conclusion:それは悪魔の証明ではない
「悪魔の証明ではないという悪魔の証明、か……さあて、わかったかね?」
老人は、不敵な笑みを浮かべたままだ。
大門は少し考えると、ようやく頭を上げる。
「……分かりました。」
「……ほう、D君殺しの犯人、わかったかい?」
「はい。」
大門は高らかに言う。
「これが悪魔の証明ではないという悪魔の証明、終了しました。」
大門は今一度、問題文を提示する。
4階建のマンションの屋上に、
Aくん、Bくん、Cくん、Dくん達が景色を見るため
上がった帰り。
マンションにあるただ一つのエレベーター(5人乗り)に乗った彼らは、順番に降りて行った。
まず、4階で一人目のAくん。
次に、3階で二人目のBくん。
そして2階で三人目のCくんが降り、
最後にエレベーターにはDくんという人物だけが
残った。
しかし、降りた直後にエレベーター内に落とし物をしたことに気づいたCくん。
エレベーターは既に1階に行ってしまったため、再びボタンを押して2階で待つ。
しかし2階に来たエレベーターの中にはDくんが一人血まみれで死んでいた。
さて、Dくんを殺した人物は誰?
老人は笑みを満足げなものに変える。
「では、答えてもらおう。……正解は?」
「ええ、犯人は……Dくんですね。」
大門の答えに、老人はわざとらしく顔をしかめる。
「おいおい、自殺ってことかい? それは何とも」
「いいえ、自殺じゃありません。」
大門は、また老人を見据える。
「犯人は、もう一人のDくんですね。」
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「もう一人の、Dくん……?」
日出美は首をかしげる。
「それは、どういう意味かね?」
「つまり、こういうことです。」
大門は紙を持ち上げると、老人に見せる。
「この問題文で最重要なポイントは、Aくん・Bくん・Cくん・Dくん達というのが総勢何人かまったく言われていないっていうことなんです。」
「……ほう。」
老人は、それだけ言うと話をまた聞こうとする。
「では、順に紐解いていきましょう。まず、この部分ですね。」
大門は指差す所は。
――マンションにあるただ一つのエレベーター(5人乗り)
「まあこのマンションにはエレベーターが一つだけで、そこには5人乗れるってだけの話ですがね。」
「うん、まあそうだな。」
「次は、この部分です。」
――まず、4階で一人目のAくん。
次に、3階で二人目のBくん。
そして2階で三人目のCくんが降り、
最後にエレベーターにはDくんという人物だけが
残った。
「ここについては?」
「ここで、ようやく核心である彼らが総勢何人かという部分に触れています。まず、一人目、二人目、三人目となっていることや、『最後にエレベーターにはDくんという人物だけが』という記述から、Aくん、Bくん、Cくんまでで数えると三人ということが分かります。」
「ふむふむ。」
老人の顔は、なんとも言えない表情になっている。
丁寧に大門が、自分の作った問題の答えを考えてくれて嬉しいという感情。
同時に、そこまで分かっているようだが、答えにたどり着けるかな? という少し意地悪な感情。
この二つがないまぜになっているんじゃないか。
はたから見ていて日出美は、そう感じていた。
「……では、ここからが本題ですね。」
「……うむ。」
「『最後にエレベーターにはDくんという人物だけが残った』――これは先ほどのAくんたちの記述とは違いますね。
そして、その後。」
――しかし、降りた直後にエレベーター内に落とし物をしたことに気づいたCくん。
エレベーターは既に1階に行ってしまったため、再びボタンを押して2階で待つ。
しかし2階に来たエレベーターの中にはDくんが一人血まみれで死んでいた。
「……この、『2階に来たエレベーターの中にはDくんが一人血まみれで死んでいた。』という記述で、ようやく死んだDくんは一人であることがわかりました。つまり、このDくんは複数いるような記述から」
大門は、ようやく答えの部分を言おうとする。
老人は慌てることもなく、淡々と聴き入る。
「Aくん、Bくん、Cくん、Dくん達――彼らはAくん一人、Bくん一人、Cくん一人、そしてDくん達二人による五人組であり、最後に残ったのはDくん達二人。そして2階に来たエレベーターに乗っていたのはDくん一人だった。と推理し、従って犯人は、"消えたもう一人のDくん"と推理します!」
大門は老人に、自分の推理を突きつける。
老人は拍手を贈る。
「見事だ、名探偵の若いお兄さん! 」
「解けましたか。……これで、悪魔の証明終了ですね。」
「ああ、見事だ。」
老人はそういうと、盤面の黒石を崩す。
「……ありません。」
中押し――対局における降参である。
「いや〜、不敗神話が見事に崩れ去ったな! ……そういえば名前を聞いてなかった……お兄さんの名前は?」
「九衛大門、私立探偵です。」
「同じく助手の日出美です!」
負けたもののすっかり上機嫌な老人に、大門は名刺を渡す。
「ほうこれはこれは! 名探偵さんと思ったら、本職の人だったかい! これは釈迦に説法いや、釈迦にくそ坊主のド下手なお経をしちゃったかな?」
「いえいえ、面白い勝負でしたよ。……ただ、わざと負けるよう頼むのは」
「ガハハハ! いやすまない、そんなつもりサラサラなかったんだが、つい若い人をからかいたくなってしまってね! いやいや、私も老害になりつつあるのかもな。」
老人は自分の頭を、ぽんと叩く。
「次はやらないでくださいね? また来ますから。」
「おうおう! 次来るか。リベンジマッチをしたいねえ!」
「あは……お手柔らかに。ん? おい!」
「え?」
席を立つ大門だが、一人でさっさと先に行ってしまう日出美に声をかける。
「だってー! 大門が遅いんだもん。悔しかったらここまでおいでー!」
「やれやれ……すいません、また!」
「あ、ああ……うーん、あのお兄さんは」
老人は、訝る。
「こら、日出美!」
「日出美……?」
大門が声をかける先には、誰もいないからである――
以上、二話お試し投稿でした。
お付き合いいただきありがとうございました!