カーテンと窓
クリーム色のカーテンはまるで隔離壁のようで、地下施設の閉ざされた空間に押し込められているような圧迫感が体に強い圧をかけた。
朝になって耐えきれず、照明を落としてみれば、モニターの灯りだけが室内に灯る唯一の光源で、よくこんな世界の中で生きているものだなぁと呑気な感心が心を撫でる。
恐る恐るも、手のひらの隙間程だけカーテンを開いてみる。
窓についた水滴が、悲しげに流れて落ちてゆく。
室内に差し込む光は弱弱しく、そして優しかった。
「覗いているのは自分かな。それとも外の世界がこちらを覗いているのかな。」
問いに答えるものはなかったが、代わりに路傍に植えられている痩せた緑樹がけだるそうに頭を下げた。
「はい、おはよう」
気が付けば、閉ざされた世界にいた時の圧迫感はもう体から離れており心は軽く自由だった。
溜まらずに思いきって片方のカーテンを開け放つ。
水滴に染められた窓は外を朧気に崩し、流れ落ちた水滴の通り道から見える景色だけを楽しんでみる。
「なんだぬか喜びだったな」
カーテンの隔離壁を解き放っても、その奥には二重の窓がそびえているのだから、許された自由なんてちっぽけな通り道ぐらいの細い隙間だけで、それに喜んだ自分がつまらないものになったような気が落ちる。
せめて音だけでも、と耳をこらしてみれば、正面を横に遮る道路の突き当りの大通りを、雨しぶきを跳ね上げて走る車の音が重々しく押し寄せた。
雨滴を受けて窓が泣いているのを見ると、少しだけ切なくなる。
何も空しいのは自分だけではないのだと、気づかされた。
窓はその役目をはたしているだけで、邪魔者扱いされる事に馴れていないのかもしれない。
ほんの少しだけ優しくしてやろうと思った。
具体的に今すぐ何をするということもないけれど、晴れた日には拭いてやろうかなと思うぐらいには親しみを感じる。
閉ざす役割しか持たず、ただ重苦しさを与えてくるカーテンはまだ嫌いだから、今は何もしてやらない。
いつか好きになった日があれば洗うぐらいのことはしようか。
でも今は窓と仲良くさせてもらおう。
夜はそちら同士で仲が良いけど、朝になればこちらのものだから。
そんなに泣かないで。