空賊エッグ一家
太陽のサンサンとした強い日差しと、ユラユラとカモメが気持ち良さそうに飛び交う大空。
それらを裂くようにして、ニヤけた大きなドクロを船首にあしらった真黄色の超大型飛空艇が一隻、大きな唸りをあげて航行していた。
「あーあー。野郎共ぉ、聞こえるかぁ?」
その物々しい飛空艇の艦橋。逆立つ長い銀髪を後ろで纏め、両目は赤い超精密義眼。全身黄色のアーマーに身を包む大男が、艦内マイクに向かって吠えていた。
「ようやく次のお宝の目処がついたぁ! 目的地はかの有名リゾート地、コモナ・ジュール島だ! 我らがビーネンシュトック号はそこを目指す! 到着と同時に占領だ強奪だと行きたいところだが、誰しも一度は行ってみたいと憧れる常夏の島だ、まずはパーっと派手に楽しむぞお!」
彼はこの船の持ち主にして空賊エッグ一家の頭領、スクランブルだ。
「おー! スクランブルさま最高ですぅ!」
「エッグ一家ばんざぁい!」
可愛い声でスクランブルに返事を返す桃色のウサギに似たヘンテコなロボット達は、各々あたふたと覚束無い手つきで連携を取りながら仕事をしていた。
そこへ黒髪をこれまたヘンテコなツインテールに結い、胸にエッグ一家のドクロマークが付いた橙色のワンピース。その上から白衣を羽織った少女が突風の如くやって来た。
「お兄様っ!」
「おぉ、我が愛しき妹タルトよ! そんなに慌ててどうしたんだ?」
スクランブルの実妹であるタルトは、抜き手の如き早さで兄の眼前に電卓を突き出した。
「今月の貯蓄がもう底を着きそうですの! このままだと数日と持つか分かりませんわ!」
一瞬困った顔になったスクランブルだったが、一つゴホンと咳払いをするとタルトの肩を諭すように軽く叩いた。
「落ち着けタルト。次のヤマはでかいし、何とかなる。心配すんな!」
白い歯をニカっと見せて自信満々に親指を立てるスクランブル。貯蓄が底を着きそうだというのに軽い調子の兄へ、タルトは何の期待も映っていないジトっとした視線を送った。
「そんなこと言ってお兄様、前回もその前も、そのその前も失敗したじゃないですの」
タルトの指摘にスクランブルはギクリと肩を跳ね上げた。
「ぜ、前回までは俺とイースターだけだったが、今回は一家全員! お前もテサッキー達もいるんだ、上手くいくさ! あー、イースターの奴はまだ修理中だったか!」
「そうだと良いのですけど。こんなことなら兵器開発に専念するんじゃありませんでしたわ」
「まぁそう言うなって」
タルトが深いため息混じりに近くのシートへ腰を掛けようとした時、艦内に甲高いブザーの音が鳴り響いた。その場にいる全員が艦橋のある天井に設置された中央の大きなスピーカーに目を向ける。
「おいおい、何事だぁ! また52号辺りがカレーでもひっくり返したのか?」
「お兄様、テサッキーは50号までしか作っていませんわ」
タルトが心底呆れていると、艦橋にいるインカムを着けたテサッキーの一人が艦内マイクで慌ただしく状況を告ぐ。
「スクランブルさまぁ、タルトさまぁ! 十時の方向に飛行船を捕捉しましたぁ! おそらく民間機だと思われますぅ!」
スクランブルは腰帯から望遠レンズを取りだし、前方一面が望める巨大な窓から空を覗く。
「ツイてるなぁ! おいタルト、ビーネを5機、出撃準備だ!」
「了解ですわ、少しでも生活の足しになるのなら」
タルトは返事をしながら素早く通信用のレシーバーを取り出した。小さな画面の中で忙しなくちょこちょこと動くテサッキー達に向かって命令を飛ばす。
「あなた達、出撃準備よ! ビーネを5機出すわ! 私が格納庫に着き次第出撃するわよ!」
「らじゃあ!」
画面越しのテサッキー達がお菓子やマンガを撒き散らしながら慌てて持ち場に向かうのを確認し、タルトはスクランブルに向き直る。
「お兄様っ、行ってまいりますわ!」
「お前も出るのか? テサッキーだけで良いだろうに。まあ、出るなら無理はすんじゃねぇぞ!」
タルトはニコッと笑い白衣をシートに脱ぎ捨てて、足早に格納庫へ向かっていった。
再び大空を望遠レンズを回して覗き見るスクランブル。
「さて、あんな小っこい船じゃあ応戦してくるとは思えないが……。野郎共ぉバカンスの前に一仕事だぁ! 目標は前方の青い民間船だ、全力でタルト達をサポートしろぉ!」
「了解ですぅ!」
「了解しましたぁ!」
スクランブルの赤い義眼の先には雲がまばらに浮かぶ空、そこに映える水色の小さな飛行船が空を駆けていた。