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赤いクリスタル

赤いゴーレムが目撃された洞窟は、アルクの家から、そんなに離れていない場所にあった。


「ここがゴーレムの住処か」


中をのぞくと、どういう原理だろうか、天井や壁が淡く光っていた。


「ここの洞窟は蛍石を多く含んでいるのさ、色んなアイテムの原料になるから、彼女も近くに住んで

いるんだろう」


そんなことも知らないのか?と言いたげな、そんな表情で笑うフィリア。


「そんなことより注意してくれよ、中から僕と同族の気配がする」


洞窟に向き直ると、怪訝そうな顔で中を見つめるフィリア。

同族とはどういうことだ?確か自称とはいえ彼女は竜だと名乗っていた。


「まさか竜が住んでいるっていうのか?」


慌てて彼女に尋ねる。

ゴーレム退治と思いきや、竜退治になってしまってはたまらない。


「安心したまえ。微弱すぎて、何処にいるのかわからない、その程度の相手さ」


そうはいっても怖いものは怖いのだが・・・


「とりあえず中に入ってみようか。早く終わらせないと、洞窟の中でゴーレムと夜を過ごすなんて、僕はまっぴらごめんだからね」


悩んでいても仕方がない。とりあえず俺たちは、洞窟の中へと進むことにした。


洞窟の内部も、天井や床が光を発している。これなら松明も必要なさそうだ。

しばらく進むと、少し開けた空間があり、ゴーレムが数体いた。

大きさは俺と同じかそれより少し大きいくらい。

壁に体をくっつけ、何やらごそごそと動いている。


「なぁフィリア、あいつらなにしてんだ?」


ゴーレムたちは、全くこちらに気づく気配がない。


「あれは食事をしているな、蛍石は、ゴーレムたちの大好物でもあるのさ。だからこの洞窟は、ゴーレムの住処と言われているんだろう」


フィリアがゴーレムを観察しながら答える。

そう言われてよく見てみると、壁につけている部分には口があるようだ。もそもそと動いている。


「まぁ彼らは邪魔をしたり、鉱石を採ろうとしない限り襲ってくることもない。さっさと奥に行こうか。赤いゴーレムが目撃されたのは、最深部ということらしいからね」


ゴーレムのことなど気にせず、さっさと奥に進んでいくフィリア。


「急に襲ってこないだろうな・・・」


ゴーレムを初めて見る俺は、一応警戒しながら、彼女の後をついていった。


10分ほど奥へ進んできただろうか、何度か先ほどのような小広間を通り過ぎたあと、かなり広い空間がある場所へたどり着いた。

地面のあちこちから、結晶のようなものが生え、洞窟の中とは思えないほど明るかった。

広場の奥に、何かが山積みになっているのが見えた。


「これって・・・以前依頼を受けた冒険者たちの装備か?」


近づいて確認すると、山積みになっているのは血まみれの服やポーチ、それと折れた剣などの武器だった。

中を漁ると、冒険者の証である等級証が出てきた。

以前依頼を受け、戻ってこなかった冒険者たちの物だろう。


「やっぱりみんなやられちゃったのか。等級証だけでも、持ちかえってやろうぜ」


等級証をポーチにしまう。

フィリアのほうを見ると、あごに手を添え考え込んでいる。


「何か気になることでもあるのか?赤いゴーレムもいないし、とりあえず今日は帰って、明日また来ないか?」


立ち上がったその時。


「上だ!よけろ!」


フィリアが叫ぶ、慌てて彼女のほうへ飛ぶ。

その直後、俺が立っていた場所に、赤いクリスタルが降ってきた。

地面にめりこみ、洞窟全体が揺れているような衝撃が走る。

落ちてきたクリスタルが震え、手足を出して立ち上がる。

その体は、洞窟の光を反射して赤く光っていた。

こいつが例のクリスタルゴーレムのようだ。

途中で見かけたゴーレムとは、比べものにならないほど多きい。2倍どころか、4倍以上ありそうだ。

赤いゴーレムを見て何かを把握したのか、彼女がゴーレムを指さす。


「死んだ彼らの装備はここにあるのに、どうして死体がないのか疑問だったんだ。ゴーレムは人を殺すことはあっても、その肉を食べたりはしない。だがどういうわけか、おそらくこいつが死体を食べてしまったんだろう」


ゴーレムの口の周りは、血の跡だろうか、赤黒く変色している。

開いた口の中には、鋭い牙が並んでいる。


「そして、僕が感じていた同族の気配の正体は、こいつのようだね。姿が見えて確信したよ。このゴーレムは、微弱だけど竜の力を持っているぞ」


フィリアが話し終わると同時に、ゴーレムが体を丸め、とてつもない速さでこちらに飛んできた。

別々の方向にかわす。ゴーレムが突っ込んだ壁は、体と同じ大きさにおおきくへこんでいた。

あんなのを食らえば、人間などひとたまりもないだろう。

どうしてそんな力を持っているのか、考えている時間はない。

俺はこぶしを構え、ゴーレムに向き合う。


「悪いが時間がないんだ!さっさと終わらせてもらうぞ!」


渾身の力をこめ、ゴーレムの体を殴る。

だが、ゴーレムの体には傷一つついていない。殴った俺のこぶしのほうが痛いぐらいだ。

丸太のような腕が、こちらに向かって振り下ろされる。

足が地面にめり込みつつも、何とか両手で受け止める。

フィリアと言えば、なんと入り口付近の岩に座り、のんきにこちらを眺めている。

手伝うつもりは全くないようだ。


「さてと、そろそろ彼には、新しい力を使えるようになってもらわないとね」


必死に耐える俺を見ながら、彼女はニヤリと笑うのであった。

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