ボクと愛欲のおさげ2
フィッティングも兼ねてもう一度裏の射撃場に行った。ルムは店主に手取り足取りで構えから教わり、的に向かって発砲した。
ポスン
リミッターが付いているので威力はなく防弾の壁に弾は吸収された。的には傷一つ付いていない。
「……ルム?」
「嬢ちゃん、あっちの的はもう少し大きいから狙ってみようか?」
ポスン
やはり的は新品同様だ。
「ルム?」
「だからボクは武器を振り回す方が性に合ってるんですよ!」
「嬢ちゃんは絶望的に射撃センスがないんだな……。旦那、いいのかい?」
「……構わない。俺が教える」
冷静さを保って言い切ったように見えたサンダーだが、突然身震いした。
「この程度の精度で、石を壊そうと撃ったのか。改めて考えると恐ろしいな。なぜあの時はちゃんと狙えたんだ?」
「まぐれ当たりです!」
ルムはやけっぱちになって答えた。
***
店舗に戻ると店主が立派な黒い革張りのキャリーケースを用意してくれた。
「お嬢ちゃんならまあ楽器を持ってるように見えるし、問題はないと思うな」
「ありがとうございます」
ルムは小さな体で大きなケースを抱えるように持った。その姿を見て、店主はルムに聞こえないようにサンダーに耳打ちした。
「……旦那。アレに手を出したら犯罪じゃないのか? まだ十四、五だろ?」
「まだ出していないし、彼女はあれで十九だそうだ」
銃のケースを抱えてどことなくはにかむルムを、サンダーは本当に愛しそうに見つめている。
──あの子は俺の恩人であり、きっと出会うべくして出会った運命の相手なのだろう。
サンダーもまた、ルムからもう離れられないという予感がしていた。
出会ってわずか一日であるのに、彼女に惚れ込んでしまった。強気で高飛車な態度も、最初に見せた弱さを隠す故だと思えば愛くるしくてたまらない。
しかしその中に見える気高さや優しさもまた彼女の魅力。
──ボクだって、この人に死んでほしくない!
ルムのあの一言が、自分を救った。あの子にそう望まれた。だから生きる。
今まで出会ったどの女性よりも、『元』男であるルムに惹かれて止まない。恋に落ちるのに時間は要らなかった。人も車も恋も急には止まらない。
「ルムは俺にとって『本気の恋』の相手ということか……」
「何か言いました?」
思わずこぼれた言葉を、幸か不幸かルムは聞き落としていた。
***
二人はサンダーの顔なじみの店に行き、ルムの服を仕立ててもらった。基本は元の服装に近い。ただブラウスの生地はしっかりしたものとなった。パンツは前のものよりも少し裾を長くし、膝が見えるくらいだ。ポンチョも新調した。
仕上がったものを紙袋に入れてもらい受け取ると、ルムがサンダーの服の袖を引っ張った。
「もうそれに着替えていいですか?」
彼女は少しばかり駄々をこねた。
「どうしてだ? テイラーの作ったワンピースが不満か?」
「彼が作ってくれたのはいいんですけど……。スカートだし。こんな女の子らしい格好は本当はしたくないんですよ……」
ルムは着慣れないスカートにずっと我慢していたようだった。心なしか目が潤んでいるように見えた。着替えか銃かと問われれば彼女にとって銃の方が優先事項だったが、いざ新しい服を見たら今の恰好をしている自分が惨めに感じたのかもしれない。
サンダーは優しく彼女の頭を撫でた。
「さすがにこの町でも冒険者風の恰好は浮いてしまう。あとは買うものはないし帰るだけだから少しの辛抱だ。ごめんな」
サンダーは体を折りルムの額に自分の額をコツンとぶつけた。目の前にむくれたルムの顔がある。
しかしルムはやや目を伏せて言った。
「この服を作ってくれた人には感謝してますし、貴方に謝ってもらうつもりでもないんです。我が儘言ってごめんなさい……」
ルムには誇りと分別があるためか、こうしてしおらしく素直になるところもまた可愛かった。本当は「似合っている」「可愛い」と言ってあげたいが、今はルムをさらに追いつめるだけだ。サンダーはその言葉を心に留めることにした。
店の外に出たサンダーはパンツのポケットから手のひらサイズの透明の板を取り出した。
「それって通信用の念導器ですか?」
ルムが興味深げにサンダーの手の中の物体を見ている。
「そうだ。ルムは持っていないのか?」
「家にいるときは持つ必要もなかったので持たされませんでしたし、持ちたいとも思いませんでしたね」
「今やほとんどの人間が持っているというのに……。箱入り娘だったんだな」
「息子です!」
ルムの話を聞く限り、この子は肉親の目の届く範囲で生きてきたのだろうし、交友関係も限られていたということが窺えた。
だがこの子はそれを柵だと感じていなかったのかもしれない。だからこそ今もたった一人でこのように自由に行動している。
サンダーはふふっと笑った。
「まるで糸の切れた凧だな」
「何がですか?」
「何でもない」
サンダーは通信用念導器の表面を人差し指の腹でなぞり、それを終えると口元に近付けた。
「ゲン、そっちの買い物は終わったか?」
『ボス、テイラーがまだ布を見たいそうです。もう少しいいですかね?』
その透明な板からゲンの声が聞こえてきた。
「わかった」
答えるとすぐサンダーはその板をカーゴパンツの尻ポケットにしまった。
「向こうはもう少しかかりそうだと。どこかで休憩しようか? いいか?」
「それくらいだったらいいですよ」
***
二人は通りに面したカフェのテラス席で、それぞれオーダーしたドリンクを飲んで一息入れた。ルムはミルクたっぷりのカフェラテに砂糖を入れて飲む。一方でサンダーは名前の覚えられないような茶葉の紅茶をオーダーした。テラス席で長い脚を組んで飲む姿は優雅以外の何物でもない。
重いものを背負った者同士なのに、和やかに他愛もない話をする。【魔女】のもとに辿り着くまでにこんな時間を過ごすなんてルムは想像もしていなかった。
サンダーがポケットから再び通信用念導器を取り出した。
『ボス、こっちの買い物は終わりました。合流しましょう』
「わかった」
あちらからの連絡だ。待ち合わせ場所をサンダーとあちらで決めたようで、彼は念導器をポケットにしまった。
「向こうが買い物を終えたらしい。合流しよう」
「わかりました」
カフェを出て再び通りを歩き出した。今まで一人で歩いてきたときにもジロジロ見られていたが、サンダーと歩いているとその頻度が増す。サンダーは目立つのだ。背の高さも整った容貌も。ただし『連れがいる』というように見られるのか、ルムは情欲に満ちた目で見られることはそう無くなった。それはメリットなのだろう。
「あの、すいません」
後ろから声をかけられ、二人は振り返った。そこには内気そうなおさげの女の子がオズオズした様子で立っている。
「はぁ」
全く知らない子だ、とルムは思った。元の姿のときからの知り合いにもこんな子はいない。
「あの、そちらの女の人に、伝えたいことがあって」
「あ、ボクですか?」
「私の彼氏を、誑かさないでください!」
意を決したように少女は叫んだ。
はぁ? とルムは呆気にとられた。
そんなことをした記憶はない。それ以前にこの町に入ってから自分に接触してきた人物なんて訪れた店の店員達とユーとサンダーとその仲間くらいだ。彼らに誑かされた様子はない。とんでもない言いがかりだ、とルムは反論しようと一歩踏み出した。
「それは不運だった。だが俺はずっと彼女と一緒にいて、彼女は他の男を誑かすような行為はしなかった。君の彼氏がこの子に目移りしたというなら俺がそいつを叱ってやる」
ルムと少女の間にサンダーが割って入り、ルムの足止めをした。
「そんなこといいの……。ただ……」
少女は俯きながら、声を振り絞るように呟いた。
その顔の脇で何かがキラリと赤く反射した。
「サンダー!」
咄嗟にルムが叫んで、サンダーの巨体に体ごと飛び込み脇腹に体当たりをした。彼がわずかによろけた拍子に、サンダーが元いた場所にルムが入れ替わる。
その刹那、何かが飛んできた。
「くっ」
ルムが短く呻くと同時に、彼女の体は宙に浮かんだ。彼女の首には縄のような物が巻き付き、それで締め上げられている。その縄は少女の頭から生えていた。縄ではない。縄の正体は彼女の『おさげ』だった。
「私から彼を奪うからこうなるのよ。早く謝りなさいよ」
「ルム!」
サンダーはすかさずその長い脚で少女を蹴った。不意打ちか速さについていけなかったのか、少女はまともにサンダーの右脛を脇腹に食らった。
「……っ!」
声もなく少女は蹴り倒され地面に転がった。その瞬間にルムを縛っていたおさげが緩み、ルムもまた地面に落ちた。サンダーはむせるルムを抱き上げ駆け出す。『念導銃』や着替えも忘れずに抱えた。
「謝るだけ……謝ってくれるだけでいいのよぉっ!」
サンダーの肩越しから、地面に伏せたまま叫ぶ少女がルムには見えた。彼女の咆哮に呼応するようにおさげが勢いよく伸び、ルム達を追いかけてきた。おさげは彼女達を打とうと撓う。
「サンダー! 右!」
ルムが叫ぶとサンダーは左へ体を傾けた。おさげの鞭は宙を薙いだ。直撃は免れたがその先っぽはサンダーの頬を掠め、その痕は一筋の赤い線になり血が滲んだ。
「何て凶悪なおさげだ」
「冷静に言ってる場合じゃないです! とにかく撒かないと!」
サンダーは店と店の間の狭い路地に滑り込んだ。直後に建物の角に、おさげの先端がめり込んだ。
──あんな伸縮自在じゃあの女との距離がわからない!
ルムは不安に駆られた。撒けないんじゃないかとさえ思った。
しかしサンダーは迷いなく走り続けている。
***
路地の細いところ細いところを選んで走り続けたが、ついにサンダーは足を止めた。
「疲れましたか?」
「いや、このままだと埒が明かない。あのおさげの少女がどこから俺達を見ているかわからない限り撒くことはできない。あいつらを巻き込んだらいけないから合流も出来ないな……」
サンダーもまたルムと同じことを考えていたようだ。
「サンダー、聞いてください」
「どうした?」
「彼女もまた、【魔女】に呪われているかもしれません」
「どういうことだ?」
さすがにサンダーも驚いたようだ。
「彼女の耳に、サンダーが怪物の時に付けていた赤い石が耳飾りになって付いていました」
「ならばどうして他人を襲うのか……」
「それはわかりません。ですがあの石を壊せば、呪いが解けるわけではないですがボク達が逃げる隙はできるかもしれません」
「そうか」
それだけ言うとサンダーは突然シャツを脱ぎ上半身裸になった。次は腰のベルトを緩めている。
「何しているんですか!」
「呪いを制するには呪いしかない。生身ではあのおさげの動きについていける気がしないが、あの怪物なら真っ向勝負ができるだろう」
「そんな……」
サンダーはポケットから通信用念導器を取り出すと、ルムのワンピースのポケットにそれをねじ込んだ。
「あのおさげがここに来たら俺が足止めをする。その間にルムは俺とおさげから離れてあいつらに連絡を取ってくれ。そうしたら先に町から離れるといい」
ルムは無言で首を横に振る。サンダーにそんなことをさせるつもりで【魔女】の呪いの可能性を告げた訳ではなかった。
サンダーはルムの顔を両手で挟み、優しく触れるようなキスをした。
「ルムは俺に『死んでほしくない』と言った。だから生きて戻るから、心配するな」
そっと顔を離すと、サンダーは一歩後退し目を閉じた。さぁっと柔らかな風が吹く。瞬時にあの青い怪物が姿を現した。
怪物は前傾の姿勢でゆっくりと顔を動かしたり体の向きを変えたりしている。耳をピンと立ててあちこち向けたり、鼻をひくつかせている。警戒をしているようだ。
ひゅん、と風を切る音が聞こえた。
『グルゥアアアァァァッ!』
怪物は壁に右の手のひらを叩きつけた。壁と手の間に、おさげが挟まっている。ルムにはおさげがどこから、どこに向けて飛んできたのか見えなかったが、怪物にはしっかりと見えていたようだ。
怪物はルムの方を向き「グゥゥ」と威嚇するような声を発した。
──彼は「逃げろ」って言ってるんだ……。でも
ルムはサンダーの意図を無視すると決めた。
「貴方を置いて逃げるなんて出来ません! ボクも戦います!」
怪物は「ガゥッ」と怒ったように吼えた。
だがそれさえもルムは無視し、抱えていたキャリーケースから買ったばかりの『念導銃』を取り出す。
『グゴオォォン!』
怪物が今度は左手を振った。怪物の左腕におさげが巻き付く。巻き付かれたまま怪物は左腕を後方へ振った。
「きゃあっ!」
路地の角の向こうから、姿は見えないが彼女の声がした。近くまで来ている。
「邪魔しないで!」
少女の声が聞こえた途端、怪物の体が滑るように動き始めた。壁にぶつかりながら少女の声のした方へと猛スピードで引き摺られていく。
「サンダー!」
ルムも銃を構えて後を追った。着替えが入った袋が腕に掛かっていて、走るのに邪魔になっていることに気付かないほど焦っていた。
***
「何だ? カミナリか?」
ゲンが周囲を見渡しながら呟いた。
「雨が降ってなくても雷が落ちることがあるらしいっすね。どっか屋内に避難しましょうや」
テイラーは周囲にすぐに入れる店を探している。
だがその雷鳴にトロは立ち竦んでいた。
「トロ、どうしたの?」
そのただならぬ様子にユーが不思議そうに声をかけた。トロは遠くを見ながら、信じられないといった様子で呟いた。
「ボスの声だ」
「え?」
「ありゃあボスの声っすよ! ボス達に何かあったんだ! ゲンさんは車をすぐ出せるよう準備してくだせぇ!」
突然トロは叫ぶと、そのまま走り出した。ユーも訳が分からないままトロの後を追って走り出した。
「おいトロ! どうしたってんだ! しかたねぇ。テイラー、追ってくれ! 俺は言われた通り車の準備をする。お前は俺に連絡入れる係だ」
「了解っす」
テイラーもトロとユーを追って走り出した。
***
「何よ……。この化け物」
少女は一度おさげを怪物から離し、一歩、二歩と後退した。二人は大通りで五メートルほど距離を開け、対峙していた。怪物は少女のおさげにより路地から引き摺り出され、白日の下にその異形が晒された。
「う……うわ、化け物!」
「ひえぇ」
叫びながら逃走する人や逆に駆け寄る野次馬に阻まれて、ルムはなかなかサンダーに近付けずにいた。
──ギャラリーが邪魔だ!
ルムは舌打ちをした。
だが人の波に逆らい進んでいたルムは突然右の腕を掴まれ後方に引っ張られた。
「な……!」
「ルム、ボスはどうした!」
自分の腕を掴んでいたのはトロだった。
「サンダーはあっちで、女と戦ってます!」
「どういうことだってばよ!」
「わかりません! ボクが聞きたいくらいですよ。とにかく言いがかりをつけられたんです、サンダーは悪くありません! あ、これ持っていてください!」
ルムはサンダーに押しつけられた彼の通信用念導器と着替えの入った袋をトロに押しつけた。
「ルム!」
次に自分を呼んだ声の主はまっすぐルムに飛びついた。
「ユー!」
「ルム、大丈夫?」
「ボクは大丈夫です。でもサンダーが」
「よく見たらルム、お前物騒なもの持ってんじゃねぇか! 目立っちまうぞ!」
トロはルムが『念導銃』を手にしているのを見て言った。
「サンダーを助けるんです」
「そんなもん町中で持ってると警備兵が来るぞ……ほら!」
通りの向こうから確かに十人くらいの制服の男達が銃を携え駆けつけてきた。
「とりあえず隠せ!」
トロに従いルムは背に銃を隠した。トロとユーもまたルムの銃を隠すように立つ。
だが警備兵は彼らの前を素通りし、野次馬を追い払っている。
「ほら、離れた離れた!」
警備兵は野次馬達を追い払っている。そのおかげでサンダーの様子がやっと見えた。
『グガァッ!』
怪物が地を蹴って少女に飛びかかる。
だが少女のおさげの先端が怪物の鳩尾に向かって伸びる。怪物は空中で体を捻り、すんでのところで回避して地面に転がる。少女との距離は縮まらない。
怪物は少女の耳飾りを狙っているが、凶器と化したおさげにより近づくこともままならない。
「まずいぞ……。これじゃあ『怪物』と『怪物と戦う勇敢な少女』って構図じゃねぇか……」
確かに少女が勇敢にも怪物と戦い町を守るように見えなくもない。これではどちらが悪いのかわかったものではない。
警備兵が二列に並んで銃を構えた。銃口は全て怪物の方に向いている。当たり前だ。怪物対人間なら、誰もが怪物を悪で敵と決めつける。
「おい警備兵! 良いところにいた!」
突然警備兵に向けて呼びかける大声が響いた。銃を構える警備兵に駆け寄るのは、立派なリーゼントを持った若者だった。
──テイラー?
テイラーは警備兵が銃を持っていることもすぐそこに怪物がいることも構わず話しかける。
「ちょっとすんませんけど、そこでスリに遭っちゃったんすよ~。犯人を見つけ出してとっちめてくれません?」
「い……いや、我々が何をやっているのかわからんのか!」
「ああ?」
警備兵の指揮をとっているリーダーの言葉にテイラーが片眉をつり上げた。
「いいんすか? 町の平和を守る警備兵が市井の人間の言葉を無視して?」
「君の財布は後にする、今はあの怪物を撃退しなければならない!」
「あの怪物を撃退するのと俺の財布、同じくらい大事でしょう?」
「無茶苦茶だ!」
テイラーは警備兵のリーダーにタチ悪く絡み始めた。銃を構えている部下達はリーダーの合図がなく撃てない。
そのやりとりを見て、ルムは駆け出した。テイラーが時間稼ぎをしてくれたことに気が付いた。
怪物と対峙していた少女が突然向きを変えた。そしておさげを素早く伸ばす。それはルムを瞬時に捕らえた。ルムの胸から腰の幾重に巻き付き、その細い体を締め上げる。
「くぅ……」
苦しそうな息が彼女の喉から漏れる。『念導銃』が手から離れ、地面に落ちる。
「ルム!」
「おいルム!」
ユーもトロも青ざめた顔でルムの名を呼んだ。
少女はすぐさま余っている片方のおさげを宙にめがけて伸ばした。おさげの先端は近くの四階建ての屋上の柵に絡まった。
『ガァァァァッ!』
怪物の咆哮が空気を震わせた。地を蹴り、おさげの少女めがけて自らの長い爪を振りかざした──
しかし、怪物の爪が少女に届くよりも先に少女が動いた。真上へ。少女の体が逆バンジージャンプをするように舞い上がる。柵に絡んだおさげの軌跡を辿り、彼女はルムを連れたまま建物の屋上へと昇った。
『グルゥアッ!』
怪物は一度吼えると、彼女が昇った建物の壁へと飛びかかった。手と足の鋭い爪がスパイクとなり壁に食い込む。垂直の壁をものともせず登り始めた。
「サンダー、すごく怒ってる……」
ユーが呟き、小刻みに震える自分の腕をさすった。
「ちんちくりん、俺達も行くぞ! ルムの銃を持ってきてくれ!」
トロが叫んだ。ユーは慌ててルムの『念導銃』を拾い上げ、おさげの少女が昇った建物の内部へと駆け込んだ。