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幼女な頭は平和に暮らしたい。  作者: 消しゴムカバー
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3話

商人の積み荷は食料だった。大方、近くの農村から帝都に食料を運ぶことを生業にした、商人だったのだろう。


護衛が二人しかいなく、商隊員もいなかったころから分かっていたことではあったが、稼ぎがいいというわけではないらしい。


積み荷の量も決して多くはなく、精々俺たち全員を数日養える程度だ。積み荷を引いていた馬の質も悪い。金も大部分は仕入れに使ったのだろう、金貨2枚と銀貨1枚しかなかった。


この金貨、銀貨は今俺たちの暮らしている帝国内はもちろん、イテゥム諸島のどこでも使える貨幣だ。かつて旧帝国がイテゥム統一を成し遂げたときに作られたものらしい。


旧帝国のイテゥム統一からすでに100年以上。細々と使われていた他の貨幣はほとんどが淘汰されてしまった。


金貨と銀貨、そしてここにはない王札と銅貨の4種類で帝国の貨幣システムは成り立っている。


銅貨10枚が銀貨1枚、銀貨10枚が金貨1枚、金貨1000枚が王札1枚という仕組みだ。


物価は場所により異なるが、帝都でならばパン1切れで銀貨1枚くらいだろう。農村などではもっと安いはずだ。


俺らの暮らしているイテゥム諸島は合計5つの島からなる列島だ。最も大きな島が、今俺達の住んでいるこのオプト島だ。面積は他の4つの島を合計したものより大きく、帝国の統計によると、推定人口も同様らしい。


他の4つの島はそれぞれ、デュア島、トレス島、クァトル島、クィン島、と名付けられている。征服時に初代皇帝が古代帝国語の数字の2、3,4,5にちなんで命名したそうだ。


旧帝国が分裂し、今の姿になった後、この4つの島は対帝国諸島連合という同盟を組み、戦争への不参加と不干渉を唱え、事実上の鎖国をした。


それからすでに30年ほど経っているが、いまだにその同盟が続いており、今その4つの島で何が起きているのかを帝国側はほとんど知らない。


帝国は30年前に第一王子と第二王子の王位継承戦のごたごたで二つに分かれた。


第一王子は帝都の貴族達に、第二王子は地方の貴族や豪農たちの支持を得ていたらしく、土地もその支持基盤に対応した形で分割された。


第一王子の収めていた第一帝国は帝都を首都としており、街などは多いものの、農村などは少ない。ただし分裂の際に将校や兵士の多くが第一王子についたため、軍事力はこちらのほうが高い。


ただし、人口はそれなりにいるのに土地は狭いため、食料が圧倒的に不足している。食料の多くは第二帝国の商人が横流しするものに頼っており、餓死者も出ている。経済の不況や、食料不足、戦争などから以前は強かった市民の政権に対する支持も下火になっている。


それに対して第二王子の収める第二帝国は軍事力では劣り、発展した町などは少ないが、農耕を行える土地は多く、それを稼業とするものも多いため、食料は余るほどあるらしい。


そのため、税も安く、理不尽な目にあわされるものも少ないため、俺らのように盗賊に落ちる者も少なく、政治は安定しているらしい。


分裂してから、数十年間は皇帝が兄弟ということ、そしてお互いの政治基盤が安定しきっておらず、自国のことで手一杯であったため、小競り合いこそあれ、大規模な戦いは起こっていなかった。


しかし数年前に食料不足、法外な税、軍人の仕事不足など様々な問題に対応しきれずにいた第一王子がとある将校に殺害され、第一帝国は事実上の軍事国家となった。


皇帝として祭り上げられている、先代皇帝の息子はいるにはいるが、まだ13歳と年若く、とても実権を握っているようには思えない。


先代皇帝の暗殺後、第一帝国は第二帝国にすぐさま宣戦布告をし、兵を公募し始めた。


しかし、多くの貧民を抱え、食料不足に悩まされ、余裕のない第一帝国はどうしても劣勢に立たされ、戦争開始から1年と数か月後、徴兵を開始した。


俺の父も徴兵され、二度と帰ってこなかった。父がいなくなった後も母が頑張って家を支えてくれはしたが、ついに耐えきてなくなり、家を売って夜逃げした。


残ったのは当時7歳の女児の俺だけだった。


奴隷や娼婦として売られなかっただけましと思うべきなのかもしれないが、それ以降の俺の暮らしはとても苦しかった。


俺が生き残れたのは奇跡的に魔術に目覚めたのと、エルトや、他にも多く人たちに助けてもらえたからだ。


後に聞いた噂なのだが、実は第二帝国は諸島連合と裏でつながっていたらしく、食料などと交換に剣や弓矢、鉄や人員などの資源の支援を受けていたらしい。


敗色濃厚なこの戦争はいまだに続いてはいるが、前線はどんどん下がっているらしく、もう1年もせずに終わると帝都では噂されている。


裕福だったり旧帝国で一定以上の地位を持っていたものの多くすでには第二帝国の方に亡命したりしているらしい。


そういう俺達も、混乱に乗じて第二帝国に逃げ込み、盗賊稼業で稼いだ金でいい暮らしをしようと目論む、そのような者の一部だ。


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