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巫女さん

キーワード「巫女さん」で書いてみました

本格的な巫女さん物語は、他先生の作品で凄いのが有ります。

 ワシはこの神社に住み着く者。神、と言えば聞こえは良いが、信仰の薄れた現代ではほとんど何の力も有りはしない。

 日がな一日を神社の社から眺める毎日じゃ。文字通り、見守る事くらいしか出来んのだ。


「ふっふふーん♪」


 鼻歌混じりで境内を箒で掃いておるのがこの神社の巫女。設楽彩芽したらあやめじゃ。

 垂髪をしておらず、ただのショートカットに巫女服という出で立ちだが、特に不信心なヤツという訳ではない。

 というか、服装やら形式にやたら拘るのは、我々ではなく人間の方じゃ。特にワシなんて、コヤツの赤み掛かったショートカットは好みですらある。


「今日も御参り誰も来なーい♪ 誰もこんなトコの神様信じなーい♪」


 ――不信心なヤツだったわい。

 参拝に来ないと言っても、ほぼ毎日来るヤツが一人だけおる。若い男じゃ。茶髪でツンツン頭の犬みたいなヤツ。

 その男の目的はもちろん、彩芽に決まっておる。幼馴染とか言うておったが、彩芽は19歳で男は17と言ったか。


「彩芽さーん」


 噂をすれば来おったわ。手を振りながら間抜けな顔で走りおって。ウチの神社の巫女をたぶらかそう等と……


「おー。来たか弥勒ぅ。学校終わったの?」


「ハァ、ハァ。――うん。今日は最後の授業が田中先生だったから」


「なるほどね。田中の爺さん、終了時間間違えるからねー」


 そう言って笑い合う二人を、ワシはボーっと眺めている。

 別にこの弥勒みろくという男に嫉妬している訳ではない。そもそも神のワシがコヤツらに嫉妬する必要等無い。見えもせぬのだからな。


「掃除手伝うよ、彩芽さん」


「ありがとー。悪いねぇ、毎日手伝ってもらっちゃって。給料出せないよー? 私もバイトみたいなモノだしね」


 彩芽の父はこの神社の神主をしておる。神主と言ってもこのご時世、それだけでは食べて行けぬ故、基本的にはサラリーマンをしているようだが。

 それ故にこの神社の管理はほとんど彩芽がしている。という訳じゃ。つまり、彩芽がおらぬとワシの住処の手入れが蔑ろにされる訳なのじゃよ。


「お、お金なんていらないよ。俺が好きでやってるんだし……」


「ほぉ、好きで、ねぇ……」


 からかうように顎に手を当てて迫る彩芽に、弥勒は視線を泳がせ、後退る。


「そ、掃除が好きって意味だよ」


「ふーん。ま、そういう事にしといてあげる。じゃ、ぱぱっと終わしちゃいましょ。寒くなって来たし」


 落ち葉の多いこの季節は人間にとっては寒くなってくるらしいな。ワシにはなんの関係も無いが。


「うん」


「――おー? こうやって見るとさ、大きくなったねぇ、弥勒ぅ」


 彩芽は弥勒の頭に手を当て、自分と比べるように行ったり来たりさせている。

 身長は同じくらいだが、若干彩芽の方が大きい。


「そ、そりゃ俺だって日々成長してるんだから、大きくもなるよ――もう少しで彩芽さんよりも……」


「それは楽しみだねぇ。でもちょっと寂しいかなぁ。あの小さかった弥勒が、ちょこちょこと私の後ろをついて回っていた弥勒が……うぅ」


 下手くそな泣き真似をする彩芽。


「いつの話だよ……」


「んー? 割と最近の話じゃない? 私を追って同じ高校に入るし、休日も結構遊びに誘ってくるじゃない。今日だって――」


「わー! は、早く掃除しようよ。冷えてきたよ」


「……そうね。終わしてお茶にしましょ。ふふふ」


 ――けっ。

 おおっといかんいかん。つい感情をむき出しにしてしまうところであった。

 コヤツら、互いに互いを好いておるのは、分かっておるんだろうに……

 全く、人間というのは面倒臭いのぅ。



「――うぅ。今日は冷えるわねー。ほら弥勒、ココアで良いよね?」


「あ、うん。ありがとう」


 境内のはずれにある詰め所で休憩する二人を眺めるワシ。社からではここは見れんから、抜け出してきておる。

 ――良いんじゃよ。例え参拝客が来ようがどうせ見えておらんのじゃ。


「ふぅ。暖かいねぇ」


 自販機で買った暖かいウーロン茶を飲みながら、彩芽は椅子にだらりと座っている。


「――ねぇ、彩芽さん」


「うん? どうしたかね? 少年」


「俺さ、東京の大学を受けようと思うんだ」


 おー。応援するぞー。さっさと行け行け。


「……へぇ。良いじゃん。何かやりたい事でもあんの?」


「うん。やりたい事って言うかさ、ちょっとした目標っていうか……」


「目標? 弥勒、そんなに意識高いっけ?」


「べ、別に高いとは思わないけど……」


「どんな目標?」


「えと……その……」


 何じゃ、ハッキリせん男じゃのぅ。まー。ワシからすればコヤツがおらんくなれば、彩芽をたぶらかす輩がいなくなって万々歳じゃから、どうでも良いがの。


「何よ、ハッキリしないわねぇ。そんなんじゃ、東京に行っても女の子から相手にされないわよー?」


 イタズラっぽく言う彩芽は、どこか寂しそうに見える。


「い、良いんだよ! 俺は彩芽さん以外の女になんて相手にされなくたって! あ――」


「……」


 顔を赤くして固まる弥勒。同じく顔を赤くして黙る彩芽。


「――え、と、その――だから、俺の目標っていうのはさ」


「……うん」


「ちゃんと稼げる会社に入って、彩芽さんを幸せにする。それが目標なんだよ……」


 赤らめた顔をしっかりと彩芽に向け、震える声で弥勒は言った。


「――ふふ。良いねぇ。男の子だねぇ、弥勒ぅ」


 赤い顔のまま、彩芽は視線を合わせず言った。


「でもさ、弥勒にはもっと良い人がいると思うよー? こんな田舎のさびれた神社の巫女やってる私よりさ」


 さびれたとはなんじゃ、さびれたとは。


「――どんな所で、何をやっていても構わない。俺は彩芽さんが……」


 そこまで言っておいて、どうして急に言えなくなるのじゃ!

 ――いや違う、言わなくて良いのじゃが……あぁもう!


「私が?」


「その……」


 えぇい、まどろっこしい。そい!

 ワシの指から発せられた力が、彩芽の頭上に掛けられていた絵の紐を切る。


「危ない!」


 弥勒が彩芽を抱き寄せ、絵は何もない所に落下した。


「……!」


「あ……」


 もうここまでしてやったんじゃ、言え、言ってしまえ!


「――好きなんだ、彩芽さんの事が。他の誰でもない、今俺の腕の中にいる、設楽彩芽さんの事が――俺は大好きなんだ!」


「――!」


 いーよっしゃー!

 ――ゴホン。まぁ、その、良いではないか。


「私で――良いの?」


「彩芽さんが良いんだ。彩芽さんじゃなきゃ!」


「弥勒が東京に行っている間、こっちで男作るかもしれないよ?」


「そうしたら、俺がもっともっと魅力的になって、彩芽さんを奪うよ」


「おんぼろ神社でボーっとしてるから、ぶくぶく太っちゃうかもしれないよ?」


「彩芽さんだったら、どんな体型でも構わない」


「東京には、良い女の子いっぱいいるよ?」


「言ったでしょ? 俺は彩芽さんが良いんだ」


「――馬鹿だねぇ」


「知ってる」


 狭い詰め所で、若い男女が抱き合う。それを眺めるワシ。

 

「――明日も来る?」


「うん。だから今日はそろそろ帰るよ」


「そうね。暗くなってきたし」


「明日も会えるし――これ以上ドキドキが続いたら俺、死んじゃうかも」


「ふふふ。弥勒もまだまだ青いねー」


「彩芽さんは真っ赤だけどね」


「むぐ……言うようになったわね、お姉さんは嬉しいわ」


「あはは。じゃあ、また明日ね、彩芽さん」


「うん。気を付けて帰りなさいね」


「うん。彩芽さんもね」


 そう言って詰め所を出る弥勒。一人残った彩芽は残ったウーロン茶を飲み干し、溜め息をついた後、ワシの方を向いた。


「……余計なお世話ってんのよ? 神様?」


 ――あれ?もしかしてワシ、見えてる?

個人的に巫女さん大好きです。しかし、それを恋愛要素に上手く絡められずに今回のような変化球で書いてしまいました。

まだまだ勉強不足という事ですね。何だか燃えてきました。

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