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っていう話が読みたい。  作者: ひのえ
無題
6/7

5「死んでからストーリー」

私には、父と母と呼ばれる存在がいた。

でも彼らの名前は思い出せないし、顔も暈しが掛かったように曖昧にしか覚えていない。

記憶は全て、写真でも見ているかのような、部分的な光景しか浮かんでこない。

私自身の名前もはっきりとは覚えていない。確かミッちゃんとかミーちゃんとか呼ばれていたような気がする。それがミサトなのかミチルなのか、或いは名前に関係ないのかまでは思い出せない。

家族に訊くことも出来ない。なんせ私は、車にはねられ死んでしまったのだから。

大雨が降っていたのは覚えている。外に出ていた理由は忘れてしまったが、傘も差さずに家へと戻っていた時の事だと記憶している。

後ろから猛スピードで追突されて、恨み言の一つや二つも吐けずに死んだ。


私には姉がいた。やたらとお説教じみた事をよく言う女の子だった。

イタズラをした私に『悪いことをすると地獄に落ちるよ』と言った。

『地獄って?じゃあ良いことをしたらどうなる?』と聞けば、『悪いことをしないでいれば、死んだ後には天国に行けるよ』と教えてくれた。

それから私は悪いことはしないようにして生きてきた。

だから私は、天国に来たのだと思っていた。


「ここ本当に天国?死んだというのに仕事とか、人使い荒すぎ」

「もうそれ聞き飽きたよ」

あくびが出る。仕事場へと向かいながら何度目かもわからない文句をたれる。

仕事の説明をする自称カミサマに抗議してやったが、終始にこやかに笑っているだけだった。

マニュアルとやらを渡され、エンガーユカリガーとか何とか言われたが、向かう地は知らない田舎町である。

嘆く私に突っ込みを入れたのは、同僚ってやつだ。正確には同僚なのか不明だが、同じ日に天国に来たので、勝手に同僚だと認識している。

「ああメンドクサイ…」

「じゃ、アタシの持ち場はこっちだから!バイバイ」

「はーい」


初日は真面目に仕事をしてみた。

しかし数日行うと、ちょっとサボってもバレないのではないかと思い始めた。

そうだ。死にたくて死んだわけではないのだし、死んだのにこきつかわれる筋合いはないはずだ。うんうんその通りに違いない!


一日だけサボるつもりだったが、ズルズルと一週間サボり続けた。

バレるかもと思ってまた仕事をしたが、結構手を抜いた。


初めてサボった日から三週間ほど経った。

今日も一応仕事に向かう。代わりばえしない道にも飽きてきたので、いつもは通らない所を通ってみることにした。

民家の縁側で母親らしき女性と娘が話をしていた。

「お母さん。テレビまた水不足の話してる」

「うん。梅雨だっていうのに、ここだけ嘘みたいに降らないねもんね」

「雨降らせる係の人、サボってるのかな?」

「そうねぇ。しっかり降らせてほしいわね」

親子の会話にギクッとして立ち止まる。

私の仕事は雨を降らせること。

この地域が水不足なのは、私が仕事をサボっていたせいだ。

サボっただけのつもりだったが、まさか水不足になっているとは考えていなかった。

子どもの言葉は空想の話で、実際に仕事があると知っているわけではないだろう。

けれど自分に言われているようで、何となく後ろめたい気持ちになった。



「ん?あれっ?」

「どうしたの?」

「うーん…見間違えかなあ。猫ちゃんのお墓の方に、女の人が立っていたような気がしたんだけど」

「ここに座ってたらミイのお墓の所に誰か来たら見えるから、きっと気のせいね…まあ、雨?洗濯物取り込まなきゃ」

ポツリポツリと水滴が地を濡らし始め、滝のような大雨へと変わった。

「わっ!すごく降りだしたよ!」

「久しぶりの雨だね~。あぁ洗濯物しまうの間に合って良かった」



私がカミサマに与えられた社員寮のような建物へ戻ると、部屋の扉の前に、隣部屋の住人がいた。

「どうしたの?」

「あ、丁度良かった。これ貰ってきたから、おすそ分け」

果物の詰め合わせを貰ってしまった。

「ありがとう。こんな沢山いいの?」

「いいよいいよ。僕の担当してる地域、よく果物とか酒とか入ってくるから」

よく分からないけれど、頑張った分だけ良いものが貰えるのだろう。この人はだいぶ働いているのだと解釈する。

「ん?なんだか不思議そうな顔してるね。君もそのうち立派な神様になったら、見飽きるくらいお供えが飛んでくるからね?お酒は好きだから良いけど」


部屋に帰って、貰った果物を食べた。

ここには凄そうな人もいるのかと思いながら、何となく開いてなかったマニュアルの表紙をめくった。


≪~はじめに~

あなたの担当する地域の神は、そろそろ人間にでもなってみたいと言って辞めました。

後継の者を出すように言ったところ、人間をわかっていてお利口に生きてきた猫が良いと言いました。

候補の猫たちは面倒がって引き受けなかったので、しばらく私が管理していました。

あなたはしっかりしているので、前の神も喜ぶことでしょう。

では次のページから、まずは行う事の一覧を見ていきましょう。≫

「猫!?」

神になったとか雨を降らせる以外にすることがあるとか、それよりも衝撃だった。

あぁでも、記憶の中の光景は、下から見上げる形のものばかりだ。

私はただのミーちゃんだった。きっと母も父も姉も、猫の飼い主だっただけ。

ルールなのか好意なのか知らないが、鏡を見ると確かに人間の姿が写っている。

でも、自分は猫だったのだ。



【お母さん】からのメッセージ

前の神様はどこの人間になったのかな?

招き猫とか言うくらいだから、神様になった猫も意外にいそうだね。

猫をまつった神社はあるみたい。


「へぇ~」

今回の話は、雨があまり降らないから思いついた話だった。

でも、本当に猫の神様のいる所があるなんてビックリだ。何処にあるのだろう。行ったら猫が見られるかな?

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