1話
最近、身の回りの問題があらかた片付き、寝る時間を最低限取れるようになった。
そうして寝るたびに毎回夢を見る。まだ戦争が始まっておらず、父も母も家におり、皆で仲良く暮らしていたころの夢だ。
少し気弱な顔をした父が新聞を読みながら朝食を食べている。対照的に、堂々とした母が急かす俺にやれやれと配膳する。そんな、平和な日々の暮らし。
不思議と、前世の夢は見ない。今世の数倍ほども長く、何10人も多くの人と関わったものでありながら夢には見ないし、記憶もおぼろげだ。
きっとそれは今の記憶が前のもの、平和な日本でぬくぬくと暮らしていたころのものに比べ、圧倒的に濃いからだろう。本能の中に刻まれてしまっているのだ、記憶と経験が。
だとすれば、と自分に問いかける。
思い出さないほうがこれからの、自分のためなのだろうか?
「おい、俺の話を聞いているか?」
エルトが俺に声をかけてきた。現実に引き戻される。
「うん?ごめん、聞いていなかった。もう1回頼む、何の話だ?」
「街道を見張っていたアルノルトからの報告だ。帝都に向かって商隊が向かって来ている。護衛の冒険者は二人で、装備的にD級程度らしい。アジトの横を通るまであと5分くらいだとさ。」
うちの盗賊団は部下達の報告の際に4つのことを徹底させている。
獲物の向かっている方向、護衛の人数、現地点に到着するまでの時間の3つを報告すること。
そして、露見せずに必ず戻ってくること。
「どうする、アルマ?やるか?」
軽い調子で相棒が判断を任せてくる。相棒の信頼が伝わってき、責任感とやる気が湧いてくる。
「もちろん、襲うさ。野郎どもを全員ここに集てくれ。」
申し訳ないが、商隊諸君には俺らの餌になってもらおう。
30秒もせずに俺の前に部下が全員集まった。あいつらもこれまでの仕事で学んだのだ、盗みで一番重要なのは時間だと。
「野郎ども、もう5分ほどで護衛二人を連れた商隊がここを通るらしい。そいつらから今日の晩飯をかっさらう。」
興奮したように部下たちがざわめきだす。殺し、盗むというのは何度目でも興奮するものだ。
「わかっているだろうが、時間がないのでさっさと役割を説明する。」
俺の言葉でざわめきがぴたりと止む。
俺らの盗賊団は8歳の女児の俺と屈強な成人越えの男のエルト、貧相な体つきをした若い男の部下3人の合計5人で構成されている。
部下達は各自の戦闘能力は低く、人数も少ない。だから部下達の仕事はいつも敵を仕留めるというよりも、俺とエルトが突くための隙を作るためのものになる。
「アルとゲルトは前で弓を射れ、ヨアヒムは後ろで剣を持って待機だ。ただしヨアヒムは相手の注意が向くように敢えて見えるように隠れていてくれ。俺とエルトは頃合いを見て横から叩く。」
「「了解です、頭!」」
部下たちがいい返事を返し、自信気に笑った。
「よし、じゃあ配置につけ。今日の晩飯は豪勢だぞ、期待しておけ」
「「ういっす!」」
盗賊稼業を始めて約1年。新たな仕事はかねがね成功を収めていた。