼女の顔は今にも泣きだしそうなほど落ち込んでいた、こんな表情の彼女は見たことがない。
「もし彼が生きて逃げ出せば、僕が原初の4竜だと奴らにしられてしまう。そうなれば、今以上に犠牲が出てしまうだろう。これは必要な事なのさ」
いつもより暗い声でそういうと、馬車へ戻るフィリア。
その後を追いかけながら意を決して尋ねる。
「なぁフィリア、教えてくれ。原初の4竜って何だ?そろそろ本当の正体を教えてくれてもいいんじゃないか?」
返事はない、荷台に座り、俯いたまま目を閉じている。
いつもなら諦めるが、今回は事情が事情だ。簡単には引き下がれない。
「何か話したくない事情があるのはわかる、でも一人で抱え込むのはやめてくれ。俺だって何か力になれるかもしれないだろう。頼むフィリア、教えてくれ」
頭を下げ、返事を待つ。
しばらくたっただろうが、彼女が横目でこちらを見ているのがわかった。
「それは僕の守護者としてかい?」
こちらを見つめ、つぶやくように訪ねる彼女。
「そうだ、俺はお前の守護者だ。でもそれ以前に、俺は男だ。女の子があんな悲しそうな顔してるのを見せられて、黙ってられるかよ!」
胸を張り答える。おもわず語尾が荒くなってしまった。
そんな俺を、おどろいた様子で見つめるフィリア。
「女の子・・・ね」
口元を抑え、クスクスと笑うフィリア。
俺は勢いとはいえ、自分の言ったことが恥ずかしくなってしまった。
「こう見えても、君よりずっと年上なんだけどね。仕方ない、その熱意に免じて、僕の正体を教えてあげよう。とりあえず、近くの町のギルドに向かってもらえるかな?その道中で教えてあげようじゃないか」
そんなことを言う彼女は、いつも通りの明るい顔に戻っていた。




