1「月にはウサギがいる」
「お月様にはウサギが住んでいるんだよ」
小さい頃に母さんから聞いた、月にウサギがいるという話。
大きくなった今でも、私はひそかに信じていた。
だから、そのニュースが耳に飛び込んだ途端、眠気はどこかへ消えてしまった。
「おい田中!聞いたか?月から宇宙船っぽいやつが来たんだってよ。信じらんねぇよ」
「あぁ、ニュースで今やってるよ。ロケットみたいなやつが、墜落して燃え上がってる」
昼休み。私のクラスは"月からやって来た謎の宇宙船と1体の生物"の話題で盛り上がっていた。
前の席の男子、田中はテレビ付き端末。
私の端末にテレビは付いていないから、気になって覗き見る。
その時、田中に話し掛けていた、彼の友人が声を上げた。
「おお!宇宙船から救助されたやつ、目ぇ覚ました!」
『小さい頃"月にはウサギが居る"と信じておりましたが、まさか本当に姿を見られるとは思いませんでしたね。これは私のアナウンサー人生でも3本の指に入る出来事に…あ、目を覚ましました!救急隊がコンタクトを取るとのことです』
遠目に映っていた救助された搭乗者が、テレビにアップで映りこむ。
小さい頃から見たかった、月のウサギが映っている。
私よりずっと小さい。それから、全体的にモコモコして見える。
画面の中では、怯えているのか鳴き声を上げていた。
「なっ、何なんだここは!ロボット…?囲まれ…ひいっ、近付くな!」
月にはウサギがいる。
彼らは自身のことを、"人間"と呼んでいる。
◆
【お母さん】からのメッセージ
最初の感想は私が書きます。
大きな月の人に囲まれたら絶対怖いなあー
でも現実のウサギから見た人間も、きっと怖いくらい大きいよね。
お父さんにも話をノートにまとめていること、教えておいたよ。
少し早く帰ってこれた時には感想書こうかな、だって。
「えへへ」
初めて書いたページの下に、母が感想を書いてくれた。
確かに、現実のウサギも、僕たちのことは大きく見えているはずだ。どう思われているのだろう?
"ふてぶてしい"と評判の、僕の小学校にいるウサギだったら、人間を怖がっていないと思う。
「ふわぁーあ…あっ、10時過ぎてる」
嬉しくて何度か読み返すうちに、時計は10時をまわっていた。そろそろ寝ないといけない。
なんだか今日は、いい夢がみれそうだ。
僕はノートを閉じ、電気を消した。おやすみなさい。