見知らぬ景色
視界一面に青色の絵の具をブチまけたかの様な雲一つない快晴だった。
その景色に何を思うでもなくただボーっと見ているだけだった『樋口巴』(ひぐちともえ)は身を起こそうとしそこでようやく自分が草原の上で仰向けで寝ていたのだと気づいた。
「あれ、ここどこだ?」目が覚めて見知らぬ景色に疑問を発しながらも周りを見渡す巴。手のひらを地面に付けば手首を覆い隠す緑の草は心地よいくすぐったさを感じるさせる。それが地平線まで続いている。上を見れば青色、前を見れば緑色。なるほどこんなシチュエーションでならお昼寝してしまいたくなるなと巴は一人納得した。
(いやいや納得してる場合じゃないよ。)一人ツッコミをいれてる場合じゃない。まずは状況整理だ。(今日は高校の入学式だったはず・・・教科書貰って家に帰る途中だったのは覚えてる・・・。)とりあえず記憶を掘り起こそうとする。が、腹が空いていることに気づいた。(そういや朝メシ食ってから何も食ってなかったな・・・)空腹に逆らえず思考を中断させる。今は腹を満たすことが先決だ。「なんかないかなぁ~」と、まるで深夜に冷蔵庫を開けるかのようなノリで辺りを散策する巴。・・・遭難時にはその場を動こない方が良いのだが巴にとっては空腹の方が優先事項の高い案件なのだ。(遭難って決まったわけじゃないし~)と、九割行き当たりばったりで散策していたところ見覚えのあるものを発見する巴。(あれは俺のカバンじゃないかあの中に食べ物があるかも!!)それは巴の通う学校指定のカバンだった。しかも見たところ中身がいっぱいなのかその黒色のカバンは目一杯空気を入れたかのように膨らんでいる。(よし!この際内容は問わない!食べられれば何でも良し!)砂漠でオアシスを見つけた旅人のごとくカバンに猛ダッシュで肉迫し封を開けると、
20冊以上ある教科書がパンパンに詰められていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」無言になりながらそういえば今日は入学式で教科書をもらったんだっけ~と思い出す。ならばと自分の着ている制服をまさぐり始める巴。(ガムでもタブレットでもなんでも良い。何かないのか)・・・傍から見れば奇行にしか見えないが本人は必死なのだ。そして1分も立たないうちに発見したものは・・・「スマホだ!これを使って出前を呼べば・・・ていうかもう直接助けを呼べばいいじゃん!」紆余曲折あったがこれで帰れると110番に電話をかける巴。しかし「おかけになった番号は電波の届かないところにあるか現在使われておりません。」帰ってきたのはそんな定型文だった。