装填中
トラックはとある町の入り口で停まり、ルムは荷台から顔を出した。
「ここにユーの家があるんですか?」
「うん」
緑に囲まれた丘陵の町の家は白い壁にオレンジ色の屋根で統一されている。穏やかで町中が花壇の花で彩られている様子はユーにぴったりだった。
先に車から降りていたサンダーがユーを抱え上げ荷台から下ろした。それを横目にルムは一人で荷台から飛び降りる。それを見てサンダーは残念そうな表情を浮かべた。
「待っていれば俺が下ろしてあげたのに」
「そうはさせるかって思ったんです。貴方はただボクの体に触りたいだけでしょう?」
その二人のやりとりを見ていたユーの目に涙が浮かび、またグズグズ泣き出した。
「どうしたちんちくりん?」
「また泣いてる」
ユーは両手で目を擦り涙を振り落としているが、次から次へと溢れる涙はユーの顔をあっという間に水浸しにした。
「だってみんなともうお別れだから……っ」
そう言うとユーは声を出して泣いた。ユーは若いし家族もいる。おまけに貧弱だし、何より【魔女】とは因縁もない。だから自分達の『呪いを解く旅』には同行させられないとルムとサンダーは決断を下し、彼を家に帰すことにしたのだ。
ユー自身はルム達の旅について行くつもりだったそうだが、それはさせられなかった。
「何度も説明したでしょう? ユーは危険な事態に対処できる力を持っていないんです。貴方に何かあったらボク達が辛いです」
「強かったら一緒に旅に行けた?」
「さあ……どうでしょう」
「うー……」
ぎゅっと瞑った目から涙をこぼし続けるユーの頭をサンダーが撫でた。
「ちんちくりん、これが最後じゃないんだ。俺達はまた会いに来る。友達なら当たり前だ」
友達、という言葉に安心したように泣き声は止まり顔を上げた。
「本当に? 絶対に会いに来てね」
「近くに来たときは必ず顔を出す。約束する」
「次に会うときはボクはこの姿じゃありませんから、来てもわからないかもしれませんけどね」
「そんなことない! ルムだったら絶対わかるよ!」
何の根拠もなくユーは言い切った。彼ならば本当にわかってくれるかもしれない、わずかにそんな風に感じられた。
「ユー……また会いましょう」
ルムはユーに歩み寄ると、その細い両腕をユーの肩に回ししっかりと抱いた。ルムの胸に寂しさが去来する。共に過ごした時間はわずかだが、穏やかで素直な彼を友と呼べるように思っていた。今生の別れにするつもりはないが、やはり離れることを寂しく感じた。
ルムも目頭が熱くなる。最後じゃないんだから泣いてはいけないとぐっと堪えようとした。
「ちんちくりんーっ!」
「俺達も寂しいんだ!」
「うっ!」
サンダーの仲間達が叫びながらルムを突き飛ばしユーを囲んだ。その傍らでルムは地面に転がっている。大の男達が寂しさのあまりやかましく男泣きしている。せっかくしんみりと終わらせられそうだったのに。そのようにもみくちゃしているうちに、なぜかユーは胴上げされて宙を舞っていた。
「意味が分からない……」
ルムは呟きながら立ち上がり、服を手で払った。せっかくの涙の別れも荒くれ者達に台無しにされ少しむくれた。そんなルムの傍にサンダーが来て苦笑いした。
「あいつらもあいつらなりに寂しいんだ。それにお前達にしんみりした別れは似合わない。また会うんだから、元気に別れよう」
「……そうですね」
彼の言葉を聞きルムも笑みがこぼれた。
またボク達は会える。その想いがきっとボク達を引き寄せると強く感じた。
***
「『闇の力』が……弱まらない」
金髪の少女が見えない何かをキッと睨む。凛々しくも愛らしいその顔は『天使』と形容されるに相応しいくらいだ。
だが彼女はその顔にそぐわない白銀の鎧を纏い、何か大事な使命を帯びたように表情を引き締めている。
「どうして……『中和』したはずなのに強くなっていくの?」
「ほほ……そんなに『闇』を排除しようとがむしゃらにならずとも」
彼女の背後に黒い靄が現れ、収束し、人の形を作っていく。振り向いたその視線の先には、黒いドレスを纏った妖艶な女性が立っている。少女はその妖艶な女性に向かって宣言するように言う。
「『闇』が世界を覆ってしまえば、世界は終わるわ。でもそうはさせない。生命は光を求めるの。闇に包まれたら生命は生きていけない。それだけは阻止するわ」
「ほほ、しかし闇が訪れなければ生命は眠ることもできぬ。完全に『闇』を排除したとて、生命が生きていけぬのは同じこと」
「そんなことないわ。真の『光』の中ならば休息だってできるの」
彼女はもう一人の女性の言うことに耳を貸すことはない。
「それに、『闇』を排除したいのならば、そちがまず排除すべきはこの【闇の魔女】と称される妾なのではないのかえ?」
「貴女は【闇の魔女】と言われていても、その本質は『闇の力』ではないわ。【魔女】に属性なんてないもの。だから私は貴女を排除しない。いえ、力を貸してほしいの」
「せいぜい気張るがいいわ、【光の魔女】よ。妾は妾のやりたいようにしかせぬ」
そう言うと妖艶な女性は再び姿を黒い靄へと変え、消えた。
「彼が【賢の魔女】の後ろ盾を得たなんて。手を打たなくちゃ……」
白銀の鎧の少女はそう呟くと、彼女の身もまた白い靄に包まれその中に溶け込んだ。




