2話
帝都の近くの街道というだけあり、ここサヌグ道の整備がきちんとされている。道路には石が敷き詰められ、横の林の木はある程度切り倒されている。
俺とエルトは街道と一定の距離の茂みの中に二人で隠れていた。エルトの体が大きいため、俺の空間は少し窮屈だ。
エルトとは俺がまだ帝都の貧民街にいたころに知り合った。それ以降お互いに助け合い、今の今まで食いつないできた。
仕事を干され、貧民街に落ちる前まではC級の冒険者だったエルトは昔に比べ筋肉が落ちはしたが、他の部下たちに比べがっしりとした体つきをしている。
前の仕事をしていた時の勘も失っておらず、うちの団の魔法抜きの戦闘能力は彼がずば抜けて一番だ。
防具は売り払ってしまったので無いが、武器はきちんと自分自身の物を所持しており、頼もしい。
「そろそろだな、足音が聞こえてきた」
小声でエルトが囁きかけてきた。
「俺が3から数える、同時に飛び出そう。お互い護衛を一人落とす計算だ。」
「ああ、それでいい。」
最低限の会話を終え、俺たちは無言で敵を待ち伏せる。
少しの間待っていると、男2人と女1人の話声が聞こえてきた。
男の片方の声は落ち着いたもので年功が感じられるものだった。30代くらいだろうか?少なくとも若くはないという印象の声だった。おそらくこいつが商人だろう。
もう片方の男と女はお互い興奮して商人と思しき人物と話をしていた。おそらくこいつらが護衛の傭兵だろう。20代の前半くらいだろうか?
きっと楽しい話をしているのだろう。内容は聞こえないが3人が笑いあっているのは聞こえてくる。
気楽なものだと眺めていると、部下達が動き始めた。
「と、盗賊だ。僕が切り込む、ベルは援護とバルトルトさんの護衛を頼む」
「わ、分かった」
突然笑い声が止み、彼らの声にある種の緊張感が走り始める。
そろそろだろうか。確認するように横を見るとエルトが頷いてきた。
「3、2、1、0」
0、と俺がつぶやいた瞬間、二人同時に行動をとる。
お互いに肉体強化を自分自身に掛け、常識はずれの速度で走り出す。
物音に反応してか女がこちらに顔を向ける。けれど女が声を出すよりも、魔術を使うよりも、エルトの剣が女の首を撥ねるほうが早い。
ざん、と空気を割く音を残しながらエルトの剣が振り切られる。飛んでいく女の顔にはひたすらに驚異が刻み付けられていた。
男もこちらに気づき振り返り剣を向けようとするが、すでに俺の手は男の腹に宛てられていた。
手を起点に全力で力魔術を使い、男を吹き飛ばす。とてつもなく強い風に仰がれたかのように男が飛んでいく。
何度も転がった先で男は風穴の空いた腹から内臓をばらまき、骨をぼろぼろに折られ死んだ。
一仕事終えた俺たちの前に残るのは阿保の様な顔でこちらを見つめる丸顔の商人だけだった。
「悪いな」
表情を変えずにエルトが呟く。それが商人の聞いた最後の言葉だった。