2度目の目覚め
「ねぇ・・・あの人大丈夫なの?ユアル草原で気絶してからもうずっと目を覚まさないよ。」「落ち着けフィアまだ3時間程度しか経っていない、メリッサ医師にちゃんと治療してもらってるし何より目覚めなければ私たちが困る。」「治療代高かったですもんね~。」・・・・・・起き抜けのような意識に靄がかかった状態で巴の耳は誰かの話し声を聞いていた。もっとも巴の脳はまだ覚醒しきっておらず声が聞こえても内容までは理解できない状態だったが。「フィア、珍しいからといって何でもかんでも拾ってきてはいけないぞ。」「まあまあフロストさんいいじゃないですか。それにしてもあの少年・・・烏の濡れ羽色の黒髪に女性的で柔和な面立ち。ふふ、フィアさんはこういうのがタイプなんですねぇ。キャーー!!」「そんなんじゃないわよエレン!フロストもニヤニヤするな!。」・・・なにやら盛り上がってるらしい。「そういえばフィアは学院にいた頃からよく恋文をもらっていたな、まぁ全て女性からだったが。」「フィアさん・・・やっぱり女性の方が・・・」「人の黒歴史ほじくり返してんじゃないわよ!あとエレン!私から距離を取ろうとするな!」「お前ら静かにしろここは病院だぞ!」ガンッ、ゴンッ、ガンッ。・・・話し声(と打撃音)は思いの外大きく二度寝することもできなかったので仕方なく巴は上半身を起こす。どうやらここはモグラと戦った草原ではなく屋内のようだった。広さは学校の教室程度だろうか、床や壁がリノリウムではなく石材と木で作られている。開きっぱなしのドアからはヒソヒソと話し声が聞こえてくる。どうやらあそこから聞こえていたようだ。ドアからすぐには使い込まれたのだろう所々塗装のはげた机と椅子がありそこから少し離れたところに椅子がもう一脚ある。机の隣には棚がありその中には見たこともない植物や何が入っているのかもわからない瓶が所狭しと並んでいる。入口から一番遠いところにはベッドが二つ向かい合うように設置されており片方には自分が寝かされている。机とベッドの間にはカーテンがかけられるようになっている。(宿泊施設・・というより保健室みたいだな。)自分以外誰もいない部屋で学生らしい発送をする巴。巴はベッドから降り自分の状態を確認した。(傷が治ってる・・・)巴が覚えている限りでも十数カ所の裂傷と全身打撲の大怪我を負っていたはずだ。しかも体には包帯や傷跡も無くまるで初めから怪我なんてなかったかのようだった。(一体どうなってる・・・)巴は混乱しながらも部屋に一つだけある窓を開け更に驚愕した。
窓の外は中世ヨーロッパのような景色が広がっていた。建築物は石材と木で出来ており高くとも2階建てぐらいしかない。地面は石畳で舗装されており馬車と歩行者が行き交っている。有り体に言えば昔ながらのファンタジーを舞台にしたゲームのような景色が広がっていた。
(まさかこれって・・・)自分の目に映った景色にありえないと思いながらも巴は一つの仮説を否定できない。
「目が覚めたようだね。」と、まるでタイミングを見計らったかのようにメガネをかけた白衣の女性が部屋に入ってきた。歳は20代前半といったところか、長い亜麻色の髪を一つにまとめている。白衣を着ているので恐らく看護師ではなく医者だろう。とりあえず目の前の女医に説明を求めようとする。
「あの~~・・・」「待った。色々と聞きたいみたいだがまずはこっちの方から君に質問させてもらう。お前ら入ってきていいぞ。」女医はそう言って主導権をにぎったあと入口に声をかけた。するとドアから3人の女の子が(何故か痛そうに頭を抑えながら)入ってきた。