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おロリが起こしたサスペンス

今回は、あっきコタロウ様著『そしてふたりでワルツを』https://ncode.syosetu.com/n9614dm/ とのコラボの作品です。なんと、カミィ様が止まり木旅館にお越しになりました!

楓さんとの掛け合いにご注目ください★





 時の狭間――あらゆる世界から隔絶された異次元の空間。

 そこに一軒の和風旅館が存在していました。


『止まり木旅館』


 ここからお話するのは、世にも不思議なお宿で起こった、ありふれた日常の一コマです。




 ◇ ◇ ◇




「ようこそいらっしゃいました!」


 私は止まり木旅館の女将で、楓と申します。今日も自慢の桃色の髪を後頭部で結い上げ、藤色の着物をきっちり着こなして、お客様をお出迎えしますよ!


「ほわぁ」


 これが本日の御客様、カミィ・セシル様の第一声。

 まずは、この可愛らしい美少女、カミィ様のプロフィールを超大雑把に脳内でおさらいしておきましょうか。


 カミィ様は、とある世界にあるオフィーリアという国からお越しになった。そして、なななーんとお貴族様なのだ。といっても、以前当旅館にお越しになったご令嬢のように高飛車でボンキュボンッな方ではない。そうですね、カテゴライズさせていただくなら、ザ・おロリとなる。


 その可愛らしすぎる外見で特筆すべきなのは、やはりストロベリーブロンドの御髪と透き通るような桃色の瞳。さぁ、もうお分かりかな? 私と同じピンク系ってことなのよ!! もう、これだけで私、愛でられる自信があるわ。いつでも私の妹になってくれて良いのよ? なぁんてことを言うと、ある人から怒られるかもしれないけど。


 そう、実はカミィ様、既婚なのです。こんな若い……まだティーンなのに、立派すぎる旦那様がいらっしゃるなんて許すまじ! と以前の私であれば内心黒々とした感情を渦巻かせて収集がつかなくなっていたかもしれないけど、今は大丈夫。私にもちゃんと旦那様がいますからね。


 あら、いけない。あまりにも可愛らしいからって、うっかりぎゅっぎゅっと抱きしめすぎてしまいました。お客様を窒息させそうになるなんて、女将にあるまじき失態。ごめんあそばせ!


 やっと私から解放されたカミィ様は、まず辺りを見渡した。


「ここどこ?」

「カミィ様、こちらは止まり木旅館というお宿にございます。カミィ様は、ご旅行されたことなどはございますか?」

「えっとね、ジュンイチくんがね……」


 あ、これはたぶん惚気だわ。絶対話し始めたら長くなる奴だ! しかも、このまったりとした口調。私、どちらかと言えばせっかちなタイプなので、最後まで聞くことはできないと思われる。というわけで、早速お部屋にご案内してさしあげましょう。


 まずは、ツヤツヤ光るエナメルの靴を脱いでいただいて、子ども用のスリッパを足元に置かせていただく。カミィ様は頭上にたくさんのハテナを浮かべていらっしゃいましたので、私が大人用スリッパを履いて手本を見せると、同じように履いてくださった。ふぅ、これで第一関門突破。


 その後は、お部屋までの道すがら、旅館についてのご説明を始めた。


「えーっと、カミィ様? お宿というのは、ご自宅から遠く離れたところへ行った際などに、眠ったり、美味しいご飯を食べてのんびりするための、仮のお家のようなものですよ。中でもこの旅館は少し変わっておりますので、様々なお客様がいらっしゃるのです」


 カミィ様は突然立ち止まると、しばらく天井を見上げて首を傾げた。


「どうぶつのお宿?」


 あぁ、様々なお客様というと、彼女にとっては物語の世界のイメージなのかもしれない。動物や妖精が出てくるようなファンタジックでキラキラの世界。でも実際は、変人の巣窟となりかけている……いや、皆までは言うまい。


「動物とは限らないのですが、そうです!」


 ひとまず、笑顔で返事しておいた。するとカミィ様から再びの「ほわぁ」が! そのついつい和んでしまう反応にニヤニヤしていると、あっという間にお部屋に到着だ。


 今回も、お部屋は粋くんが用意してくれた。カミィ様は童話から飛び出してきたみたいなお姫様チックな方なので、お部屋も完全に姫仕様となっている。絵柄やストーリーがほんわかしている絵本や、ぬいぐるみ、そして礼くんが事前にオフィーリアに行って仕入れてきたノビノビチップスも置いてあるのだけれど、これだけあれば満足してくださるはず!


 と思っていた頃もありました。


 カミィ様は、初めこそは物珍しさからか、いろんなぬいぐるみを抱きしめてその感触を味わったり、絵本をペラペラと捲って過ごされていたけれど、すぐに上の空になってしまうのだ。


 どうしよう。


 カミィ様は可愛い。

 カミィ様は天使。

 カミィ様はみんなのアイドル。

 カミィ様は私の妹。……いや、これはちがうか。


 だけど、カミィ様って根本的に……ほわぁ、なんだよね。これは決して貶しているのではありません。褒めてるんですよ? って、なぜ必死なんだろう、私。


 というのは、カミィ様とは会話ができるものの、なんとなく年相応な感じがしないのだ。実際のお年よりも幼い雰囲気なのは、外見だけではない。だからと言って、幼児のように扱うこともできない。これでも既婚女性。つまり、レディなのですからね!


 となると、お帰りいただく糸口もなかなか掴めないのであって。万が一お帰りになれないとなれば、旅館の従業員になるか、あのけしからん神様の下で天女になるしか道はないのだけれど、どちらもカミィ様に務まるとは思えない。うーん、詰んだ。


 途中で様子を見に来た粋くんも、カミィ様の様子に肩を落として書庫へ走っていってしまった。おそらく書庫にいったところで、すぐにはカミィ様がよろこぶようなものを見つけられるとは思えないんだけどね。


 私が頭を悩ませていると、庭先から忍くんが顔を出してきた。植え込みの影から急に出てくるとか、心臓に悪すぎる。


「女将、間もなく次の御客様がお越しになる予定では?」


 そうです。本日は久しぶりに二名様同時にお迎えすることになっていたのだ。以前もこんなことはあったけれど、正直言って今回の方が手ごわいお相手かと。


「そうね。もう少しカミィ様のご様子を見守ってから、玄関先へお迎えに行くわ」


 忍くんは浅く頷くと、さっと姿を消した。直後に煙幕などは残らないものの、もはや忍者のよう。あ、そういえば元・忍者でしたね。あはは。


 いえいえ、笑っている場合ではない。カミィ様の好きなものは分かっているけれど、旅館で用意することができないのだ。だって、それは……彼女の旦那様『ジュンイチくん』だから。礼くんも、物は異世界から仕入れることができても、人を荷物のように連れてくることはできないのよね。あーもう、気が利かない設定だわ!


 そうこうしているうちに、ふと突然、旅館内の空気が変わったのを感じた。長年女将業を営んでいる私には、すぐに何が起こったのかが分かってしまう。


「ヤバい。次の御客様が来ちゃった?!」


 すぐに近づいてくる軽やかな足音。ん? おかしいな。次の御客様には足なんて生えていないはず。と思っていたら……


「桜ちゃん!」

「オバサン、こんにちは! さっき門の前でこんなの拾ったのだけど。もしかして止まり木旅館って、スイーツブッフェとか始めたの?」


 現れたのは、宿り木ホテルの仕入れ係、桜ちゃん。最近、礼くんと仲良しの美少女だ。でも、二人は付き合っているとか、そんなのじゃないみたい。ま、ちょっと歳の差がありすぎだよね。うんうん。……と、頷いている場合じゃない!


 あろうことか、桜ちゃんが、そのプワプワぷるるんっと揺れるプリンを両手に載せて、今にも齧りつこうとしていたのだ。


「ちょ、ちょっと待って! そのプリン、お客様だから!」


 これでも一応ホテル従業員の桜ちゃん。お客様というワードに敏感に反応すると、大きく開いていたお口を閉じてくれた。

 慌てた私は、すぐさまプリンに向かって頭を下げる。


「ようこそおいでくださいました!」


 プリンは無言。当たり前か。

 一方、桜ちゃんはすぐに状況が飲み込めないようで、目をパチクリさせている。


「お客様?」

「そう、その手の上にあるのは……じゃなかった、いらっしゃるのは本日の御客様なの」

「どう見てもただのプリンなのに?」

「そう。いたって普通のプリンだけど、当旅館の大切なお客様なの」


 力説しながら悲しくなってきた。

 これまで止まり木旅館は様々なお客様をお迎えしてきた。修学旅行生の団体様やケモミミに始まり、俺様勇者、どこぞの女神など、本当にバラエティに富んでいる。そういえば、最終的に抹茶白玉小豆パフェに取り憑いた死霊の御客様もいたっけ。でも、初めは食べ物ではなくて死霊だったから、ちゃんと会話が成り立っていたのよね。


 そして、今回はついにプリン。プリンですよ?! お口がないので、何もおっしゃらないんですよ。しかも生モノ。冷蔵庫に保管しておいてもすぐに寿命をお迎えするだろう。うっかり冷凍庫なんかに入れようものなら、プリンじゃなくなっちゃうばかりか、冷気に閉ざされた密室にお客様を永遠に幽閉するということに?! ダメ。私、この歳でそんな業を背負うことはできないわっ!


 とりあえず、このプリン様を早く涼しいお部屋へお連れしないと。と、必死になったその時、背後から強い視線を感じた。


「カミィ様?」


 カミィ様、ごめんなさい。予想よりもお早いお着きのプリン様に気をとられてしまい、うっかり放置してしまいました。それにしても、カミィ様のご様子がおかしい。悪い感じはしないのだけれど、なぜか身体がゾクゾクする。


「プリンだぁ」


 その通りです。プリンです。

 カミィ様の瞳はプリンに釘付け。私も含め、彼女とプリン以外の全てが風景と化した瞬間だ。カミィ様とプリンだけの世界。何かが一人と一品を結び付けていると感じた瞬間、カミィ様はプリンに対して相槌を打ち始めたのだ。


「うんうん。うん。へぇ〜」

「カミィ様? もしかして、プリン様とお話できるのですか?」

「うん」


 んな馬鹿な?! という表情は、いつの間にか集まってきた他の止まり木従業員の顔にも張り付いている。だって、プリンだよ? あのプルプル揺れる感じは、どう見てもAIが搭載された特殊ロボットで、カミィ様に何らかの信号を送っているとか、そうのには見えないんだよ?


 そんな戸惑う私を無視して、カミィ様とプリン様の会話は続いていく。


「うんうん。そっかぁ」

「あの、カミィ様。プリン様はなんとおっしゃっているのですか?」

「あのね、お洋服が着たいんだって」


 お洋服……あ、わかった。プリン様にデコレーションするってことね!

 私は、カミィ様とプリン様を急いで別の客室へ連れていった。ここはヒンヤリとした空調がかかっていて、プリン様の寿命も幾分伸ばせるかと思われる。さらに、ここには冷蔵庫もあるのだ!

 私はカミィ様に、つんっと角が立ったホイップクリームのお皿を差し出した。カミィ様は早速スプーンを使ってクリームをトッピングしようとするのだけれど、どうしてこうなっちゃうんだろ。プリンじゃなくて、自分のお鼻の上にトッピングしちゃったよ! これ以上自分の可愛いさ度のMAX値を上げてどうするんだ。とにかくこのままでは食材がもったいなさすぎるので、私はそれとなくカミィ様からスプーンを取り上げた。


「ほわぁ?」


 びっくりさせてごめんね。ここからは楓お姉さんがカミィ様のアシスタントとして働きます! それをすぐに察してくれたのか、カミィ様は私に次々と指示を出していく。


「あのね、さいしょはね、ホイップでうさちゃんをつくるでしょ」


 はいはい、乗せましょう。かしこまりました。


「ここはね、甘いのかけたいんだって」


 カラメルソースのことですね。ほら、ツヤツヤになりましたよ。


「カミィ様、ミントの葉も彩りとして乗せましょうか?」

「んーん。それは好きじゃないから」


 それって、プリン様のお好み?


「あとね、チェリーも乗せたいって」


 カミィ様、さりげなくミント嫌いを誤魔化しましたね? でも私はお客様を追求したりは致しませんよ。ご安心を!


「かしこまりました」


 その後は、カットフルーツでプリン様の周りにも彩りをつけてみた。なんかもうね、超豪華プリンになっちゃってます。これ以上何を盛ったら良いのか分からないぐらいのてんこ盛りだ。よーし、こうなったらとことんやってやる!

 そうだ。黒ゴマとかチョコペンを使って、キャラ弁ならぬキャラプリンなんてどうだろう? それはさすがにやりすぎかなぁ。


 と、ついついカミィ様に感化されてしまった私が、いろんな妄想を繰り広げていたのが失敗だった。カミィ様の瞳には、ずばりハートマークを浮かんでいる。女の子ですもの。それも美少女ですもの。可愛らしいものには目がありませんよね? でもそのハートマークにはプリンをただ愛でているだけでなく、捕食者としての愛が込められていたのだ。


「わぁ。おいしそう」


 そう呟いたカミィ様が次にとった行動は――。


「あっ!!」


 なんと、お客様(カミィ様)お客様(プリン様)をお召し上がりになってしまったのだ。


 今や、プリン様はカミィ様のお腹の中。つまり、これは殺人ならぬ殺プリン事件! どうしよう。警察に届け出る? ううん、時の狭間にはそんな便利組織はないから、ここはオフィーリアのポリシアに連絡を? って、美味しそうなプリンを食べたことにどんな罪なんてあるかしら? それより、止まり木旅館初の御客様死亡だよ。これが落ち着いていられるかっての!


「楓さん、気をしっかりもって。ほら、カミィ様の後ろに」


 私が桜ちゃんに揺さぶられて正気を戻してみると、カミィ様の後ろには貴族の御邸の扉みたいなのがぷぁーんと浮かんでいた。これを見たら、脊髄反射的に私がやることは決まっている。


「この度はご利用ありがとうございました。もう二度とお会いすることがありませんよう、従業員一同お祈りしております」


 しっかりと頭を下げてから再び顔を上げると、もうカミィ様の姿は扉の向こうに消えた後だった。


「……なんだか疲れたわ」


 これは、無事にお客様を捌けたと言って良いのだろうか。あまりの衝撃的な事になかなか立ち直れない私は、そのまま客室を出ると女将部屋に戻って座り込んでしまった。


「楓、何かあったようだな」


 そこへやって来たのが密さん。


「あれ、今日も天女業はサボりですか?」

「失礼な女将だな。妾はこれでも仕事ができる女なのだ。今日のノルマは朝のうちに済ませておる」


 天女って、実は事務仕事がほとんどらしいんですよね。うちみたいな接客業は二十四時間営業だから、さっさと片付ける~みたいなことができないので、ちょっぴり羨ましかったり。


「ねぇ、密さん。今日はお客様がこの旅館でお亡くなりになってね」

「それは、プリンか? 美少女か?」


 どうやら密さん、うちの客のことには詳しいのだ。なぜ知っている……解せん!


「プリン様の方です」


 私は事の顛末を話した。密さんは静かに頷きながら聞いてくれる。


「楓、そう気に病むではない。プリンは大往生だった」

「そうなのですか?」

「プリンは、人に食べられるために生まれてきたのだ。それも美少女の腹におさまったともなれば、プリンんも本望だっただろうよ。もしかするとプリンは、美味しく食べてくれる人を求めて、この時の狭間にやってきたのかもしれぬぞ?」


 ちょっとポジティブすぎる解釈かもしれない。けれど、密さんの言葉は少なからぬ救いを私にくれた。


「そうだといいな、と思います」

「そんなに暗い顔をしていると、『旅館木っ端みじん』に出張中の翔が帰ってきた時に心配されてしまうな。よし、妾が一肌脱いでやろう」


 そう言うと、密さんはいつもの鈴を懐から出してきた。そこから始まったのは舞。いつも通り華やかなのだけれど、何かの祈りが込められているような、丁寧なものだった。プリン様を悼んでいる私の気持ちも少しずつ穏やかになっていく。


「密さん、弔いの舞をありがとうございました」


 ふと視線を移すと、女将部屋の襖が少しだけ開いていた。その隙間から見えたのは、粋くん、忍くん、桜ちゃん。みんな心配して、私の様子を見に来てくれたのかしら? お礼を言おうとしたその時、桜ちゃんがツカツカと部屋の中に入って来た。


「オバサン、プリンちょうだい? おなかすいちゃった」

「は?! 何不謹慎なこと言ってるの!?」


 私、決めた。

 止まり木旅館では、今後二度とプリンは作りません!


 こうして、抹茶白玉小豆パフェに次ぐ禁じられたお料理が、さらに一品増えたのでした。











《以下、密の独り言》

おそらく皆、勘違いしていると思うので先に断っておく。

妾がプリンごときのために、大人しく弔いの舞などするわけがないではないか。楓はすっかり騙されているようだがな。

では、何の舞だったかというと、導きの神が止まり木旅館に訪れた際、楓に「プリン食べたい」と言ってヒンシュクを買い、さらにパパ嫌いが加速しますようにという呪い……ではなかった、楽しいおちゃめなイタズラをしたのだ。これでまた、止まり木旅館は楽しくなるだろう。




このコラボ作品は、あっきコタロウ様も同じ内容で『そしてふたりでワルツを』サイドの物語を書いてくださっています。ぜひあわせてお読みください。

下記ページの中にある『お宿は楽しいな事件』というお話です!

https://ncode.syosetu.com/n3302dy/




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